~密会~(『夢時代』より)
天川裕司
~密会~(『夢時代』より)
~密会~
掌の上に春と夏とを載せた儘、少々期待し続けて居た〝神の息吹に寄る再生〟をその自作によって具現化された希少価値の上に寝そべらせ、まるで初めから現実の物、或いは生物として存在させたか、のような衒いをその儘この内に保(も)ち、ひっそり輝く人間故のロマンスへの工作をつい無い物強請る自分の気質に託(かこつ)ける形を以て例えば俺の目前へひけらかし、自ら数多在る有機体、無機体の創造主と成る事を心中密かに強く、貫く様にして持って居た。挙句の果てに、現実の果てからのこのこ、えっちらおっちら遣って来たような少しでも自分にとって神秘を連想させ得る存在に対して反応する事に極度に敏感と成り、丁度自分がこの世に誕生した年から八年が経過した一九八五年の夏辺りに一つ、自作の糧が夢見て或る程度の報酬を授け得る夢のロマンスの存在を結合させた儘、又、自分はえっちらおっちらまるで小舟を漕ぐ様に現実に繰り広げられる白い波間を悠々渡って行き、唯、他人の価値観、焦燥、独創に寄るこの世での産物と出会う事が現在(いま)の自分にとっての価値、又糧と成り得る事に気付いて居たらしい。その「俺」とはこの筆者が講じた主人公の目下に拡げられた物語の回転を擁する要であり、又ヒロインの様でもあり、何やら得体の知れない通り一遍の図り事が暗計を論じ波(わた)って行こうとするその大海原へと身を落す様に朽ち果てない、密計の在り方と酷似して居た。透明に映った眼(まなこ)の内に光る或る程度の重荷を負った良心への呵責とはこの少年にとっては有難いものであると共に又迷惑を被られるものとしても在り、何分(なにぶん)、自分が自称したいとする〝創造主(そうぞうぬし)〟から出た傀儡が持とうとする能力(ちから)を自分も探る事が出来れば、と躍起に成って居た頃合いだったから自然の行程に就いて否定する事叶わず、最早白く浮き立つ透明へと軸足をこの「現実」へと置いて遁走して行く憐れな末路を自身と世間との間で繰り広げて仕舞える事には、閉眼する姿勢を伴い首肯して居た。まるで幼い羊の様に〝牧歌的〟を好み、他人(ひと)との接触に或る程度の敏感な労りと労力とを見、それ迄憧れて居た大人達への賞賛さえその当人(大人)達により打ち砕かれても滅気(めげ)ては成らぬと自制せねば成らない高尚な少年の時期に在る学士であった。その学士は自らを唯密かに〝少年〟と呼んで居る。
暗い、自分や他者が何れ向かう為に据え立てられたのであろうか、地獄の四丁目の様な印象を醸した〝死地〟へと現実はその少年を誘うかのように、その少年の眼(まなこ)の内に色々な原生林を準え明かした程の現世(うつしょ)を見せて、解け込ませ、少年が滔々波立たせて走り去って行く現世が夢に寄る変色を受ける頃には、〝少年〟はこの現実の目下で自身の残像や分身達と戯れ弄(あそ)ぶ一介の騎士を衒う様に迄その身分をなお高尚なものとして居た。落ち着き払ったその両の手の内に在ると信じられた未開の流行の行方は、何時(いつ)まで過ぎてもまるで森林浴して現世(うつしょ)の時計の速度に於いて刻まれて行く仙人の生き様を表(ひょう)して居た様子であり、少年は自分が一介の少年であった事すら忘れて創り上げられたオレンジ色した一日の装填により示された自分への梶を負かされたようで左右見廻しながらも要を得ず、やがては自ら両脚の鉾先を転換させて現実や自然が夫々の自体を押し遣って向かわせようとして居る未来から逸脱するように己を一新させて逆行させ、凡そ時空の蓄積さえ忘却の内へ抛られ忘れられた少年らしい改心に就いて頬杖突きつつ考えさせられる、そんな体(てい)を採らされ続けて居た。白い巨塔から脂汗を掻きつつ脱出し得た油肥虫(ごきぶり)やこの国の祖先達は、目下急来して居る現実を奏で続けるその余力の源にはまるで靄でも掛けるようにして誰からも又何からも知られない存在(もの)とし、明け方近くに成り果てた今朝迄の時間の短さの内で人と物黒(ものくろ)とを繋ぎ止める鎹の様なものに頼り無さを知り、最早自己の献身が譬え黒いものに移り変わろうとそれはそれで良し、とする子供だてらの強靭をその少年染みた細君は足元から拾い上げたような気持ちを以て延び出す一閃の内に存在しても、人が存在し得るこの現実に敷かれた狂気を以て唱えた後には何も残らず、賛同も反論も、よもや反証する必要性の無い旧来の人の砦が正に現実に於いてその身を横たえる事と成り、黒く塗り潰された人自身に依る元力(げんりょく)の徒労へは、何も改心させられ得る見込みも無いものと、唯ひっそりと、少年は俄かに物事を洗い浚い片付けられ得た訳であった。故に自らの掌に残った物は自らが設けて自然の方向へとひたすら回帰を願う人の反応が欲する正直だけともなり、何時しか見知った雷鳴が放ち得た豪族の天界には何れの華を咲かせる糧さえ無力に見えて、少年の心は益荒男を想起させ得る程の活気と勝気とを取り戻すのだ。
況や、兄嫁を慕った義弟の無心を人の欲望が己の抑鬱に感(かま)掛けるように彼方此方(あちこち)飛び火させた儘、人が織り成す傀儡達が奏で見せ得る曲輪(きょくりん)の炎とは今無効の体裁へと堕ち果て、自然が屈曲させた白日を謳う筈の当番日さえ忘却の洞(うろ)へと投げ込んだ儘に展開させ得る屈葬への叫喚とは少年には見え辛いものと成り果て、感じられる儘にまるで筆を動かし物語を描写して行く大慌ての窮境に演出がその身を挙げた。止まり木の無い予算めいた唐変木の家計は今や見え透いた存在とも成り果て、今自分が何を謳い書き続けるべきなのかも知れない石橋を凡そ失(な)きものとした事に依って少年への触診は瑞々しくも見る見るその鉾先を変えられ果てて、挙句に満ちた人の量定に迄踏み込み始める純心の筵は未だに少年がそこへ辿り着くまで見知った田舎の主(あるじ)を呼び寄せて居た。どだい無理な口実であろうと話の根種(ねた)を壊すような事を平気な表情(かお)して宣う紳士であるがこの主(あるじ)とは未だに自身に就いて他者に説明する事を拒んで居たので、大童に即興講じて立てた身上を解き明かす事の至難の一筆(ひとふで)には又、とても自身の丈(たけ)を載せ尽(き)れない儘泡(あぶく)の様に消え去り果てる人の謳歌が唯鏡に映されるのを黙認して居た。慌てふためいても一向に早天しない古豪の勇者は特に人の心底奥底に光り続けた十九世紀の肖像画に寄る〝最も深い人の地獄絵図〟をその心に落した挙句に、又屈強に置かれたこれ迄の未熟な災難は全て自身の錆に寄るものであると心に改心を秘めた挙句に、〝古豪〟と称した自身の骸を当の現実に着せると何が見えるか、他所で興味に駆られても居た。
裸足で駆け抜けて来た雨が呈した泥濘を滔々と息を切らして人らしく、少年らしく、騎士らしく、土人らしく、誰にも何にも虚栄を飾らず一端(いっぱし)の大人の様に努力した後、自身の周囲に朽ち果てるようにして置かれて在った〝常識〟の肢体達は皆一様にして黄土色したベールに包まれて居たらしく、跳ねても枯れても凡そその肢体達が散らばった一帯には花さえ咲きそうにない無人の群来(くき)が賛歌されており、少年は明日(あす)を想うその挙動の内に退引(のっぴ)きならぬ無情の沼地が在った事を思い出したかのようにして捉え、知り、今では咲けない〝人の花〟をぼんやり漂う浮雲の彼方に据えてそこから下りる一閃の陽光を我が物にしようと、一つ、諦観の内で見た自分(ひと)の覚悟の再来に出会(でくわ)して居た。春は曙、季節は二月。五月(さつき)に咲いた人の花の行く末を知るには平等に統べられる威力の程が無くては成らぬものであり、人の季節は未だ四の五の言える立場に在らず、唯妬ましい幼縮(ようしゅく)の模様に伴い一つ、二つ、織り成されて行く有限の賛歌に絆された儘、その筵とはやがて人と自然とに解け入って流れ去るのだ。
しどろもどろに成りつつ、少年は自分がこれ迄に生きた上で出会った光景と情景と、その二つを奏でた友人と環境に分断され得た人と自然が成せる周到への労に依り刹那繋ぐ事の出来る物語への眼(まなこ)に落ち伏し、突拍子も無く騒ぎ回り騒ぎ立てる、嵐の前の静けさを地(じ)で行く彼等を擁した無宿の再来達に己(おの)が絵筆を取り上げ、何処と無く、何時(いつ)と無く、夕方から朝に掛けての自らの能力の往来を確認しながら自ず独房に住み着いて、〝我が野心〟と題した一本の絵巻を書き起した。〝流言飛語〟と言われた言葉の意味はこの時少年の耳には入らず心の中だけで心地良く鳴り響くものとして在り、自ず持たれた「言葉の積み重ね」は城の様にその独房を擁して華麗を差して居たが自ずと崩れ、又、まるで〝白い巨塔〟の様に少年とその少年を取り巻く独房の様にして取り巻き続ける宇宙に対して悉く否定を掲げて在った純心の賜物とは今、虚空を突いてこの「人」の才質を全て闇の内に葬り、その才質を司る主(あるじ)にさえ気付かれない程、幾重にも重ねられた重箱の隅へと体を追い遣るように込めた一層の極限の成立を知らされたのは二つであった。
「これは母さんが僕に残してくれたものなんだ」
そう呟いて後ろを振り返ったのは有限に輝く〝この世の少年〟であって、少年は、自分の母の肩から胴の部を肢体として取り上げ又自分の父親と兄弟達に知らせながら、唯ひっそりと又大切そうにその二つの物を自分の鞄の内へと仕舞い込んで居た。何処(どこ)へ行くのか誰にも知れないこの少年と少年の母親の二つの肢体は相応に用意された〝少年の鞄〟に或る程度の〝事実〟を取り入れたようで、又歩を進めながらに今度は自分達の別の寝屋まで辿り着こうとして居たようである。この子は他の子供達とは質、それ故の言動の在り方が違ったようで、それ迄に得て来た特別の経験談が物を言うのか具に塗り固められ続いた不変の事実がその少年の手足、それ等を取り巻く環境の内に密かに内在されて在った様子であり、一般に知られる子供が歩いて行く向きと逆に向って歩を進めて行く、そんな気質が傍(はた)から見ても有り余る程に知らされた。だからか少年は自分の性質に就いて他所の子には恐らく無い特別な任務の様な次元が取り付けられて、それ故の特殊な能力を誇る事さえ出来得るものだ、と密かに認めた上で、別段それ等の事を取り上げ自慢する事は無かった。寧ろ他所の子とは違う特別な能力というものに自分が見て来た知った、或いは吸収して居た最後の砦にまでも自重する事の余波が仄かに大胆に影響して来て、自分の体裁すらも他人(ひと)から見て危ういものと成るのでは、等言う不安の存在は尽きないで居た。この少年の心中に置かれた「不安」は微妙に、人知れず所で物黒に走って行く現実の帰路へ就く際には間違い無く障壁と成るものとして掏り替えられて、挙句に、自分が歩の速度を落とし始めた一端(いっぱし)に見られる思考の弾劾を罵られる事は、自分がこの地上に於いて生きる間に展開されても仕様の無い事である、と半ば諦めても居た。
意味有り気な口調を自分が見知った机上に置いて躍動する経過と結果とを何時(いつ)も大目に見得る「余波から生れる現実のベース」とは無い物か、と苦心惨憺しつつも躍動に駆られた儘で又翻弄される躰を憶えては、少年の心は何時しか桃源郷から知らされ得て居た白色が勝った黄金の景色を彩る迄に成長させられ、唯闇雲に呈した自身の配慮が少しでも誰かに何かに配慮された兆しが在ると見た上で嬉しがった。
ガラスケースに入れられた自身の体(からだ)と才能とを煌びやかに彩った陽光の存在にこれ迄自分が求めた全ての財産は在る、として少年は春の涼風の内にその身と母の肢体二つとを委ねた上で、現実に知らされて行く玉石が束ねられた様な絵本の内に躍動を期する各キャラクターの命は程好く逡巡させられ、孤独を孤独と見ないで済んだあの理想郷がよもや今自分の心中に用意される事への喜びを以て少年は矢張り又歓喜した。雨が呈した泥濘の道は程好く晴れ上がった晴天の下(もと)で晴れて乾いた物と成り果て、無味乾燥とも採れ得る様々な漫画のキャラクターの浮彫へと身を落して行く人の「作品」の流れには、程好い速さで干上がり続ける人の才質の在り方を知って居た。少年は自分達の身の周りと足元で程好い速さに寄って片付けられて行く「謳歌」への残骸を知りながら、凍える間も無く固められ行く半身の人魚がまるでトルソの様に青銅の青光りを以て朽ち果てた展開に両足を取られつつも、自分の仕事を放棄する事はせず、やがては孤独を破壊してくれるであろう無力の散開につい落ち度が無い事を両の目で確認した上で、固陋する行く末を按じながらに自分の保身を信じて居た。そして突飛的な行動は少年の得体の知れない不理解を介して一向に休まる事を知らず、両手足・両目を挙げて跳び撥ね続けて、意味有り気な会心は既に他人の常軌を逸した無心の叫びの様にもその形成(なり)を見せ、少年が何かすれば、その「何か」とはまるで常人からして未来に存在する事柄であるように認められた。だからか、彼が自分の目的を知ってその「目的」を追い掛け、又元在るべき位置迄廻り還って来る時には、そうした常人達が向う方向とかち合う場合が有り、常人にはこの「少年」がまるで自分がこれから向かうべきとした未来の国から遣って来た王子の様にも見えるのである。
この辺りの、人から以て理解不能とされる辺りにあわよくばこの少年の「恐ろしさ」があり、この経緯だけを採って噂をする者は世間に於いて、逆上した様に触れ回る安心落伍(よていちょうわ)を冠した耄碌の節に煽てられた一吟を招くようなものとして在り、端(はた)から見て居て知り得た事には、この「少年」とは誰の周りにも在るのだ、という挿話が在った。彼は昆虫界に於いてその逆鱗に触れると百足の次に怖ろしい、否人に依ればその「能」を齧り喰い尽す恐ろしさを持つ主よりも、速度を持つ故に「恐ろしい」とされる蜂の様に身を現実の生物から躱しつつ、恙なきや落とし穴にさえその身を潜めた儘で、白く密に凍った商談の数々さえも馬鹿にする事が出来、「全て」が持つ「生」をも自ら立てた巣の内に干して行った。ささあっと身を躱して振り向かずに一目(いちもく)の内に逃げて行くその姿には、一介の騎士がやがて従来自滅に迄解け入った「未開の土人」の様に筵を着直して、自身を護り得る箱庭の内へと舞い込んで仕舞った訳だ。
彼は、この現実に在る危ない橋よりも、始めから存在し得た安全圏を取った、と今なお言い張る。
~密会~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji
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