VRMMO世界で何かしらの秘密を握ってるNPCを演じたい(願望)

みかん大福

第1話 NPCを演じたい





俺、音羽奏おとはかなでは荒んでいた。毎日毎日同じ様に会社へ出勤し、仕事をしては帰る。その繰り返し。もう今年で30代後半、何もやりたいこともなくつまらない人生を送り、金を使う機会もほぼない。だがそれももう終わる。最近、VRMMOの新作が出たらしい。ゲームの紹介文を見てみる。その内容に俺は目を見開いた


『終わりのない冒険の果てまで、君も一緒に行こう!陸、海、空、宙、全てを冒険し、君のやりたい事がなんでも出来る新作VRMMORPGここに誕生!【アドベンチャー・ワールド・オンライン】現在好評発売中!』


俺は迷わずカートに入れた。その後、値段も何も見ず購入。何かが変わる。そんな気がした



数日後



ぴんぽーん


「お届け物でーす」


「きたあぁぁぁぁあ!!」


ようやく届いた。まるで神を崇め称えるように配達員に跪いて感動の涙を流す


「嗚呼、俺はこの時の為だけに今まで一生懸命働いてきたんだな......」


配達員から奪い取ったダンボールを撫で回す。早くこの梱包を剥いでくれと中で叫んでいる声が聞こえる


「今出してあげるからねぇ」


ニチャニチャと10人中10人が見たら目を逸らす様な笑顔をしながら梱包をぺりぺりと丁寧に剥がしていく


「うおおおおぉぉぉおおお!!」


出てきたのはゲーム機。だがただのゲーム機ではない。今最新のVRMMO【アドベンチャー・ワールド・オンライン】、その高級機種である。今すぐにでも神棚に飾りたいぐらい美しい


まるで神や仏の様に後光が差している。(幻覚)


「早速ログイン......と、行きたい所だがまず装着する前にこの身を清めなくては」


すぐさま風呂へ行き興奮して出しまくった汗を流していく。じっくり30分、長風呂をしてしまった


「はぁはぁ、(電源)入れちゃうよ?全部入っちゃうよ?(フルダイブ)」


ゆっくり慎重に、ここでミスをしてしまえば全てが水の泡


「ふぅ......起動!」


装着の余韻に浸りながら、満を持してゲームを起動する。体全体を浮遊感が襲い、気付くと幻想的な風景が広がっていた


「ようこそ【アドベンチャー・ワールド・オンライン】へ。私は管理AIのシズと申します。質問がありましたらお気軽にお声掛けください。先ずは容姿設定をします。何か質問はございますか?」


目の前に出て来たのは如何やら管理AIらしい。まだ少女の様なあどけなさが残る一方、大人の女性みたいな雰囲気を醸し出している


「容姿ってどこまで変えられる?骨格とかは?性別は?」


「はい。容姿はほぼ自由に変更する事が出来ます。しかし、性別や骨格の変更は出来ません。その辺りはご了承下さい」


ふむ、やっぱりダメか。まぁそれぐらいは予想していた。もし男性が女性になって女性に対してセクハラしたら絶対アウトだしな。俺は顔を老けさせ、ダンディな口髭を生やし、髪色を白髪にし、目の色を碧くして設定を終了した。うむ、中々いいものが出来上がった。まさにイケメン紳士って感じ


「お次は種族を決めてもらいます」


種族の一覧が一気に出される。かなりの数だ。その中には魔物などの適性種族などもある。やっぱりここは無難に、


「人族で」


「かしこまりました。最後に名前設定をしてください」


名前如何しようかな〜。そのままだと味気ないし、英語っぽくしたいな......。そうだ!


「ジェーン・ドゥ。俺は今日からジェーン・ドゥだ」


「かしこまりました。設定はこれにて終了です。お疲れ様でした。分からないことや疑問に思ったことなどはメニュー表の『ヘルプ』を参照してください。これからも【アドベンチャー・ワールド・オンライン】をお楽しみ下さい。では『ジェーン・ドゥ様』、いってらっしゃいませ」


そう言い残したシズは空間に溶けていき、完全に消え去った


「さてと、先ずはこの体でのロールプレイをしっかり身につけないとな。一人称は儂、語尾にじゃをつけよう」


これで俺のやりたい事が出来る!


俺のやりたい事それは......




『誰にも正体が分からず、何かしらの秘密を握っているNPCを演じる事』


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