第33話 メシウマというのはこういう事を言うのだろう(エカテリーナ視点)

 マグダラ公爵から帰って来いという手紙が来たためエルム領から帰らなければいけなくなった。なんでも婚約者であるカール殿下に呼ばれたので王都に行かなければならなくなったらしい。

 私はデビュタント前なので公の場に出る事は無いだろうけど、いちいち王都まで会いに行くのは面倒だなと思ってしまう。


 カール殿下はメインの攻略対象なので超イケメンだ。ただしオレ様系な所が少し鼻についてゲームでは苦手だった。ストーカー化した前世の彼氏みたいに暴力的な、クリス・ソード伯爵令息程ではないけどね。

 私の推しは、どちらかというと可愛い弟系のマギ・ポット伯爵令息で、次の推しは影のある留学生のバーナード・リンガ皇子だった。その次の枢機卿の息子で鉄面皮キャラであるビリー・フォローが続く。カール殿下は俺様系が苦手な私の中ではランク外の扱いだった。一応初期から強いため序盤から活躍するから戦闘パートでのパーティメンバー入れられるよう好感度はある程度稼ぐ立ち回りをする周回が多いけれどいつも会話はスキップしていた。


「戻りましたお父様」

「戻ったか。先方とかなりの友誼を結んでいるようだという報告を受けている。あんな田舎の不自由な環境で良くぞ我慢できるものだと感心したぞ」

「私にはあちらの空気が肌にあうようです」

「そうか?お前は将来の王妃として華やかな場所で過ごすことになる。あちらに慣れすぎるのも良くないぞ?」

「分かっております」


 領都しか見ないのならマグダラの街の方がエルムの街より立派だ。経済力も莫大な鉱山収入があるマグダラ領の方があるのも間違いない。

 しかし領民の顔を見れば幸せなのはエルム領の人たちの方だと分かる。マグダラ領では冬に餓死者や寒さに耐えられず衰弱死する民が出るのは普通になっている。領民に十分なして出るのは彼らは明日のパンに困る様な事態になっていないからだろう。


 すぐに王都に向かいたかったらしいけれど、私の体が半年前より大きくなってしまったため急いで仕立て屋を呼びドレスの調整をおこなわせる事となり1日だけ出発が遅れた。カール殿下と会う事となって居る日は10日後なので急ぐことは無いのに何を焦っているのやら。


「久しぶりの王都が楽しみだわ」

「思ったより早くクゾルフの蟄居が明けてくれた。これもエカテリーナがエルムに行ってくれたおかげかもしれんな。儂も大手を振って領を出られる。領地にいたままでは派閥をまとめるのも大変だったし助かったぞ」

「それはようございました」


 なるほど、マグダラ公爵は同派閥の人たちと会う必要があり、夫人は王都で遊びたいから急いでいたようだ。


△△△


「よく来たなエカテリーナ」

「ご機嫌うるわしゅうカール様」


 1年ぶりぐらいにあったカール殿下は相変らずイケメンだった。


「お前に会いたいという奴がいるので呼んだのだ」

「お隣におられる方でしょうか」

「あぁ、奴はバーナード・リンガ。リンガ帝国第二皇子だ。15歳で我々が入る学校に彼も入る事になる」


 どこかで見た顔だと思ったら、ゲームの攻略対象である留学生になる隣国の第二皇子だ。「人」の加護を得た事で皇位継承者候補から外されて留学させられるという設定はやはり起きたらしい。


「カール様の婚約者であるエカテリーナ・マグダラですわ」

「リンガ帝国第二皇子のバーナード・リンガだ、マグダラの才女に出会えて光栄だよ」

「マグダラの才女ですか?」

「あぁ、カールの奴が良く君の自慢をするんだよ、とても賢い女だってね」

「そうですか?」

「あぁ・・・領民の事を思い、河川改修や貧民対策を父君に打診したんだろ?」

「えぇ・・・父には聞き届けられませんでしたが・・・」

「それは私達はまだ子供だし仕方ない事だよ」

「はい・・・」


 なんだろう、バーナード殿下はもっと暗い感じの雰囲気を持つ青年だった。こんなにハキハキと喋ったりは出来ない。まだ「人」の加護を得たばかりでそこまで邪険にされていないという事だろうか。


「こいつはすごいんだぞ?加護は「人」なのに既に実力は帝国騎士と同じぐらいあるそうだ。既に冒険者としても活動しているらしいぞ。こちらに留学するのも後継者争いに巻き込まれたくないと、本人が希望したんだそうだ」

「それは凄いですね・・・」


 違う、あまりにもゲームのバーナード皇子とは違う。


「Where are you from?」

「・・・I came from JAPAN」

「何だ、何かの秘密の暗号か?」

「冒険者達が使う秘密の暗号ですわ、エルムの街で出会った冒険者に習いましたの」

「・・・エカテリーナ嬢は冒険者の事に随分詳しいようだね」

「あぁ・・・エカテリーナはエルムに行ってたのか。確か僕達の他の「日」の加護を得た子に会いに行ってたんだったか?」

「えぇ・・・アニー・ナザーラ男爵令嬢は活発で面白い方でしたわ。彼女のお爺様やお婆様は高名な冒険者でもありましたの」

「それは僕も会ってみたいね・・・」

「そんな事もあったんだな・・・エルムの街であった面白い話でも聞かせろ」

「わかりました」


 バーナード殿下は私と同じ転生者だ。アニーに会いたいと言ったのも多分転生者である事が関係しているのだろう。


△△△


「くそっ! エルムのガキが子爵でナザーラ男爵領だとっ!」

「あなた・・・心をお鎮め下さい、蟄居は明けたのですから良いでは無いですか」

「このままではグレンの奴がますます増長するではないかっ!」

「北方辺境の貧乏領主の集まりではないですか、あなたが気にする事はありませんよ」

「そうだが我らの派閥と違い領地が大きく未開拓地も多いのだ、我ら貴族派は古参が多い、奴らより発展性が弱いのだ・・・だからいくつかの広すぎる領地を分けるよう動いていたというのに・・・」


 陛下に謁見しに行ったマグダラ公爵は、都合の悪い事をいっぱい知らされたようで、非常に憤慨していた。


「我らの派閥の子弟をそこに押し込む予定だったのに予定が狂ったわっ! これも全てオルクの件で儂は動けなかったのが原因だっ!」

「これから盛り返していけばいいではないですか、経済力はこちらの方が上ですし、港も貴族派が抑えてるのです、高い関税をかけて搾り取れば良いでしょう」

「そうもいかんのだ・・・奴のところの開拓している先で港に向く土地が見つかったのだ・・・」

「まぁ!」

「そこを是非とも抑えたかったのだが、王家直轄領にして開拓は王弟殿下が担う事になった。儂らでは直接手出しが出来なくなったのだ」

「王弟殿下を我らの陣営に引き込めませんか?」

「陛下と王弟殿下は仲がいい・・・今は難しいな・・・」


 マグダラ公爵の派閥の強みだった鉱山による資金と海洋貿易の独占の内、海洋貿易の独占が無くなる事が決まったようだ。


「港の開発は一朝一夕では出来ん、儂らに出来るのは開発を遅らせるよう妨害する事ぐらいだ・・・」

「そうなんですか・・・」


 マグダラ公爵夫妻がイラついていると私は非常に楽しい気分になる。メシウマというのはこういう事を言うのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る