第8話 現実味
作曲の仕方がわからない。
だから私は、ピアノの先生に聞いてみようと思った。
私は幼稚園の年中さんの頃からピアノを習っている。先生はずっと変わらず、沢崎澄香先生。えみかとすみか、一文字違いだなってずっと思っていた。先生もそのせいか、ずっと私のことを妹のように可愛がってくれて。本当に大好きな先生なのだ。
だから、この間が……いたたまれない……
事の発端はついさっき。レッスン室に入ってすぐ、私は澄香先生に言った。
「澄香先生、こんにちは。澄香先生は作曲のやり方ってご存じですか?」
私の姿を見て手を振っていた澄香先生は驚いた顔をして言った。
「作曲ぅ!?」
驚きすぎて声が裏返っていたけれど、まあそれは置いておいて。
「はい、作曲です。ピアノソロとかオーケストラ用の曲じゃなく、歌の作曲」
と私は言った。今、オーケストラなんかのクラシックの曲の作り方を習っても意味ないよね。
すると先生は、ん……?と訝しげな顔をしたあと、「まさか!」と大きな声を出した。
「えみちゃん、まさかハイドラに出るの!?」
その言葉に私は大きな声で言った。
「はい」
って。
そうしたら先生、黙り込んじゃって、それから数分が経っている、というのが今の状況。
この居た堪れない沈黙を破ったのは、澄香先生の方だった。
「えーっと……ほんとに!?いや、別にダメってわけじゃないし、えみちゃん可愛いから人気出ると思うけど、なんでまたハイドラに……?」
まあ、驚くのも無理はない。私にはそんなことをするイメージがないと思われているって、自分でも分かっている。
「中学時代、幸に誘われて。その時は幸の勢いに圧倒されてうんって言っちゃったんですけど、今は本気でやりたいと思っているんです」
私は精一杯真剣な顔をして言った。本気だということを分かってもらうために。
先生にもその気持ちは伝わったのだろう、先生は
「そっかー、頑張れ。応援するよ」
と言ってくれました。
「で?作曲だよね?あたしもそんなに詳しくはないよ。伴奏つけるとかなら出来るけど、作曲はまた分野が違うからねぇ。全然専門的じゃない、あたしの勝手な意見になるけどいい?」
と言う先生に、それでもいいからと頼み込むと。
先生は私に次のことを教えてくれた。
・曲を作るには曲(メロディ)から作るか歌詞から作るかの二つがある
・歌詞から作る場合にはピアノなしでもメロディが思いつきやすいけどリズムに注意しないと語感が悪くなる
・曲から作る場合には、作曲する側からしたら自由度が高いけど、歌詞を合わせるのが大変になる
・最初は転調のある曲は作らない方がいい
などなど……沢山教えてもらったので、メモした。
私の場合は幸の歌詞が先にあるから、そこに鼻歌かなんかでなんとなくのメロディをつけたあと、歌いやすい調にしてピアノで曲にしていけばいいかな。作曲アプリは曲が完成した、最後の最後で使えばいいって先生が言ってたし。
先生の主観によると、作曲アプリに慣れていない私が作曲アプリのみで作ろうとすると、変にこだわって結局曲が完成しなくなる可能性があるから、ピアノで曲を作ったあと、作曲アプリで完成させればいいとのこと。
それを習ったっていう、小さなことだけど、なんだかアイドルに近付いた気がするな。ハイドラ出場もなんだか現実的になってきた気がする。
曲が出来たら、幸と二人で歌って。絶対先生にも見てもらおう。
先生の応援に、私が作った歌で応えたいから。
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