文芸部の日常

HerrHirsch

文芸部のなんたるか

「てーれっ、てーれっ、てーれて~てて~」

「ゆーちゃんご機嫌やね」

 美少女たちの戯れ。それは実に素晴らしい情景のように思える。これが文芸部だと言えば、世の文芸部員の約97%は私の事を殺しにかかってくるだろう。正直肩身が狭いので変わって欲しいくらいなんだが。

「今日は部長さんの誕生日ですよ!そして誕生日パーティーを合法的にできるのです!こんな機会またとありません、全力で楽しんで、そして楽しませて見せます!」

 うーん、ここまでたかが一高校生の生誕を祝う日をビッグイベントに仕立て上げるだけの祭り子は滅多に居まい。まぁ、浅草っ子の宿命なのかもしれないが、にしても彼女のお祭りごとに対する執着は異常だ。

「ゆーちゃんが楽しくしとったらうちも楽しなってくるわぁ~」

 それは事実だ。正直な所、ここまで楽しそうに誕生日を祝ってくれるのは、両親とて産み得というものだろう。まぁ、両親はむしろこんな狭い部室ではなく家に女子を呼べと五月蠅いのだが、そんなことをすれば世の文芸部員の99.99%が私の事を殺しにかかってくることになるので、絶対に阻止したい。

「遅れたっす!」

 今日は出席率がなかなかいい。我が聖域の門を開き、彼の者がやってくる。正直男1人はきついのでありがたいが、こいつ、男の娘であるからして私に対する世の文芸部員の殺意は確実に上がっている事であろう。

「うぃ~、来たぜ」

 っと、お色気担当も来てしまった。相変わらず目に毒なほど豊満な胸部だ。

「お前ら、何で今日ばっかり?」

「自分の「部長の「部長さんの「お前の《誕生日》だからな」ですから!」ですし」やろ~」

「はぁ……いつも来てくれよ…。」

 ひとり部室で時間を過ごすことの寂しさが分かるか…?いや、まぁ来られても気まずかったりするのだが。

「まぁいいじゃねぇか。やろうぜ、誕生日会!ケーキは作ってきた」

 その女子力の高さは素直に尊敬するところだ。全員揃ったところで一人ひとり紹介していこう。このごりごりの男口調が特徴的な黒髪黒目ポニーテールの巨乳長身お色気担当が副部長の四十宮〔よそみや〕作美〔さくび〕。大陸の方の財閥の娘で、スペックがバカ高い。正直部長の座を丸ごと放り投げたいくらいなのだが、本人たっての希望で副部長の座に収まっている。でも実際の所部長会にも代理で出てもらっているし、会計のサポートもやってもらっているから、実質的には部長だと思う。

「神輿は止められたんで神棚持って来ました!後巫女装束も!」

 どう考えても誕生日会を荘厳に捉えすぎているのが、浅草出身にして圧倒的な祭りっ子、元気一杯のピンク髪ピンク目のツインテール女子、それがゆーちゃんこと結綿〔ゆいわた〕奏〔かなで〕である。

「着替えてきますね~!」

 爆速で女子トイレへ向かっていった。あの元気を分けてもらえるのは、かなりありがたいところなのだが、色々抜けている子のため、そこだけ注意してもらいたいところだ。

「ほんまゆーちゃんええなぁ…嫁にしたいわぁ」

 と、その界隈の腐った男子共が盛大に歓喜しそうな発言を投下する関西弁系茶髪茶目ショートヘアー女子が、庶務担当、二ノ文〔にのふみ〕廿日〔はつか〕である。ルックスは悪くないのだが、私生活と諸々は絶望的。残念な美少女という表現が一番妥当である。

「それ、本人には言うなよ…?」

 そして部長にして文芸部唯一の男手、肉体労働も事務作業もどちらも出来ないものの責任を取ることに関しては超一流、草羽〔くさば〕雫〔しずく〕。ちなみに黒髪黒目若干地黒のぱっとしない顔立ちの人間だ。

「そうっすよ!ゆーちゃんは僕のっす!」

 で、二人目の百合担当がこの梵〔そよぎ〕初〔うい〕。翠髪碧眼の長身でモデル体型。胸も無いわけではない。ま、正直四十宮よりは目にいい。

 それはさておきだ。こいつら何なんだ?ここは文芸部だぞ?

「着替えてきましたぁ!」

 正直めちゃくちに似合っている巫女さんが扉を開ける。そしてケーキが長机の上に出され、神棚も用意される。

「……お前らには、文芸部の何たるかを教えてやるっ!」

 ここに決意した、文芸部部長であった。

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