断食


「このままでは、本願の成就なりません。女になってから、性欲に忠実過ぎです。脳と子宮が繋がってませんか”私”?低下していた知力も先刻、上方修正した筈です。いい加減、目覚めてください」


上界にいる”私”から苦言を呈されてしまった。

自分自身に説教されるとは、これ如何に。


まあ、なんだ。

少しばかり、寄り道し過ぎたか。

魔都を満喫しようとして、遊び過ぎたかな。

不覚にも王都にいた時と同じ、遊び感覚で過ごしてしまったようだ。


まあいい、まだ間に合うさ。

今からでも、軌道修正することにしよう。




魔都に来てから暫く、ある日の事。

アーシャとエリナ、サティアはそれぞれの要件で不在となった。

サティア邸の留守を任されているのは、俺とティアナだけ。


他の三人を見送り、一息付いた頃合い。


「お茶にしましょうか」


久しぶりにティアナと二人きりになり、俺はそわそわと浮き足立っていた。

俺の頭は、これからティアナに酒を飲ませて、どう犯すか、どう孕ませるかという醜い欲望に満ちていた。


そんな俺に、彼女は茶を用意してくれるようだ。

なんだ、酒じゃないのか。

じゃあ後で俺から酒に誘うか。


そんな邪な考えの俺をよそに、ティアナは自前の器を、何処からともなく取り出した。

いかにも高級な器と、甘そうな菓子がテーブルに並べられる。


ポットに注がれた水は、火魔法であっという間に沸かされた。


注がれた白湯を二つのカップから別の器に移し、淡々と茶を淹れる。

素人目にも、慣れている手付き。

ティアナの美しさも相まって、芸術的な所作だった。


「どうぞ」


「あ、ありがとう」


既に目の前では茶が、柑橘類のようなさっぱりとした香りを漂わせていた。


「ズズズッ…」


ティアナが淹れた茶を音を立てて啜る、熱い。


俺は茶を嗜んだ事は無いから、茶の何たるかは分からない。

だが、その味はなんだか落ち着くものだった。

不思議と茶を飲んでから、頭の中にあったモヤモヤと言うか欲望が霧散していく気がする。


「なぜかこちらでも、F&Mのアールグレイが手に入ったんですよね。不思議な事もあるものです」


俺は茶葉について詳しくないが、教会の聖女なら高い茶を飲むのだろう。


忙しなかったパーティーの日々だったが、ここではゆったりとした時間が流れる。


「アルトさん、たとえどのような敵が現れたとしても…貴方は勇者として闘う覚悟がありますか?」


「い、いきなりどうしたんだいティアナ?」


テーブルで対座している彼女は、神妙な面持ちで俺に問いかけてきた。


「いいから答えてください」


力強い目線が俺を捉える。

どうやら、他愛無い世間話では無さそうだ。


「勿論、闘うさ。その為に聖剣を抜いたんだ」


「そうですか………なら、良かったです」


鋭かったティアナの目線は、いつの間にか母のような慈しみに満ちたものに変わっていた。


「?」


「ほら、アルトさん。せっかく淹れたお茶が冷めてしまいますよ?」


「お、おお…そうだな」


「私が用意したミルクもありますから、渋かったら足してくださいね」


冷めかけて渋くなった茶に、差し出されたミルクを注いだ。

その味は、とても甘くてクリーミーだった。



穏やかな一日を過ごす。

こんなの、いつ以来だろうか。


隙さえあればティアナを酒に酔わせて、無茶苦茶に犯していたのに。


今は、不思議とそんな気は起きない。

茶を飲んでから俺の頭は、青空のようにすっきりと晴れ渡っている。


そんな俺の状況を彼女は分かっているのか、分かってないのか…


その日を境にティアナは、大好きな酒を一切飲まなくなった。

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