第二回短歌・俳句コンテスト 短歌二十首連作部門「母についての20のこと」

ぱら

母についての20のこと

収骨室 母の大きな人生をこんな小さな箱に収める


繰り返し私の髪を結った手がひつぎの中で冷え切っている


「献杯のさかずきどこに仕舞ったの」北枕の母に尋ねる通夜


風薫るあなたが愛した花の庭を葬送列は静かに進む


五月晴れの風の強い日 大好きな母との永訣えいけつの別れの日


最愛の人を亡くして父の背がいつもと比べてずっと小さい


背すじ伸ばし平気な顔で弔事読む ホントはわあわあ泣きわめきたい


次の季節を三人姉妹は歩いていく あなたのいない乾いた野辺のべ


ただ泣いて泣いてあなたを困らせる小さき私も今の私も


寂しくて眠れぬ夜もあるだろう 病を恨む日もあるだろう


「のりちゃんがいなけりゃなんの意味もない」ボソリつぶやき下を向く父


「明るい人だった」「かわいい人だった」「いい人だった」過去形悲しき


「あのときはごめん」謝りたいことがいくつも浮かび空に消えてく


「おかえり」と聞こえてきそうな玄関だ 聞こえてくるまで立ち尽くしている


また春の野原を一緒に歩きたい 夏も秋も冬にも一緒に


たくさん泣いてたくさん泣いてあなたのいない世界に静かに雨が降る


この星は一人うしない質量をやや軽くして重たく回る


来世でもあなたと一緒に過ごせたら今度は少し素直になろう


花よ降れ あなたが黄泉よみにいるのなら黄泉を埋め尽くすほど花よ降れ


大声で笑って遊んで跳んではしゃいで 母はたしかにこの星にいた


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第二回短歌・俳句コンテスト 短歌二十首連作部門「母についての20のこと」 ぱら @paramiy

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