断食
「このままでは、本願の成就なりません。女になってから、性欲に忠実過ぎです。脳と子宮が繋がってませんか”私”?低下していた知力も先刻、上方修正した筈です。いい加減、目覚めてください」
上界にいる”私”から苦言を呈されてしまった。
自分自身に説教されるとは、これ如何に。
まあ、なんだ。
少しばかり、寄り道し過ぎたか。
魔都を満喫しようとして、遊び過ぎたかな。
不覚にも王都にいた時と同じ、遊び感覚で過ごしてしまったようだ。
まあいい、まだ間に合うさ。
今からでも、軌道修正することにしよう。
♢
魔都に来てから暫く、ある日の事。
アーシャとエリナ、サティアはそれぞれの要件で不在となった。
サティア邸の留守を任されているのは、俺とティアナだけ。
他の三人を見送り、一息付いた頃合い。
「お茶にしましょうか」
久しぶりにティアナと二人きりになり、俺はそわそわと浮き足立っていた。
俺の頭は、これからティアナに酒を飲ませて、どう犯すか、どう孕ませるかという醜い欲望に満ちていた。
そんな俺に、彼女は茶を用意してくれるようだ。
なんだ、酒じゃないのか。
じゃあ後で俺から酒に誘うか。
そんな邪な考えの俺をよそに、ティアナは自前の器を、何処からともなく取り出した。
いかにも高級な器と、甘そうな菓子がテーブルに並べられる。
ポットに注がれた水は、火魔法であっという間に沸かされた。
注がれた白湯を二つのカップから別の器に移し、淡々と茶を淹れる。
素人目にも、慣れている手付き。
ティアナの美しさも相まって、芸術的な所作だった。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
既に目の前では茶が、柑橘類のようなさっぱりとした香りを漂わせていた。
「ズズズッ…」
ティアナが淹れた茶を音を立てて啜る、熱い。
俺は茶を嗜んだ事は無いから、茶の何たるかは分からない。
だが、その味はなんだか落ち着くものだった。
不思議と茶を飲んでから、頭の中にあったモヤモヤと言うか欲望が霧散していく気がする。
「なぜかこちらでも、F&Mのアールグレイが手に入ったんですよね。不思議な事もあるものです」
俺は茶葉について詳しくないが、教会の聖女なら高い茶を飲むのだろう。
忙しなかったパーティーの日々だったが、ここではゆったりとした時間が流れる。
「アルトさん、たとえどのような敵が現れたとしても…貴方は勇者として闘う覚悟がありますか?」
「い、いきなりどうしたんだいティアナ?」
テーブルで対座している彼女は、神妙な面持ちで俺に問いかけてきた。
「いいから答えてください」
力強い目線が俺を捉える。
どうやら、他愛無い世間話では無さそうだ。
「勿論、闘うさ。その為に聖剣を抜いたんだ」
「そうですか………なら、良かったです」
鋭かったティアナの目線は、いつの間にか母のような慈しみに満ちたものに変わっていた。
「?」
「ほら、アルトさん。せっかく淹れたお茶が冷めてしまいますよ?」
「お、おお…そうだな」
「私が用意したミルクもありますから、渋かったら足してくださいね」
冷めかけて渋くなった茶に、差し出されたミルクを注いだ。
その味は、とても甘くてクリーミーだった。
穏やかな一日を過ごす。
こんなの、いつ以来だろうか。
隙さえあればティアナを酒に酔わせて、無茶苦茶に犯していたのに。
今は、不思議とそんな気は起きない。
茶を飲んでから俺の頭は、青空のようにすっきりと晴れ渡っている。
そんな俺の状況を彼女は分かっているのか、分かってないのか…
その日を境にティアナは、大好きな酒を一切飲まなくなった。
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