真夜中のコンビニで

@minatomachi

第1話 静かな訪問者

2024年6月19日(水曜日)、深夜2時。雨が降っている。


深夜2時、いつものように閑散としたコンビニ。店員のアキラは、カウンターに立って商品の整理をしていた。外では雨がしとしとと降り続け、コンビニの窓ガラスに水滴が流れていた。店内には、冷蔵庫の低いハム音と蛍光灯の微かな音だけが響いている。


コンビニの入り口近くには小さな花壇があり、紫陽花が鮮やかに咲いていた。雨に濡れた紫陽花の花びらは、青や紫、ピンクの色合いを帯び、まるで雨粒が宝石のように輝いて見える。アキラは、その美しさにふと目を留めた。


雨の音がコンビニの静けさを一層際立たせている。アキラは、時計をちらりと見上げ、深夜2時を確認した。まもなくいつもの時間だ、と彼は思った。ドアが静かに開く音がして、アキラは顔を上げた。店内に入ってきたのは、毎晩この時間にやってくる常連客の老人だった。


老人は傘を閉じ、足元の水を軽く払ってからゆっくりと歩き始めた。彼の歩く音が床に響き、アキラは軽く会釈をした。老人も静かに頷き、いつもの棚に向かう。棚の前で一瞬立ち止まり、小さなコーヒー缶を手に取ると、またゆっくりとカウンターに向かってきた。


「今夜も雨だね」と、老人はしわがれた声で言った。アキラは笑顔で答える。「そうですね。梅雨の季節はこういう夜が多いですね。」


老人は頷きながら、小銭を数えてコーヒー代を払った。彼の動作はゆっくりだが確実で、手慣れた様子だ。「ありがとう」と短く言って出て行く老人を見送りながら、アキラは心の中で思った。毎晩この時間にやってくる老人との小さな交流が、彼の深夜勤務の中で一つの楽しみになっていた。


老人が出て行った後も、雨は止む気配を見せず、しとしとと降り続ける。アキラは、次の訪問者を待ちながら、コンビニの静けさと外の雨音に包まれていた。


その夜、アキラはふと気づいた。老人が手に取ったコーヒー缶のラベルが新しくなっていることに。小さな変化だが、常連客の老人にとっても特別な意味があるのかもしれない。アキラは微笑み、明日もまた同じ時間に老人が訪れるのを楽しみにしていた。


外を見やると、紫陽花の花びらが再び彼の目に映り、雨の中で一層鮮やかに見えた。その美しさに、アキラは心が和んだ。

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