第一章 ラブコメ編⑨

 「なんであいつが急にモテ出したんでしょう?」


 と、一度クールダウンを挟んでだ蛍が正面の詩録に問う。


 一方、詩録は眉間を揉みながら、一度溜め息をついた上で


「たぶん、『ストーリーライン』だな。『ラブコメ』みたいな物理法則を逸脱していないわかりにくいジャンルでは判別がつきにくいが、そもそも俺のとこに相談が持ちかけられている時点で、『ストーリーライン』絡みの厄介ごとなのはだ」


「あー、確かに。本来の詩録くんの『ミステリー』の『ストーリーライン』が歪んだ結果なんだから、それもそうか。君のとこに持ちかけられている時点で、『ストーリーライン』が関わっていることは確実なのか

 

 と、納得した様子の上級生二人であるが、蛍は話にイマイチついていけず可愛らしく首を傾げながら尋ねた。


「? えーっと、その『ストーリーライン』っていうのはなんなんですか?」


「ああ、『ストーリーライン』ってのはな──」


 そして、蛍に『ストーリーライン』の概要と、おそらく今回の出来事が『ラブコメ』の『ストーリーライン』が関わっていることを詩録は説明する。そのうえで


「今回の一件における物語軸保有者ストーリーラインホルダーはお前の幼馴染じゃない。──だ」


 そう言われた蛍の思考が停止する。


 今回の相談、一見すれば蛍の幼馴染──来都が『ラブコメ』の『ストーリーライン』を保有しているように思える。実際、『ストーリーライン』の説明を聞き、そう思っていた蛍であるが、その予想が裏切られ、固まる。


 だが、詩録はそんなことに構わず饒舌に謎解きを始めた。


「なぜお前の幼馴染が急にモテ始めたのか。別にそいつはイメチェンしたわけでも、惚れさせ薬を服用したわけでも、女子を落とすテクニックを磨き出したわけでもない。『ラブコメ』の『ストーリーライン』の特性──異性とのエンカウント率とイベント数の操作によるものだ。だが、ここで疑問が出る。──


 来都が『ラブコメ』の『ストーリーライン』を持っていたとする。それを仮定をして設定した場合、彼はその特性によって転校生の美少女や可愛い後輩ちゃん、美人生徒会長などとお近づきになったのだろう。だが、ならば蛍は? なぜ、来都と──中学高校で多少疎遠になったとはいえ──親しい関係にある蛍はその影響を受けない?


「あたしがあいつにアプローチをかけようとしたこと自体が『ストーリーライン』も影響で……」


「いーや、『ラブコメ』の『ストーリーライン』には人の精神に干渉するほどの能力はない。だから、お前がそいつにアプローチをかけようとしたのは紛れもなくお前の意思だ。……付け加えるならば、その幼馴染の妹もがっつり『ストーリーライン』の影響を食らっている。影響を受けた結果、思春期でできた兄との溝も埋まり、デレデレしてるんだろ」


「じゃあ、『ストーリーライン』とは関係なく、あたしがあいつにアプローチをかけようとしたんじゃないですか?」


「いーや、それはあり得ない。。『ストーリーライン』が関わっている以上、『ストーリーライン』と無関係な事柄は存在しない」


 その険しい目つきをさらに鋭くし、詩録は断言した。


 そして、


「なら簡単だ。『ストーリーライン』が周囲にばら撒く影響を受けない人物。それは間違いなく、『ストーリーライン』を持っている本人だけだ」


 

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