第117話 助けてと言われるまで動けない(エカテリーナ視点)

 気温が上がって来たためか、ユキたんが少しバテ気味だ。確かに足取りが重く食事量が少なくなっている。暖かくなって来た時に、庭の一角に氷の塊を作り涼んでいたので、冷たい気候が好きなのだろうとは思っていたのだけれど、さらに気温が上がっていくらしいここで夏場を過ごさせるのは可愛そうだと思った。


 屋敷に族が侵入した事でもあるし、ユキたんを兄貴達の所に戻す事にした。

 優秀な魔術師であるマギ君の一族が領地に来てくれた事や、作っていた孤児の中から氷を作る魔術を習熟し始めた子供が出た事で、ユキたんが居なくても漁港の倉庫街の冷凍庫を維持する事に支障があまり無くなっていたし、海産物の輸送の件でもヒポグリフヒポによる大型馬車を導入した事で、以前の馬車より高速に流通させらせる体制が出来ていた。

 これからさらに暑い時期となってユキたんがいれば助かるけれど、居ないなら居ないなりに何とか出来ると思い、お礼のお土産と共にナザーラの屋敷に連れて行くことにした。


「見込みが甘かったって事?」

「公然の事に出来たのに実力行使に来られるとはね・・・」

「それでどうするつもりなのよ」

「こちらも実力行使するよ」

「何をするの?」

「すぐに分かるよ」


 バーニィはヤハー教に対してかなり腹を立てている様子で報復を考えているようだった。


「ユキたんをヤハイエ聖国で暴れさせるつもり?」

「そんな事はしないよ、不特定多数にまで被害を与える事は考えてないさ」

「そう・・・」


 特定の相手にはどんな被害を与えるつもりなのだろうか。


「そういえば王家が取り上げたマグダラ領の鉱山はほぼ枯渇していたそうだね」

「えぇ、大きな採掘量を当て込んでた国王陛下がかなり激怒したそうよ」

「王家は鉱毒により汚染された土地と、仕事が無い鉱夫とその家族という負の遺産を抱える事になった訳だね」

「えぇ、王家はマグダラ伯爵に押し付けようとしたそうだけど、既に関係ないと突っぱねられたそうよ」


 マグダラ伯爵は領都周辺の土地以外を没収されていて、領民はその領都民だけになっている。収入が激減しているため街の維持に四苦八苦していてそれ以上の負債を抱える余裕は無い状態らしい。幸い領都が南方の貿易港と王都をつなぐ位置にある事から、関税や通行税を徴収する事で今は何とかなっているそうだ。ただ鉱山が廃坑となってそちら方向の流通が止まれば税収がかなり減るだろう。


「エメロン王家に従わないんだ」

「元とはいえ貴族派のトップだもの、元々王家と反りが合わなかったのよ」

「リンガ帝国だったら反逆罪が適用されそうだ」

「そこまでエメロン王家は強くないのよ」

「それで王家はリーナを皇太子妃にしてまで融和を図って強くなろうとしてたたんだね・・・」

「いい迷惑だったわ」


 そのせいで私は死亡フラグから逃げられなかったのよ。


「水害はどうするの?」

「水害が起きたあと助けるつもり」

「起きる前になんとかはしないんだ」

「えぇ、起きなかった事件に感謝する人はいないもの、私にそこまでする義理は無いわ」

「なるほどね・・・」


 災害の多くは備えなかった事により被害が拡大すると私は考えている。私は既に子供時分に周囲に警告していて既に責任は果たしている。

 水害があった時、領民は被害者ではあるけれど、その後にゲームでは私の両親に咎を被せて殺したあと、ただの小娘だった私も殺しに来る。親の咎を子に押し付けて来る世界だ。知らない内にどんな咎を押し付けられるか分かったものではない。


 旧マグダラ領で水害が起きたとき、私が完全に被害を抑えられると言う保証はない。

 ゲームでは学園の3年生の秋にマグダラ公爵領で大規模な水害があったという噂が流れ、それが原因で冬に飢えに苦しんだ領民が蜂起し、領地にいた公爵夫妻と共に、断罪後に領地に帰郷途中だった悪役令嬢であるエカテリーナの馬車が領民につかまり、惨たらしく殺されたと噂が立つだけだ。そのため、私にはその時水害がどの程度の規模で起きるまで分からない。

 そもそも水害が起こる場所は、既に王家直轄地になっているし、私自身はマクレガー侯爵であるエバンスお兄ちゃんの妻になっていて、マグダラ伯爵家からも出ているので、私が何かをする事は越権行為と取られる可能性がある。下手に手をだせば被害を拡大したと濡れ衣を被せられる恐れすらあった。

 また一部の領民を助けた事で、助けられなかった領民から逆恨みされる可能性もあった。今の私の立場からすると助けてと言われるまで動けられないというのが正しいかもしれない。

 兄貴のように特に狙いもせず周囲を助けてしまうような奇跡を起こせるのなら良いのだけれど、私には出来ないだろう。

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