第53話 死んだあとのパソコンの中身

「辺境だって聞いていたけど思ったよりも発展していますね」

「ダンジョンのおかげで人がとても来るようになりましたの」


 ビリー・フォローと名乗る男がナザーラの街にやってきた。どこが無表情キャラだよと思う程明るい。豪華な馬車でやって来るのかと思ったけれど商業ギルドの馬車に相乗りし、到着するなり「空気が美味しい!」と言いつつ背伸びをしていた。同行していたのはお世話係だという25歳前後のメルエルという女性だけ。神職としてこの街に来たので頑張るとマリア母さんに熱弁していて、バーニィに聞いていた人と目の前の人は完全に別人だった。


「フェアー、アーユーフロム?」

「???・・・あぁっ! 英語? えっ? アイアムジャパニーズ! えっ!? えーっ!」


 試しに英語で「あなたはどこから来たの?」と聞いたら「私は日本人です」と返答して来た。間違っているような気がするけど意図としては伝わったらしい。どうやら奴も僕やリーナやバーニィの様な転生者だったようだ。


「えっと・・・何かの暗号?」

「うん、悪い奴じゃないかって確認しあうおまじないだよ」

「そ・・・そうですっ!・・・そうですそんな感じですっ!」

「そうなの?」

「うん・・・でもバーニィから「持ち帰って検討する」って答えるように言われているから、教会の神職として来てもらう件はバーニィと相談してからにするよ」

「お役所対応っ!」

「バーニィが言うなら大丈夫ね」


 僕とビリーが不思議な会話をした事にマリア母さんが驚いたけれど、バーニィの名を出した事で問題無いと思ったのかスルーしてくれた。


 話し合いはすぐに終え、ビリーを連れバーニィが居る執務室に向かった。バーニィは街の難しい書類を見ながら何かをメモをしていた。


「あれ?話し合いは終わったの?早いね?・・・あれ?彼を連れて来ちゃったの?」

「うん、なんかビリーも転生者みたいだよ」

「えっ?」

「えっ?」

「4人目の転生者だね」

「「えーっ!」」


 綺麗にハモって驚くバーニィとビリー。僕は男が男に転生したパターンの奴もいると思ってたからね、だから驚かなかったけど、2人にとっては予想外だったようだ。


 予想通りビリーは男から男に転生したパターンだった。一番羨ましいパターンという奴だ。けれど教会で軟禁状態にされ、規律正しい生活とやらをさせられ続けていて、突然父親である枢機卿からナザーラに行けと言われたらしく良く事情を分かっていなかった。


「なぁ? お前ビビリンか?」

「えっ!」

「???」

「僕だよ、川越建設のケンジだよ」

「は? え? えーっ!! ケンジの兄貴っすか!?」

「知り合い?」

「あぁ・・・前世の仕事仲間だよ、とび職やってるのに高所が苦手でへっぴり腰になるからビビリンって呼ばれてた奴だ」

「懐かしい呼び名っすね・・・」


 ビビリンは昔を懐かしんだのか遠い目をしていた。


「お前、死んだ時の事を覚えているか?」

「覚えてるっすよ、ダンプの前に飛び出す婆さんを制止したら体当たりされて、道路側に倒れて轢かれたっす」

「そうか・・・聞いてた通りなんだな・・」


 ビビリンは現場でダンプに轢かれて死んだ。国から受注した仕事をしていたのだけれど、その事業に反対していた奴らに雇われた年配の人が資材搬入路に押し寄せ、土砂運搬用のダンプの前に飛び出したりするため作業の遅れが出ていた。

 ビビリンが死んだ日は、足場かけがスムーズにいきビビリン達の手が空いたため、現場監督が危ない動きをするやつの制止の手助けを頼んでいた。そして起きたのがビビリンが70代の婆さんに体当たりされ、ダンプに轢かれて死ぬと言う事故だった。

 婆さんは何故か自らもダンプに轢かれそうになった被害者だと言いはり、活動家の支援を受けた地元自治体の首長が「住民の安全が確保できるまで工事を中断を望む」と訴えて来た。

 メディア関係者もダンプの運転手が加害者でビビリンと共に女性が被害者であるかの様にニュースで流していた。怒った下請けの社長が婆さんがビビリンに体当たりした瞬間の監視カメラ映像を動画投稿サイトに晒してメディアの姿勢を糾弾した。

 地元自治体の首長の評判もえらく下がり、次の選挙で負けてたっけ。


「あの婆さんは殺人未遂で捕まって裁判になったけど結審する前に死んだらしいぞ」

「そうっすか・・・」


 ビビリンに体当たりするほど元気だった婆さんは法廷に車椅子に乗って現れ、痴呆老人のように振舞い、最後に心臓発作とやらで急死したため裁判がうやむやになった。とても後味悪い結末で、鳶の元締めをしていたビビリンの親父さんがもの凄く悔しそうにしていたのを今でも覚えている。


「親父さんもビビリンが異世界に産まれ変わってるって知ったら喜んだかもな」

「どうしてっすか?」

「だってお前こういう異世界好きだったろ?線香あげにいったら、仏壇にこういうファンタジー的な世界っぽいキャラのフィギュアとか飾られてたぞ?」

「えっ!」

「お袋さんが卑猥なゲームやグッズが一杯だけど人型だから呪われそうでどう処分したらいいのか・・・って悩んでたぞ?」

「げっ!」

「3回忌の時に妹さんに聞いたら、フィギュアは結構良い値段でゲームショップに売れたらしいな。あとエロゲの方はマニアック過ぎて、恥ずかしくて売れないからこっそりゴミの日に出したって」

「もう殺してっす・・・」


 そういえば死んだあとのパソコンの中身は誰にも見せられないって言ってたな。仲間内にはエロゲマスターを自称してる癖に、自らの趣味を見られないとか変な奴だと思っていたんだ。後で熟女系のエロゲ好きを隠したくて美少女フィギュアを置いてたって事だったんだと妹さんに聞いて納得していたんだっけ。

 あれ、そういえばビリーがマリア母さんに熱弁してたのって・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る