この物語はフィクションです。─実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。─

鏡 大翔

序章

 現実リアル物語フィクションは違う。


 オタクに優しいギャルは存在しない。


 可愛い幼馴染はいない。

 

 美少女は転校してこない。


 あざと可愛い後輩はできない。


 美人な義理の姉妹はできない。


 学校一の美人生徒がマンションの隣に住んではいない。


 美少女に勉強を教える機会はない。


 そもそも学年一や学校一の美少女など存在しない。


 美人の先輩とは話すことさえない。


 美人の先生の家には行く機会はない。


 初恋の人には再会しない。


 学校の屋上には行けない。


 カラフルな髪の生徒は存在しない。


 生徒会に権力などない。


 特殊な活動内容の部活は存在しない。


 ブラコンな妹などいない。

 

 友達の母親は姉と見間違うほど若くない。


 ラッキースケベは起こらない。


 テロリストが学校を占拠などしない。


 ゾンビパニックは起こらない。


 トラックに轢かれても異世界に転生できない。


 漫画やアニメ、小説で見かける定番のあれやこれは現実には存在し得ないのだ。そんなものは幻想だ。


 そう、幻想なのだ。泡沫の夢なのだ。


 きっと誰しも一度は憧れた。例えば、高校に入学するとき、そんなことはあり得ないと頭で分かっていても、もしかしたら『物語』のようなことが起こるのではないかと一抹の希望を抱いただろう。


 そして、現実はフィクションとは違うということを身をもって理解しただろう。


 しかし。


 しかし、世の中にはそういったフィクションのようなことが現実で起こる人たちが存在する。


 そして、そういった人たちはこう呼ばれている。


 と。


 * * * * *


 たのなら、図書館にいる彼へ相談しに行けばいい。


 ただ漠然と、伝える方も伝えられる方も意味を理解していないそんな噂があった。


 だが、水本みなもと来都らいとはそんな怪しい噂にでも縋らなければならないほど追い詰められていた。


 放課後、来都は勇気を振り絞って、彼が通う学校──奏朔そうさく高校の図書館へ向う。


 奏朔高校は進学校を自称していることもあり、図書館はかなり広い。体育館くらいの広さはあるだろう。


 図書館の中央に丸机が十数個あり、一つの机には五個の椅子が備え付けられていた。見れば、数人の生徒がそこで勉強をしている。


 本棚はその中央に机と椅子を囲むように整列している。


 カウンターは出入り口のすぐ隣にあった。来都が用がある人物はそのカウンターにいる。


 図書館に踏み込んだ来都は本棚には目もくれず、まっすぐカウンターへと向かった。


 カウンターには一人の男子生徒が本を読んでいる。


 奏朔高校は男子はネクタイの色で、女子はリボンの色で学年を判別することができる。そして、その男子生徒にネクタイの色は白。つまり三年生。二年生の来都からすれば上級生にあたる。


「あ、あの……!」


 そのカウンターの彼に、来都は勇気を振り絞って話しかけた。するとカウンターの彼は読んでいた本を開いたまま、目線を本から自分の正面にいる来都に移す。


 その瞳は猛禽類を思わせるほどに鋭い。


「……何?」


 鋭い眼光とその冷たい返答によって来都は思わず気後れしてしまった。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。


「相談があって来ました」


 そうなんとか一言絞り出したのだが、


「相談? 本でも探しているのか? なら本のタイトルを言ってくれ。こっちで検索にかけて探してやる」


「いや、本を借りたいのではなくて……」


「あっそ。なら帰って。ここは図書館だから」


 二人の間に沈黙が下りる。


 カウンターの彼はつまらなそうな視線を来都に向けた後、その視線をまた読みかけの本へと移してしまった。


 これはマズイ。このままでは相談に乗ってもらうことすらできないで帰るしかなくなってしまう。


 しかし今の自分が巻き込まれている状況は非常に説明が難しいもので、どう言えば正しく伝わるのかわからない。


 と、そこで来都は思い出した。


 それはある一つの単語だった。


「……。『ストーリーライン』について相談があって来ました」


 そに単語を聞いたカウンターの彼は静かに読んでいた本を閉じ、立ち上がる。そしてぶっきらぼうに一言、


「……ついて来い」


 そう言い残し、カウンターから出て『図書準備室』と書かれた部屋に入っていく。


 来都は急いで彼の後を追った。



 


 

 


 


 

 

 


 

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