第32話 僕は完全に無実だぞ?

「ヴァイスたんおっぱいでちゅよ」

「さすがにフローラは出せないわよ・・・ね?」


 ゼノビア様は何で僕を見る。

 もしフローラが母乳を出せたとしても僕は完全に無実だぞ? 生物学的にも完全に真っ白だ。


「キューキュー!」

「チーチー!(私がいるじゃない)」


 フローラが弟であるヴァイスにべったりなためウサたんが少し嫉妬中だ。チーたんがそんなウサたんを慰めていて微笑ましい。


 嫡男の誕生を受け、エルムの街はお祭り騒ぎだ。しかも同時にエルム男爵の子爵への昇爵も発表された事で、住民たちは非常に明るい表情をしている。


「ヴァイス様に乾杯!」

「エルムの輝かしい未来に!」


 昼間から酒場は満杯で祝杯を挙げている人がいる。エルム男爵が街で貧民相手に炊き出しを行い、正規の営業許可を取っている酒場にエールを大量に寄付して、10日間無料で出すようにとお触れを出したからだ。だから大人たちが水替わりにエールを飲んでいる状態が続いている。


 そんな状態だから酒によるトラブルも起きてしまう。だけどこの10日間は酒による軽微な罪は1段引き下げるという恩赦を与えた結果。不思議な事に軽微な事件は発生するも、重度な事件が全く発生していないそうだ。喧嘩が起きても本気になりかけた瞬間に、祝い事にケチをつけられないと急に頭が覚める住民が多いそうだ。


△△△



 ヴァイスが産まれて1月が経った、気候が秋に差し掛かり領地内の穀物の収穫状況が伝わって来た。 今年も去年に引き続き豊作らしく、慶事が続くと領民たちの顔色は非常に明るくなっていた。


「キューキュー!」

「10時の方きょう250メートリュ山いみょ!」

「行くぞ!」

「「「おう!」」」


 冬が本格的にやって来る前に収穫物を探しに森にやってきた。山芋と牛蒡が今日の狙いだ。

 どちらも滋養があるとされていて、さらに妊婦や産婦がなりやすい便秘の解消に効果があるそうで、それを使用人から聞いたフローラが探しに行くと言い出したのだ。

 街の市場にも出回っているけれど、フローラが自分で探したものを食べさせたいらしく、「雷轟」13番隊の皆を連れてエルムの街の近くの山に向かった。


 山芋は木に巻きついた枯れた蔓を探してそれを伝って地面を掘るのだけれど、葉が枯れて茶色になってしまっているこの時期に探すのは結構大変だ。

 本来は夏場の葉がある時期に場所を記憶しておき、栄養をたっぷり溜め込んでいる葉を枯らした冬場に掘るものなんだそうだ。


 牛蒡も冬場は葉を枯らすので見つけるのは困難になる。けれどそれを無視して見つけてしまうのがウサたんだ。

 最近ヴァイスに構い気味のフローラと一緒にいれる事が嬉しいようで、今日はとても張り切っている。


 山芋や牛蒡を掘る時は土魔術を使っている。以前マンドラゴラを掘った時の要領で土を柔らかくしてから掘ると簡単だからだ。

 さすがに土魔術で掘ることまではできないためあとは手作業になる。土を掘る魔術自体はあるそうだけど、それを使うと土の中で曲がっている山芋やごぼう自体を傷つけてしまうから、こういった自然の森や山での収穫では使わないそうだ。


「キューキュー!」

「1時の方きょう500メートリュしゃきギョブリン6」

「行くぞっ!」

「「「おうっ」」」


 「雷轟」13番隊のみんなは、深く土を掘るための先が分厚いフライ返しのようになっている鉄の棒から剣鉈に持ち替えて、ゴブリンの襲撃に備えた。

 魔物も冬に備えて食料を集めようとするので、結構街に近いのにうろついていた。

 帰った時に騎士団に報告しておいた方がいいだろう。大量に餌を得て冬ごもりした魔物は春先の繁殖期で爆発的に増えていき、街まで降りて来てしまうらしい。


「キューキューキュー!」

「9時の方きょう520メートリュいのちち大1中しゃん!」

「ヒャッハー! 行くぜっ!」

「待ってましたっ!」

「お肉ちゃーん!」

「おいっ! 全員で行くなっ!」


 動物たちも冬ごもりのために食料の食い溜めをしている。今の時期の猪や鹿は1番脂の乗っていて美味しいため、「雷轟」13番隊のみんなはそれを狙いにしていたのだ。


「解体終わるまで帰ってこないでしょ、内蔵を食べたがるだろうからここで焚き火して待ってよう」

「すまねぇな坊主」


 唯一僕とフローラの護衛だという事を忘れず残っていた隊長のマーカスは、隊員達のはしゃぎっぷりを詫びた。


 土魔術の土壁で周囲を囲み、石積で竈を作り、焚き木を集めて火をつける。


「ウサたんとチーたんはひまわりの種とカボチャの種を炒ってあげるよ」

「キューキュー!」

「チーチー!(ありがとう)」

「わたちも食べたい」


 アケビやサルナシなど、冬前なら見つかるウサたんやチーたんの好物は時期外れになっていて見つからなかった。楓の樹液を集めているのであとで煮詰めて好物のメープルシロップを作るけど、集めるにも煮詰めるにも時間がかかるので、屋敷からの持参したシード類で我慢して貰うしか無い。


「準備してくれてたのか!」

「2匹逃がしちまったぜ・・・」

「腸に山芋詰まってたぞ」

「レバーもピンク色でうまそうだ」


 さすがに6匹は捕まえられ無かったようだ。

 猪の腸に山芋が詰まっているのは、この時期の猪がそれを良く食べているからだ。

 ヨウムお爺ちゃんも、この時期の猪の山芋の詰まった腸を塩をかけて焼いたあと輪切りにして食べるのが好きだった。

 僕は腸独特の臭さと土臭さが混ざった匂いが苦手なのだけど、「雷轟」13番隊のみんなは好きみたいだ。

 フローラも腸は苦手で、脂の乗ったレバーのステーキの方を楽しみにしていた。

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