第76話 もういない人だし

 決闘のあとカール殿下が学園を去ったため1年S組が9人となったのだけれど、A組の首席だというウィッシュ・キャンサーの婚約者だというビクトリア・ルーベンス辺境伯令嬢が入って来た。


「男の子と女の子が同数になりましたわね」

「うん・・・」


 カタリナ嬢がそう言っているけれど、僕の心は男なので内心は複雑だ。まぁバーニィの心が女であるということとすれば、その言葉はそのまま受け取れるのではあるのだけれど、カタリナ嬢の発言の女の子はバーニィは入っておらず僕なので複雑なのは変わりはしない。


「へぇ・・・ウィッシュ君の婚約者だから頭脳派の人だと思ったよ、クリス君の婚約者と言われた方が納得するね」

「よく言われますわ、でもクリスとは従兄妹同士で血が濃くなるのですわ、私は最初からクリスの候補から外されていたのですわ」

「なるほどねぇ」

「クリスの婚約者のシルビアもウィッシュ様の従兄妹で血が濃くなるからとウィッシュ様の婚約者候補から外されていたそうですわ」

「なるほどねぇ・・・」


 貴族は遺伝するという加護が強いもの同士で婚姻させて来た歴史から、血が濃くなっていると言われている。血縁者同士の婚姻は禁止されてはいないけれど、遠い相手と婚姻する事が奨励されていたりする。


「リーナお姉ちゃん、こんな魔術知ってる?」

「知らないわ、便利そうね、教えてくれる?」

「うんっ!」


 父親が決闘の不正の責任を押し付けられてしまい男爵令息となったマギが、何故か最近リーナをお姉ちゃんと呼びベタベタしていた。なんか小動物っぽくて前世の小さい頃のリーナを見ている気がする。

 リーナはエバンスと婚約者となっているそうなので、あんなにベタベタしてて良いのかと思ったけれど、マギはエバンスを兄さんと言って懐いていて、エバンスもマギを弟のように可愛がっている様子なので特段問題では無いらしい。


「お兄ちゃんダンジョン探索の班分けどうするの?」

「今の感じだと、僕とフローラとバーニィとリーナとマギ君のパーティになるんじゃない?」

「そっかぁ」


 夏休みの前に王都のダンジョンを探索する授業があるのだけれど、王都のダンジョンは最大5人までのパーティで行くことが推奨されていて、1年S組は2つのパーティを作るよう言われていた。

 カール殿下がいる時はカールが僕たちの4人確定状態になってた班のリーダーになってやると上から目線で言っていたけれど、リーナの元婚約者であるカール殿下をパーティに入れる事は出来ないとマシロがかばい、それならリーナを外せとカール殿下が言って、いつの間にか僕だけカール殿下とパーティを組めば良いという謎理論の話となったのが決闘に至った経緯だった。

 まぁ、もういない人だしどうでも良のだけれどね。


△△△


「みんな魔術はあまり使わないんだね」

「私とアニーは威力の調整が下手で余りこういった閉鎖した場所は苦手なのよ、フローラは「虫」でバーナード殿下は「人」と魔術が得意になるタイプじゃないのよ」

「ふーん・・・「日」の加護ってやっぱ凄いんだね、でもフローラ嬢の弓とバーナード殿下の剣もすごいね」


 ダンジョン研修では、僕がウザかった男が使っていた盾を持ち、敵の攻撃を受け止めつつ回復役をするという、バーニィいわくヒーラータンクという役割をした。

 フローラが弓で遠距離アタッカー、バーニィが剣で接近アタッカー、リーナが槍で僕とバーニィ間から攻撃しつつ時々ヒーラー役をし、マギが杖を持って広域魔法攻撃を担当するというバランスのパーティとなっていた。

 ちなみにウサたんが索敵と罠発見をし、チーたんが本物のヒーラーをしている。だからガイお爺ちゃんのような斥候役やマリア母さんの様に回復役だけをする人はいない。


「オルクダンジョンに比べて魔物が弱いわね」

「うん、矢が勿体ないかも・・・」

「だねぇ」


 マギがいるため、僕たちはオルクダンジョンで使っているような神話級の武器をつかっていない。

 僕はカール殿下が使っていた盾を使っているけれど、他のみんなはオルクダンジョンの再ポップした宝箱から出てきたミスリルやオリハルコン製などの装備を使っている。

 フローラはミスリル製の弓を使っているけれど、弦を引いても光の矢が出現するものでないので、鍛冶屋に作って貰った鉄製の矢を使っている。

 貫通力が高く威力は申し分ないのだけれど、鉄製の矢がミスリルの弓の威力に負けているようで、数回使うだけで矢が歪んでしまい命中精度が下がってしまうらしく、回収はするけれど鍛冶屋行きのスクラップが増えている状態だった。

 ちなみに全て命中させているので、完全ロストが1本も無いのはさすがだと思う。

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