第36話 手の届かない婚約者

 佐倉来人は、田園調布の駅で理沙と合流した。

石川五郎太から聞いた住所を目がけ、歩道を歩く。

 理沙は「その、千田実清って何者?反対側?」と聞く。

「わからないが、多分そうだろう、翔子を狙う理由があるのは〝ヤツら〟以外は考えられない」来人は、早足で歩きながら、キツイ口調で答える。

 理沙は複雑な心境であった。

〝帰ってこなければいい〟そんな汚れた感情があったのも、事実であった。


 やがて、教えられた住所に辿り着いた。

そこには、古びた洋館が存在した。

だが、洋館の敷地は、草が生い茂り、門も南京錠がかかっていた。

 〝誰も住んでいない廃墟〟

そんな印象を二人とも受けた。

来人は、暫く考え込んだが、やがて〝言霊〟を使う。


 〝鍵は壊れて門は開く〟


 来人の言霊どうり、南京錠は〝カチャ〟と小さな音をたて門は開いた。

 理沙は、先程から〝残像〟を捜すが誰一人その洋館に近づいた者はいなかった。

 来人と理沙は、洋館に歩を進めた。


 洋館の玄関は施錠されておらず、容易に中に入れた。

 中は、暗く、それでも何十年と人が住んでいないのは、感じとれた。

 来人は、「翔子!」と叫びながら、次々に部屋のドアを開けて捜す。

 理沙も、来人に続きながら〝残像〟を捜すが一向に人の気配はない。

 来人は、エントランスにある二階へ続く回り階段を駆け上がる!

 二階に上がって二つ目のドアを開けた時に二人は絶句した。

 その10畳ほどの部屋には、立ち鏡が10数枚壁に掛けてあった。

 「なんだ⁈この部屋は!」来人は鏡を一枚、一枚覗きこむ。


 自分が写る鏡の中、何枚目かの鏡にある異変に気づく。


 その鏡に自分は映らず、ある部屋の様子が写しだされていた!

 その部屋の中に、白いドレスを見に纏った〝翔子〟がいた!

 来人は、「翔子!」と叫び、鏡を叩く!

だが、鏡に写しだされた〝葉山翔子〟は気付く様子はない。

 「翔子!俺だ!翔子!」と取り乱し叫ぶ!

やがて、その部屋に、袴を履いた一人の男が現れる!

 男、〝千田実清〟は、一瞬、来人をみて、不気味な笑みを浮かべ、翔子の身体に手を這わしだした。

 翔子を抱き抱えた実清は、来人に向かい。


 「お前の手の届かない世界だ」と言葉を発した!

来人は、咄嗟に〝言霊〟を使う!


 〝俺は鏡の世界に入れる!〟

来人は、手を伸ばして、鏡に触れると、指は、鏡の中に入りそうになったが、言霊の代償で、両手、から、血がふきだし、その場にき、跪いたひざまず

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る