~凡庸とした海~(『夢時代』より)
天川裕司
~凡庸とした海~(『夢時代』より)
~凡庸とした海~
投稿されない空想(おもい)を集めて京都に吹いた寒風(かぜ)に佇み、鴨川見ながら知己(とも)を片手に芽生えた愛と、如何(どう)でも沿わない恋愛情緒に気分を遣りつつ、洒落た喫茶をうろうろ出てから彼女と別れ、俺は急々(いそいそ)講義へ向いた。十一月の涼風が躰を刺すのは熱気に埋れた試算を講じる夢想(ゆめ)を灯した俺の眼(まなこ)に、程好く解け入る彼女の冷気に絆された為、俺の覇気には淀みが出始め、〝意味〟を追うまま学生街へと途方を暮れさす俺の遊戯が禿(ち)びた勇気を放ったからで、如何(どう)でも片付けられ得ぬ彼女の勇姿が怒涛の如くに俺に押し寄せ、俺の背中が業火に追われる人質(じんち)を観たのが夏日に逆行(たど)れる思考の露わの暁ともなる。白い孤独が夜の底から湧き行く体(てい)にて車道を行き去る自動の羽音(はおと)は音の無いまま叱咤され行き、俗世を講じる人の群れには譬え個人(ひとり)を呈した内にも嗣業を重ねるオルガを重ねて幻滅させ得て、俺の孤独は猛火を知りつつそれでも掴んだ理想女(めがみ)を離さず鼻息荒(あら)して独走(はし)った為に、前方(まえ)に後方(うしろ)に左右に上下に、滞らず咲く人の生吹(いぶ)きを真面に捕えて休息(いとま)を知り得ず、今日の青春(はる)にはどっぷり浸かった理想(たおや)の主(あるじ)を行く行く認めて俯せ行って、この両手(て)に乗じた幼女(こども)の姿勢(すがた)を目下に置きつつ、独歩を重ねた俺が睨んだ徒労の果てには、光明さえ無い旧歴(むかし)の匂いが仄かに流行(なが)れて成長し始め、俺と彼女は漆黒成るまま浮遊して行く夏日を呈さぬ京都の真昼に、独創(こごと)を吐き遣り形成(からだ)を遊んでとうとう逆行(もど)り行かない課業に徹した。まるで益荒(ますら)と手弱(たおや)を順折り描(か)きつつ無教を訓(おし)えた古典の愁訴が堂々巡りに青葉を散らせて枯葉を生け捕り、孤高に置かれた二人の余韻に端から端まで天命(しめい)を遮る〝白色童子〟の試算に加えて目下を知り行き、把握し得ない男女の蛻を一層愛する努力の成果(かなた)に稚拙を馴らしめ役(えき)を保(も)とうと孤独を呈する俺は静かに、彼女の無音の努力が破滅を呼びつつ愚かな素行(こうい)に堕ちて行くのを仔細に観て採り、如何(どう)にも成らない二人の素行(すこう)は熱を覚まして独歩(ある)いて行きつつ、二人の間近に現行(しぜん)を相(あい)せる無業の生果と諭して見て採り、心中等には現(うつつ)を抜かして届きもせぬまま二人の肢体(からだ)は秋に活き行く命も知らぬと、危ない橋には視(め)もくれないまま明日(あす)を遮る教訓(ドグマ)を知った。とぼとぼ何時(いつ)もの通りを闊歩(ある)いて行く頃、童貞間際に少年(こども)を抱えて気熱(きねつ)を発した下肢(こかん)を感じ、徒然行くまま黄色を映した飯屋の窓には都会の病苦を態(てい)好く宿してカレーを食わせる植民文化の成果が細かく並び、当ての外れた俺の肩には宇立(うだつ)の上(のぼ)らぬ坊の正気を真面に捕えた馴染みの姿勢(すがた)が事毎映り、彼女を忘れて神に仕えた醜女(しこめ)の表情(かお)等ぽっぽぽっと浮き出た思惑(こころ)の全てに整理を付け行く自活(おのれ)の準備は、無言が呈した密室(へや)の内にて静かに静かに、丈夫を期し行く俺に為された。
俺が以前、遠い私縁(しえん)を夢見て俗世を引退出来得る至極(しぎょく)の場所をと求めて居た際、〝ここぞ…!〟とばかりに目を付け味を占めつつ未開の園への順路を示した一介の明快(オルガ)を思惑(むね)に飼う頃、所々で苦行を成し得た人間ドラマが空論(あぶく)に映って解体され行き、自信(おのれ)の夢想(ゆめ)にはまだまだ小さい幼女が住み生(ゆ)く仔細を知らされ、独創(こごと)に念じた歩力(ほりょく)は今でも、倒壊され得ぬ理想の下(もと)にて唯一輝く女を知り得た。名を栄子という、牧師の子である。虚ろ虚ろに独歩を始めた経過は今でも暗に籠るが、それでも栄子の立場の変化に驚き嬉しく、少々何処(どこ)かに俺の熱気が這入れる隙など見付かる様(よう)にて、俺の鼓動は少し和らぎ、〝冷静〟目掛けて尻尾を振り得た人間(ひと)の裸写(はだか)を染み々々深々、俺の記憶は止めたのである。栄子は子供の姿勢(ようし)を具に化(か)えつつ、父親(おや)の麓を離れて直ぐさま跳び立つ覇気を転じて教会(いえ)を出た儘、俗世へ羽ばたく二翼(によく)を保(も)ちつつ手足を拡げて、俺の目前(まえ)にて誠実なるまま純心(こころ)を呈し、蔓延る無情の柵など事毎引き抜き俺の身元を身近へ置いた。連(つる)んで出て来た奈落の底より姿勢(かたち)を成し得た遊女の群れとはこの時孤高に生き得た俺の童貞(もはん)を具に垣間見手中へ呼び止め、心中(こころ)で発した孤独の容姿に事毎溢れた暴露(ぼうろ)を温(あたた)め、疎外を嫌い、俺の身元を明るくしたまま渋々早めた都会の空気に身を寄せ遣りつつ俺の表情(かお)など具に見て居た。何処(どこ)か異質の漂う暗い希望の咲き得た密室に数多に分れた幼女は遊女の肢体を採りつつ懺悔に満たぬ謝罪を据え置き聡明成るまま俺の気持ちに素早く解(と)けて、何処(どこ)へも行かない女装(おんな)の強靭(つよ)さを真向きに受け取る俺の目前(ふもと)で瞬く間(あいだ)に一つ三つの世俗の情(じょう)など啄み揃えて俺に対する無欲の姿勢(すがた)を南に構え、小言に念じた悪事を設え孤高に堕とした総身を挙げて前進して行く。何処(どこ)へ辿るか知らない彼らの用地は次第に膨張した儘まるでPTAにも対するように許容を示して俺と向き合い、進む過程に付け入る隙など少しも無いまま完璧(かべ)を呈して恭(うやうや)微笑(ほほ)えみ冷たく成って、俺は段々教室(ここ)に居るのが如何(どう)でも哀しく何処(どこ)か広場へ脱出したいと熱望するほど私欲に解け得た常識(りかい)は窄んで孤独を洗い、再び自分の糧とするのを妬んで行った。
栄子は恐らく中学校の理科の女教師をしていたようで、白いブラウスを柔らに身軽に肌へ落して体裁繕い、髪は後方(バック)に結わえて紺のスカートは膝上程にて、黒色(こくしょく)に輝(ひか)る女の魅力を紺に準え解かして行くのを俺の空想(いしき)は事毎捉えて栄子を見上げて、栄子は右手一本生徒へ差し出しその日に教えるノートの言葉を、事毎具に説明しながら真顔に緩めた振舞(しせい)を講じて行く行く生徒を和ませて居た。曇りか雨かも見知らぬ外の景色は俺の背後で解け入り俺の目前(まえ)には煌々明るい蛍光灯(あかり)の群れが六つか八つ点けられ熱を発して熱気が上げられ、外と内とを自然に隔てた擦り硝子には自然に生れた人の吐息が雫に成り着き泡に成り着き、密室(へや)の暑さに和みを覚えて懐古を知り得た俺の科学は如何(どう)でも足りない安堵を欲して再び栄子を求めて行った。栄子の具有(そんざい)共々、心身(からだ)を欲しがっていた。教室(ばしょ)を呈した建物等には、高校等とは熱気(くうき)が違って和らぎ行って小さな囲いに源(もと)を溜めつつ結束が在り、それでも小学校等に比較をすれば行事に熱気(くうき)にこれまで見知った形式(きそく)の在り処が煌々輝(ひか)って情景(けしき)を張り出し、私闘を演じる栄子の様相(もよう)は発声(ことば)に詰められ人への主義(イズム)がとんとん拍子に幻(ゆめ)を擡げて複雑に在り、情事(こと)の模様に、綱領(かたち)の無いまま無残に叫べる至純(しじゅん)を呈する展開(ドラマ)が在った。栄子の容姿は可なりの美形を成し得て俺の視線を緩々放さず、硝子を通して眺めた表情(かお)には微光に映った馴染みの躍動(うごき)が具に観て採れ俺を放さず、てきぱき躍動(うご)く肢体の隅には両脚(あし)から両腕(うで)から顔(くび)から頭髪(かみ)迄、ぴかぴか曇らせないまま過去を揺るがす吐息(いき)が戦(そよ)いで俺に差し込み、呆(ぼ)んやりしたまま俺の私闘は静観極めて時を忘れた密室(へや)に佇む。頭髪(かみ)と言えば、良く良く見遣ると、団子とまで行かない幼い丸みが頭頂(うえ)から少し後方(うしろ)に位置して音がするほど黒美(こくび)を纏い、蛍光灯(あかり)や外景(そと)の陽光(ひかり)を微弱(よわ)く捕えて充分認(したた)め、俺の両眼(まなこ)へ寸分狂わず真向きに対して餌とするのに熟考重ねた真摯が在った。真面目を呈する出で立ち模様はそれまで観て来た栄子の実力(ようす)を少々違(たが)えて四面(しめん)を飾り、思惑(こころ)に残った真摯の体(てい)など秘密にし得る試算の限りは三つに分けられ俺の胴体(からだ)を床(とこ)から離せる能力(ちから)を保(も)った。俺はこれまで三度この生娘(むすめ)の奇怪な空虚に蹂躙せられて縋り付かされ、滔々芽の出る自体(おのれ)の空事(なやみ)を一向解けずにこの日に参じた。栄子の姿勢(すがた)はまるで中国生まれの美麗を添え得た子女にも映り、俺の鼓動はてくてく脈打ち顔から肢体(からだ)を順良く見積り、果てには自身(おのれ)の理想を象る吟味を受け取り、その上奇麗な二重瞼を煌めかせ行き時折り男子生徒を魅了して行く牛歩に任せた艶姿には、「明るい教卓の下に一輪咲き得た悪い女教師」の姿が発(た)った。しかし栄子の姿勢(すがた)を良く良く見遣れば、明るく輝(ひか)った教卓の横から光彩(いろ)を解けずに徘徊している別の光彩(いろ)が輝(ひか)って差し込み、緩々刻んだ記憶の隅には以前(まえ)に見知った栄子の姿勢(すがた)が有り有り見え出し、俺の両眼(まなこ)は両脚(あし)を揃えて着地したまま次転(つぎ)を観るのに尽力始めて、栄子の口元、鼻の横には、小さく咲き得た二つの黒点が栄子の表情(かお)を抑揚付け行き他人に観せ行き、それを機にして俺の脳裏(こころ)は栄子を以前(まえ)にも況して不美人(びじんにあらず)と煩悶しながら空に解け入る嗜好を練った。小鳥が鳴いた昼過ぎの事。
栄子の細工に難癖付けつつ頻りに寄り添え合えない旧知を壊して俺の嗜好(ドグマ)は頭上に冠した屍(かばね)を挙げつつ新たな模索を講じ、次第に影無く消え行く栄子の美麗を取り留めないまま俺は手中(て)に入れ栄子の表情(かお)には体温(ねつ)が灯らず俺の記憶に埋れて果てた。俺の姿勢(すがた)を認めないまま授業か講義は栄子と生徒に続けられ行き流行(なが)れ生(ゆ)くまま気迫の籠った気色を見せたが、俺は変らず認められ得ず皆の周りで具に観測して居る傍観者と成り、栄子は群れに合せて調子を繕い、俺の胸中(もと)へは決して這入るを良しとせずまま俺はひたすら栄子に対して好意を寄せ行き熱風さながら恋の上気を体内(からだ)に飼いつつ、当面果てない活気に溺れた。所詮俺には新たな生気を口には出せず窓から差し込む煩悩(なやみ)の種には真向きに捉える覇気など保(も)てずに、仕方の無いまま俺の躰は栄子の心身(からだ)に順応するべく魅了されつつ、栄子の孤独に如何(どう)でも新たに惚れ始めて居た。何より、家庭に芽生える温(ぬく)みを保ったカーディガンがピンクに火照って教卓の上にてひらひら舞いつつ、俺が振舞う同じ社会であの馴染みが懸命に働き熱くなるのをぞくぞくさせられ俺は観ながら、〝一緒に成りたい〟と強く思わす思惑(ひきがね)を構築していた。とにかく栄子は以前に見たよりすっきり痩せて熱気を外界(そと)へ追い遣り流行(なが)れへ絆し、血肉が隆々漲る様子が俺の両眼(まなこ)にしっかり伝わり、奇麗で可憐な美人であるとの烙印等は、俺の脳裏(こころ)に滔々焼き付き孤独に成り得ぬ渡航を知った。
俺はけれどもそこでは栄子と話せる機会を持ち得ず、次の場所へと移って行った。時折り醜く急を要する欲の肢体(からだ)が天から降り立ち俺に対して仁王に先立ち、じっと、見詰める両眼の奥では俺の悶えた軌跡(あと)が残って他所(ほか)へは行かず、如何にも斯うにも幸先成らない修行を具えた淡い通りが小路(こうじ)を備えて幾つもに在り、一番魅力の少ない袋小路に態々投身して行く自分の姿勢(すがた)を傍観するまま俺の手足は背中を蹴った。或る教会が主催していたキャンプの場面へ俺は参加して在り、キャンプと言っても何処(どこ)か屋外(そと)ではないまま白いビルの何部屋かを借り切り個別に分れたグループ等がその場その場で活動して行き交流し合うよくある気色を薄く儚く俺へ見せ遣り、白い煙が白い天井(そら)へと溶けて行く頃、俺の肢体(からだ)はバーベキューしながら愉しむ人の興味を具に捕えて匂いを嗅いで、周りへ集った淡い人間達と深く交流して行く憂いを捉えた。階下で肉の匂いが俺を呼び付け、はっと返った我の居場所は緩々空気が抜けて行きつつ白い壁には行き止まりが在り、先へは行けない一定され得た冷たさのような風(もの)が何処(どこ)か見知らぬ場所から吹き入り、俺の体は緩々流行(なが)れる空気に解け入り両脚(あし)が浮き出し、大きい長屋の二階に居るのをぽつんと知り得て、そこから延び行き地面へ降り着く段が在るのを確認してから活気が灯った俺の肢体(からだ)は仔細に遊んで寝室(ねむろ)へ着いた。階下へ降り行きそのまま行って、果てに居座る玄関口からビルを知ろうと歩いて行っても、段々遠退く地面を感じてまるで夜中のように辺りの暗く感じる密室(へや)の並びは滔々尽きずに、白壁(かべ)に躰を寄せつつ魅惑の足りない非凡を独歩(ある)いて行けば、遂に別の活気を明瞭(クリア)に伝える気色の表情(かおぶれ)達が身詰(みづ)めを呈して俺へはだかり、大樹に寄り添う気質を暴かれとととと参加し、厚く茂った人気(ひとけ)の数多を指で構築していた枠の内にて密かに捕えて、自分の愉しむ準備を待った。そこにはパイプ椅子から炭火を匂わす銀のネットと誰かが居座るソファなどが雑苦把乱(ざっくばらん)に並べられ行き、俺の呈した待機の調子はそうした倶楽部を想わす半ば耄碌だてらに現代(いま)を匂わす改築(しかけ)がしてあり俺の心身(からだ)は遠くへ消えて、何時(いつ)しか見果てた少女の筵が足場を違(たが)えて俺から遠退く冷たい気色が銀色食器に瞬く間(あいだ)に駆け込み消え行き、光沢(ひかり)を潰した人の造作が何処(どこ)で息絶え精進し行くか俺の思惑(こころ)に全く届かず未知と成り行き俺には誰も寄らずに周りに集まる隣人達とは酷く他人を想わせられ得る白色顔した伯爵(あるじ)であった。俺はそれでも流行(なが)れに際して即して孤独と成るのを酷く嫌って他人を寄せ付けないまま会食(しょくじ)を待ったが、中々ここぞという機会等には巡り合えずに細かい動作が周辺(あたり)を捉えて領土を欲し、他人(ひと)の流動(なが)れを上手く止めずに独創(こごと)を息巻く観者(かんしゃ)と成り得た。そうする合間に上手く微笑(わら)って飛び入り参加で独走(はし)って来られた牧師が一人俺の目前(まえ)へと元気に現れ、白い煙に解け得ぬ体(てい)にて矢張り微笑(わら)って、良く良く見遣るとそうして息巻く牧師の背中の陰には供にも見得(みう)る神学生(ひと)の幾人(いくつ)が仄かに知れる。丁度その時俺の態(てい)とは空腹抱えた野良児(のらじ)の体(てい)にて如何にも斯うにも餌を欲しがり、他人(ひと)から投げ遣る飲食し得る機会を具に観測しながら待機して居て、その上孤独を称した俺の心境(こころ)が露わに成りつつ他人(ひと)から観るより自己(おのれ)で観る技術が奏してはっきりし出して、自分に対する好機が重なり来るのを既知に在れども身軽に捕えて憔悴して行き、焦って来るのを身内に感じた俺のオルガは尻尾を巻きつつ牧師を見て居た。その牧師は名を安沢と言った。普段通りに恰幅が好く、体躯がでっぷりして在り、既知に在れども無言に圧する立場の姿勢は滔々俺の真心迄へも触手を延ばしてすっと居座り、堂々足るまま明瞭成るまま、何時(いつ)もの威厳と威嚇を両方揃えた〝鷹の爪〟には足場を取らない浮遊の態(てい)にてふわふわ丈夫に人工照(ライト)を受けつつ脂を光らせ、微動に居座る俺の体(からだ)は対人避けつつ肉を欲する舌の温(ぬく)みを早々(そうそう)呈して俺の活気へ拍車を掛け得た。俺は直ぐさまそうする内に十年離れた教会通いに自分が図太く居座る悪事を立てつつ斜に構えて、正視(せいし)出来ない乱業(らんぎょう)の数多が漸く俺に懐き出すのを具に捕えて事毎恥じ行き、女を放して人間(ひと)を離して信仰(こころ)を遠くへ離し終え行く自身の不甲斐をきちんと採りつつ竦ませ始めた自身を呈して牧師に甘え、漸く見知った背後(うしろ)の供者(ともしゃ)に人工照(ライト)が刺さり、母性を呈する栄子に寄り付き、ついでにこれを機にして栄子と「馴染み」を通して近くなろうと親を交えた縁談等にも興味を持った。教会ではそれまで通った信徒が余裕(ゆとり)を残して去り行く際には、下手を採りつつ妙に訓(おし)える従者が在るものであり、その従者とは信仰(こころ)に呈した敬虔なる決意(きめて)を胸中(むね)に宿して魅力を挙げる固陋者に多いのであり、牧師と栄子は共に信徒にその時、俺が久々成るまま教会主催のキャンプへ参加して居た暁等にも、ずっと寄り添い俺の不甲斐を見守り続ける聖者の姿勢(すがた)で俺に対して真摯を講じ、徒然なるまま妙に働く俺の悪心(こころ)に対して迄も明瞭なるまま透る親切等を真向きに投げ遣り見棄てないまま俺との時間を仔細に保(も)った。月日が流れてその教会の内から抜け出す体(てい)にて滑走して行き、県を跨いで離れた僻地に佇む教派を違(たが)えた別の教会の内へと所在を移した矢先の気色であって、変遷してから漸く二年が過ぎた最中(さなか)に在った。
馴染みとは言え、その男の威厳と威嚇を感じて見限る態(てい)にて他所へ移った俺の状態なれども、きちんとこうして真面に対して一瞥優しく誠実なるまま俺を迎えて温厚(ぬくみ)の内では俺の手を引き、柔い天地へ誘導して行く聖者の親子に感じてしまって離れた教会(ばしょ)に存在していた貴重なオルガを大事に扱い、捨てた自分を怨み始めて違(たが)えて果てた彼らの間(あいだ)を修復し始め嬉しく思えた二人の愛情(おもい)に自分を結んで生きて行こうと改悛するが、刹那講じた意識の内には、こうした好意を持て得る信徒(ひと)との仲でも他人が這入れば信頼(オルガ)は消え去り、〝相性合わず〟の嫌な奴などごまんと見て来た教会(ばしょ)の内ではこの時憶えた愛情等には思いが届かず、一目散に過去に紡いだ悪事が嘲笑(わら)い出すのは自然であった。俺はそれまで沢山栄子にではなく、栄子の知らない場所にて知らない女に十戒に大きく背いた非道を為して来て居り、とても栄子を真意に迎えて止める余裕が無いのにそれ等を隠して今はこうして栄子の親玉とも成る如来の目前(まえ)にてあれやこれやと画策して居り、襤褸が自我(おのれ)を越えつつ滲み出るのは了(わか)っていながら、欲に跳び付く乱心のみにて自我(おのれ)を忘れて丈夫を示した。栄子も牧師も俺の挙動に自然に気付かず、唯目前(まえ)に佇む一人の青年なるを品(ぴん)に決めつつ今後の成り行き等を談笑(はな)して在って、俺の心境(こころ)は如何(どう)でも解けない淀んだ主(あるじ)を真逆に捉えて俗世を活き行く元気に身を乗せ、恰も〝強く成れた〟と錯覚しながら栄子に近付き如来に阿る孤高を知りつつ無粋に在った。惨(まい)ったものだった。次から次へと栄子の口から牧師の口から温(ぬく)みに輝(ひか)った挨拶(ことば)が飛ぶのに、俺の口から出るのはあれやこれやと画策詰めした独創(こごと)が飛び出てちゃんちゃんばらばら、野望の与野(よや)に足らずの未熟が活き行く。牧師に就いては、以前まで見た威厳も威嚇もその際には失(な)く、自然(じねん)に微笑(わら)った好々爺として身の在り方にも余念(おもい)が在ったが、俺の鼓膜は瞬時に別の方から轟く自身を讃える轟音(おと)を知りつつ機能に於いては自然(じねん)と成って、牧師と俺との絆の在り処は人間(ひと)には知れない密室(へや)の内へと独走(はし)って行くのが傍観するまま自然に在った。まるで俺にはそうして出来得る密室(へや)の在り処をそれこそ関係(あいだ)を以て栄子と牧師に自然(しぜん)に伝える武器と成るのを薄ら気儘に感じて居たが、時は経過(なが)れて二人の呈する自然の微笑は物を言わずに姿勢(すがた)を化(か)えて行く為収拾付かずに、文句も言えない小物に成りつつ小声で主張を返して行くのが自然の動作と成り得た俺の無頼は、何処(どこ)へ寄っても儚く閃き、情を絆した一介なれども、白紙を念頭(あたま)に置きつつ保身に徹した無様を示した。そうした俺の思惑(こころ)を矢張り真面に明日(あす)を知らない二人の挙動は俺を歓迎して行く蛻の温(ぬく)みに安堵を求めて自我(おれ)を信頼して居て、その場限りの殊勝な雲行き任せの身上採りつつ断固不動の自線(じせん)を歪曲(ま)げないまま行く俺の動作は、二人を配下に付けつつ翻筋斗打(もんどりう)つまま主張を燃やした一青年の姿勢(すがた)を表へ呈した。自信を隠して識夫(しきふ)と成って、栄子の母性(すがた)を底から奪(と)ろうと目測して行き自然(じねん)を越え得ず、そうする様子を表情(かお)に映した体(てい)にて恐らく近付く牧師の興味を一つ一つに纏めて摘むまま自然(しぜん)に、好々爺に在る俺への余念(おもい)を具に捉えて糧として行く自流の音頭につい又絆され始めて、二人を根こそぎ教会から採る俺の自然の不自然等が表情(かお)を顰めて自我(おれ)へ跳び付き、白紙はそれでも自然に任せて自我(おれ)の内へと還って居た為、その表紙(うえ)に自由に写した俺の言葉は自然なるまま開祖が描(か)き行く模範と成り得た。そうした三人を包んだ大層感情の豊穣を照らした鬼畜の文化を模造したのは、俺を除外(はず)した二人の自然であるのに相違無かった。
俺の思惑(いしき)は徒然なるまま自然に焼き肉から白煙(けむり)から離れて行って、予め据え置かれていた白いテーブル、パイプ椅子に着き、体動(からだ)を安めて二人に対した。今まで立位で談笑(はな)して居たから自然に独創(こごと)が跳び行き二人に対して孤立無援の不様を成した、と深々吟味して行き反省していた俺の体動(うごき)はよもや座位に語れば落着して行く気勢や言葉の安堵を垣間見ようと楽観して行き二人に対して真向きに構えてどしんと据え着き、逃げない姿勢(すがた)を相手に示した。どよどよしていた周囲(まわり)の気色は、何故か身近に在りつつ遠方(とおく)に感じて呈した気配だけにて俺を責め立て、無言を呈した口火の先には俺の知らない遊技場在り、魅力が在って、我等の談笑(はなし)を邪魔立てし得ない空気を呈した。俺はそれ故この二人と微笑を持ちつつ対して居ても一向気力の脆弱(よわ)まる気配を知らずに開き直れて、よもや弱味(よわみ)は二人が憶えた俺の模造の、美化に埋れた独創(こごと)に在った。そうした気配を片手に保(も)ちつつ座して落ち着く俺の隣に、始め、栄子がそれまで熟した俺への構えを解きつつこれから始まる談笑(かいわ)の口火を仄かに切る為静かに座り、最近自分の身の周りで起きた諸事等摘まんでうっとりさせ行く世間話(はなし)をし始め、段々神妙を擁する表情(かたち)と成り行き、端(はた)から見遣れば二人の様子は馴染みを踏まえて結婚して行く若者特有の元気を講じた姿勢(かたち)を採りつつ睦まじくも成り、栄子は唯、良く俺の隣で微笑を浮かべる淑女であった。そうする内に、
「一寸待っててな。肉か野菜取って来るわ。」
と笑顔を浮かべてぱたぱた、熱気が供する群れの内へと走って消えて、不安を掲げる俺の思惑(こころ)が仄(ほ)んのり絆され牧師の表情(かお)など観察して行き次の場面へ変遷する頃、行方を違(たが)えず栄子の肢体(からだ)は同じくぱたぱた微動(うご)いて俺の下(もと)へと還って来て居た。離れない、俺はそう思った。栄子が戻って来てから外気に注いだ活気の源(もと)でも摘まんで来たのか、栄子の肢体(からだ)は表情(かお)に先立ち遠慮をしないで俺が欲するものとは別の気丈を乱散(らんさん)して行き牧師に移り、牧師は栄子の気丈を上手(うわて)に採って俺へ対峙し、愈々神妙成るまま信仰尽かせぬ教理を吐き出し俺に取らせて、他所の教会(ばしょ)から元の教会(ばしょ)へと連れ行く寸法等を自嚼しながら狙いを定めて、俺の体動(うごき)を自分の調和に鎮めて行くのを、次第に構築していた弁説(べんせつ)口調を挙げつつ俺の調子を馴らして行った。緩んで行く三人を包んだ規律とはこの頃から出て来て俺を誘い、俺は自然に二人に対する従来具えた甘えのような試算を覚えて真摯を晦まし、良く良く聴けば明瞭(クリア)に聞える二人の口調も段々麻痺した真摯に任せて自我(おのれ)を通して傍(はた)へ向かずに、銃弾(たま)の体(てい)にて関係(あいだ)を飛び交う俺の快楽(オルガ)の果てとは栄子の余念(おもい)を待たずに独歩して行く悪魔の巣窟を一畳飼った。それと同時に奮起していた俺の信仰(おもい)に全て準ずる言動(うごき)の正夢はふと手中に思った次の教会(ばしょ)での献金なんかを転々(ころころ)転がし得(とく)へ行き着き、〝始めに言っておきますが、今自分は別の教会にて生活し始め、口調を窄めた箴言等にも一端(いっぱし)に追従(ついしょう)出来得る自我(じぶん)の強靭(つよ)さを承けたところで気持ちが良いから、貴方の言う栄光を冠した元の教会(ばしょ)へは戻る気は無い〟と言うような長々話をなるべく簡潔(みじか)く纏めて伝えて、牧師の表情、体動、指の先まで、微弱な信号(しるし)を求めた視座を置きつつそれを扱う自体を操(と)り行き、俺に対する牧師の微動(うごき)を仔細に捉えて保身を呈する何時(いつ)もの自身の連動(うごき)を採り行き、そうした注視は大体全てが背後(うしろ)に控える栄子の姿勢(すがた)に静かに軟く、向けられていた。牧師は時を熟して自分が躍(やく)する視座を取り置き、十分(じゅうぶん)話した口調に差し行く紅潮(あかみ)を見て取り微熱を以て狡く成り行き、俺の真摯を真向きに座らせくどくど切々、自身が夢見た経験談等、聴かれないまま洩れる口から姿勢(かたち)を発し、俺の姿勢(すがた)を正そうとした。牧師はそうして、〝行っては成らない教会〟に就いて適当に纏め挙げつつ、それでも長々喋り始めた。
「…間違った教会だけは此方(こちら)へ排除して(〝小さく前倣え〟の形の両手を以て半弧を
長々、同じ程度の内容(はなし)を抑揚付けつつ喋られ続けて、ふむふむ聞いてた俺の心境(こころ)に漸く小さな隙が表れ体を動かし穴から逃げて、俺の思惑(こころ)は既に牧師を離れて理想に佇み、栄子の姿勢(すがた)を蛻と知っても俄かに求め、孤独を閉め切る数多の苦労は牧師の口調(こえ)を遠くへ置き遣りそのまま離れた女体を欲して、俺の思惑(こころ)は狂々(くるくる)旋回(まわ)って宙(そら)へ浮きつつ、別地を求めた快楽(オルガ)を知って、今は遠くへ咲かせた思想を信じた。力説して居た牧師に対して、
「教会を見極めるって難しいですね」
等とその場限りの話調を合せながらに俺の言葉はすらすら流れて出て行ったのだが牧師は話調を重ねる気も無く自声(じせい)を通し、「いや、段々数を重ねて行くと自然と悟って来る。見極められるように成って行く。」と又当然の表情(かお)して喋り始めて、立場は俺より一つ上まで押し上げられつつ、居座る姿勢(すがた)は威厳を呈した。
漸く煙たく輝(ひか)った白煙(けむり)の群れとも人の群れとも体(からだ)が離れて、小窓がぽつんと壁に咲き得た密室(へや)の内には栄子の姿勢(すがた)が放棄されつつ俺の還りを待ってた様子で、それでも自然が呈する俺への嗣業は如何(どう)でも懐かずそのまま冷たく無間(むかん)に具えて熱気を挙げて、俺の体はあっと言う間に外界(そと)へ飛び出す暴挙に在った。したり表情(がお)した二人に解けつつ俺の野望(ねつい)は芯から覚め行き、今後に備えて具に吟じる牧師と娘の或る話調の姿勢(すがた)に対して俺の脳裏(こころ)は、仕方が無いからこの場は納得、と烙印押しつつ自分の情緒(こころ)に発見(あらた)を欲して、明日(あす)へ生き行く過程を観ていた。
~凡庸とした海~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji
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