夜の歌(小説版)

朽木桜斎

プールサイドに、二人

「くもってきたな」と、俺。


「そうだね」と、彼女。


 プールサイドに、二人。


 飛び込み台に、並んで。


「あそこのアジサイ、きれいじゃない?」


 アカリの指は、いい角度。


「青紫だね」


 俺の返事は、退屈。


「知ってる? 赤紫だと、死体が埋まってるんだって」


 アカリは、笑う。


「埋まってたりして」


 今度は、退屈、じゃない。


「掘ってみようか?」


 アカリは、体を、丸める。


「スコップ、あるかな」


 俺は、乗り気、の、フリ。


「埋まってるのは……」


「ん?」


「わたしかもね」


「は?」


ヨルが見てるのは、幽霊……」


 その口角こうかく、いい。


「足、ついてるだろ?」と、指を、さしてみる。


「最近は、ね?」と、隠された。


 白い足、長い足。


 ほんとに、かも。


アカリ、さ。俺……」


「あ、雨」


「あ……」


 降り出してきた。


 涼しい。


「にわか雨、かな?」と、俺。


「だったら、いいの?」と、彼女。


 ほくそ笑んでいる。


「別に、どっちでも」と、つまらない、俺。


「更衣室、行こ」


 立ち上がる、彼女。


 背中。


 遠くなっていく。


 にわか雨、なのか?


「紫陽花や プールサイドの にわか雨」


 体が、冷えてきた。


 温まりたい。


 行こう。

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