現代転生異世界騎士タカシ
naosan
第1話
王国歴120年。
長く続いたその歴史も、時代と共に衰退。政府は少しずつ腐り始め、その隙をつくように周辺国家に攻め込まれていた。
「祖国のために!!!」という掛け声と共に、勇敢なる騎士たちは敵陣へと突撃する。戦場では各部隊が激しくぶつかり合い、土煙が立ち込める。視界は悪くとも、金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。
時は戦国。大陸には大小さまざまな国家が立ち並び、戦争の炎が絶え間なく燃え続けている。騎士たちもまた、連戦連戦の果てに疲弊しきっている。
そんな中、獅子奮迅の勢いで戦場を駆ける集団がいた。
「うぉぉぉおお!!!」
「見ろ、隊長が奮闘されておるぞ! 皆の者、続けぇぇええ!!」
辛い時こそ、隊長である私が率先して突っ込んで活路を切り開く。この騎士たちは今までこうして戦い、そして生き残ってきた。
そうして築き上げた戦果は、王国をなんとか保てるだけの戦果をあげていた。そうして戦果をあげ、また次の戦場へ駆り出される。そしてそこでも戦果をあげる。
そうして繰り返していたからだろう。周辺国家からの恨みを多く買ってしまった。
どんなに強い隊も、数の暴力には勝てない。
「はぁはぁ……流石大国は違うな。倒しても倒しても敵が湧いて出てくる」
「隊長……このままでは」
「分かっている」
恐らく噂が広まってたんだろう。私たちの隊を倒すにしては過剰すぎる戦力だ。
このままでは部隊は全滅。精鋭と呼ばれたこの隊も、もはやここまでか。
グッ、と唇を噛む。意を決して私は皆に伝える。
「聞けお前ら。我らはこれから祖国コンビニダトへ撤退をする。だが、見ての通り簡単には帰してくれなそうだ」
目の前の大隊は少なく見積もっても、こちらの三倍はいる。
そんな中よく、こいつらは脱落することなく私に付いてきてくれた。自慢の仲間たちだ。
固唾をのんで、隊員は私の言葉を待っている。
真剣な目でこちらを見る隊員たちは、その言葉を言わないで欲しいと願っていた。
だからこそ私が、言わないといけない。
今回の戦いは敗戦だと。
「祖国に戻れば我々は、負け戦の責任を負わされるかもしれない。それでもお前たちは国へ戻り、いつかの起死回生を願って雌伏して時を待て」
「そんな……!」「隊長……!」そう呟きながら項垂れる隊員。全員を生かして帰すことができない私を許してくれ。
「殿は私に任せろ! 私と共に死んでもいいやつだけついてこい!」
最後の大仕事だ。何名か私に付き添って、前へ出てくれる。特に長く付き合ってくれた仲間が主だ。若者は生き残るべきだろう。肩を叩かれ後ろへ下げられる者の中には悔しそうに下を向くものもいる。
殿。
どう考えても生き残る術はないはずなのに、最後までついてきてくれる良き仲間だ。
「残りの者は我々の意思を託すぞ、どうか祖国を守ってくれ!」
と、私たちは叫びながら、撤退作戦が始まる。
それから何人の敵を斬ったか。10から先は数えていない。時が経つにつれ周りの側近が一人、また一人と倒れていく。
腕が上がらない。はぁはぁと崩れた息が整わない。
隣を見る。
最後まで私に付き合ってくれていた友も、既に地に伏せている。その場で立っている人間は私一人だった。
少し遠目から馬に乗り、こちらを伺っている敵。一体なにに怯えているのか、それとも最後の時を少しでも長くしてくれようと気遣ってくれているのか、未だ突進をしてこない。
(もはや、ここまでか……)
ドドドドッ!!
と、少し遠目から土煙を上げながら騎馬が迫ってくる。まるで大型の魔物が突っ込んできているようだ。その光景に思わず笑いがこみ上げる。私たちの部隊を倒すために過剰な戦力だ。それだけ恨まれていたと考えるか。それとも最後まで全力で来る敵に敬意を払うべきか。
その騎馬を前に、私は恐れはない。思い出すのは戦友たちの顔。殿を務め、仲間を故郷に帰す。この俺の選択は間違っていなかっただろう。
「後は頼んだぞ、戦友たちよ」
ああ、私の選択は間違っていなかったと。そう思える国の結末を期待しているぞ、戦友たち。
そうして私は大量の騎馬に轢かれながらも、心は満ち足りたままで息絶えた。
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