幽霊と人間の闇祓い

しずく。

第1話 闇祓い

救急車、パトカー、消防車のサイレンの音が街に鳴り響く。

沙良は自分の最期は15歳だなんて思ってもいなかった。

意識の薄れていく中、遠くから凪が自身を呼ぶ声が聞こえた。


「…良!!沙良…!!そんな…!!!嫌…だ…!!」


沙良は最期の力を振り絞って、少し笑いかけると、そのまま静かに息を引き取った―


凪はその事故があった翌日、気持ちが低迷したまま朝のニュースを点けた。

昨日の事故は相当酷い事故だったらしく、ニュースの目玉として取り上げられていた。

はっきり言ってこの事をニュースの目玉として扱っている事に腹が立った。

何故かは分からないが、沙良が死んだ精神的ショックからだろう。

乱暴にリモコンを持ち、テレビの電源を消した。

今日は特に何も無かったのだが、沙良が亡くなったショックで凪はただ窓から吹き付けてくる風を感じるだけしかできなかった。

すると凪は後ろに気配を感じた。

すぐに後ろを振り返ったが、そこには何もおらず、ただ部屋があった。

気の所為かと思い、前を見ると、


「ばぁ!!…驚いた?」


亡くなったはずの沙良が凪の前に立っていた。


「え…沙、沙良、?う、嘘だ…」

「そんなぁ。私は正真正銘沙良だよー。私はねー、幽霊になって帰ってきましたー」


そう言って沙良はふふんと鼻息を荒くした。

凪は沙良の幽霊をじっと見て、少し距離を取った。


「…なんで距離取るのよ…なんだか悲しいなぁ。私せっかく幽霊になって帰ってきたのにー。…あ、じゃあ私成仏しちゃおうかなー。あーあせっかく帰ってきたのになぁー、残念残念」


わざとそうに悲しい顔をする沙良は、チラチラとこっちを見てくる。

これに懲りて凪がはぁと溜息をつくと、「仕方ないなぁ」と口を開き、少しだけ距離を縮めた。

そうやって適当に過ごしていたら、あっという間に夕方になっていた。

今日は珍しく空がオレンジ色ではなく、少しピンクがかった紫になっていて、どこか幻想的だった―



翌日、平日なので2人は登校して、授業が終わり一緒に帰っていた時の事だった。

2人の視界は突然どす黒い液体に遮られ、気がつくとそこは人目が無い路地裏だった。

凪は周りを警戒したが、沙良はやはりとても焦っている。

液体で2人を誘拐した者は、クククと気味の悪い声で笑っていた。


「1人死霊か…まぁどうでも良い。もう一人はしっかりとした良い年頃のガキだ…久しぶりだなぁ…生きた人間を喰えるのは…これで1週間はちょーっと強いだけなのに威張って喰い散らかした人間の残りカスを喰わなくて済む…」


頭に1本角がある、中年男性がそう凪を品定めする様に言った。

その品定めをする奴との距離が地味に近く、そして圧も強かったため凪はその圧に耐えきれず、力が抜けて立てなかった。


「さぁて、早く喰わんとあいつらが来る…さっさと片付けなきゃな…」


そう言って男が手を伸ばしたその時―


「ファイヤブレイクッ!!!!」


男の斜め上から女性が飛び込んできて、呪文らしきものを唱えた。

するとあらゆる所からとても巨大な炎が飛んできて、男に当たると直ぐに爆発した。


「…君…達と呼べば良いのかな、怪我は無いか?弱い奴で良かったよ…というか君、死霊を連れてるのか?…面白い、ちょっと話さない?」


そう言って女性は名刺を渡してきた。

その名刺には『1級闇祓い師 鶯明おうめいフレア』と書いてあった。


「これ…闇祓い師の…」

「そうだよ、私は1級闇祓い師だ。だからキミみたいな人はいつでもスカウトできる。ほらほらー、一緒に働かないか?」


そう言ってフレアは名刺をひらひらと煽った。

沙良はすっごい嫌そうな顔をしていたが、凪のキラキラとした表情を見て仕方なさそうに引き受けた。


「…ふん、一級闇祓い師とかなんとか知らないけど、凪になんかあったらすぐにあんた呪ってやるから…」

「あぁ、何かあった時は私がやるから心配要らないぞ?」


いつの間にか沙良とフレアの間に火花が散っている気がした。

凪は真剣な顔に戻り、1回深呼吸をすると、口を開いた。


「フレアさん、僕、そのスカウト受けます…!」


それを聞いてフレアは満面の笑みで凪の手を掴み、少し乱暴に縦に振り回した。

そして掴んだ手を離すと、「ついて来て」と言って路地裏から大通り方面へ歩き出した―



第2話に続く

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