幸せの意味

三奈木イヴ

少年の忘れもの

「ハァ……。」


一つ息を吐いた。


それは、ため息なのか…それとも寒さからなのか…。


家族だったものから強烈な匂いがする。


血の匂いと…臓物の匂いと…硝煙の匂い……


「……どうしてこうなったんだっけ」


少年は、自分がつい先刻した事を忘れていた。


『や、やめっ…うグァ……』


自分を虐げた、父の腹を得物で掻っ捌いた。


『お願い…!お願いだから見逃して!』


『……』


『キャァ!』


息子を虐げる夫を止めもせず、むしろ賛同してきた母の頭を撃ち抜いた。


そして、少年は狂ったように、両親をナイフで滅多刺しにした。


虐待の影響によって少年の記憶は、簡単に忘れ去られるようになっていた。


故に、惨殺の現場を見ても平然と居られる。


自分が殺した事を覚えていない。


故に罪悪感を感じない。


少年にとっては、自分を殴る両親が消えたことに喜びを覚える事だったのかもしれない。


突然両親を失った事に絶望するのかもしれない。


しかしそれは、少年本人にしか、わからない事だ。


今後はどうしようか。


何をしようか。


この感情の昂ぶりをどうやって発散しようか。


少年の頭には、たくさんの考えが溢れ出した。


きっといつしか、今日の事も忘れるだろう。


でも、それで良いんだ。


僕には最初から両親なんて居なかった。


頼れる存在なんて何も無かった。


全てを信用してなかった。


自分の過ちすら思い出す事ができないんだ。


ならば、僕はどうすればいいのだろうか


1人ということは、自由に生きれば良いのだろうか?


でも、自由ってなんだろう?


1人で生きるって何をすれば良いんだ?


両親達はそんな事教えてくれなかった。


まあ、どうでもいいや。


あんな奴らの事なんて…忘れてしまおう。


忘れちゃえ


全て忘れればいいんだ。


「……そうだ。」


とりあえず


「行こうか」


僕は、血と臓物が臭うこの場を後にした。

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幸せの意味 三奈木イヴ @tumugyu

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