第2話「我があらまし…」

「こんな時代だからこそ、自らの手の届くもの達だけでも命を懸けて守りなさい…」

カンテリオン村に住む領主の家来だった父アレシスは生前、私と兄者によく言い聞かせていた。


幼い頃…物心ついた時から近所の子ども達と共に軍隊遊びと称して木で出来たおもちゃの武器を振り回して遊んだ。

その傍ら、誰がどう動く事で勝てるかを考え続け、やがてそれが形となった結果、子どもの浅知恵ながらも自分が指揮する子ども集団は負け無しとなっていた。

友達からもよく「大人になったらお前が将軍になれよ!」などと言われた事で一時期は天狗になってしまってたのは恥ずかしいが良い思い出だ…


それから少し大きくなった頃、馬屋で飼育の手伝いを行いながら村の名産でもあるカンテリオン軍馬の世話をして過ごす事になる。

最初のうちは調子に乗って馬に股がろうとして、びっくりされた挙句振り落とされ大怪我をおった事もあり、その時は父上から大目玉を食らう散々な目にあった…

その後馬糞の片付けやブラシを使った毛並みの手入れに勤しみ、動物達と心を通わせようと苦労した結果、彼等の心というものが少なからず感じ取る事も出来るようになっていた。


そんな生活を送っていたある日、私の家族に転機が訪れる。


先々帝、ネレツェス様が即位された頃…

先のペンドライク大戦に従軍した父は、帝国軍が敗戦濃厚となった折、当時将軍であったアレニコス様に嘆願し、殿軍として勇ましく戦いながら味方部隊の敗走を支える武勲を立てた。

父自身も相当な重症を負いながら剣を振るったという所が武人である御方の琴線に触れたのだろう…

ネレツェス様戦死後の後日、皇帝陛下となったアレニコス様の軍隊がカンテリオン村に訪れ、陛下直々に我が家の戸を叩いた。

先の活躍に対する褒賞として…

一振のグラディウスとカンテリオン村の統治を認められ、以降も帝国への忠誠を果たすことを望まれた。それからの数年の間村で多少裕福な暮らしを送る事が出来た。


その後、アレニコス陛下が崩御され…

帝国も3つに分かたれてしまうという動乱が巻き起こる。

無論その余波は、カンテリオン村にも及び…時折、野盗や山賊に荒らされかける事があったものの、帝国軍人として、兵を指揮してきた父上による民兵との防衛のおかげで、村に被害が及ぶ事もあまり無かった。


父のそんな背中に憧れ、私もいずれは帝国の為に戦う騎士を志す…


厳格だが誠実だった父と、優しく美しい母…

聡明で礼儀正しい兄者に、元気溢れる2人の妹と弟…


都市の華やかな生活とは行かないながらも村での充実した日々…

失ってしまった今にして思えばあの頃は幸せな暮らしをしていたのだ…


しかし、運命の神とは時に残酷を好むものだ…

数日前の深夜…村の外れにある自宅にて盗賊の襲撃を受けた。


その折、父上、そして母上が殺され…

幼い姉弟二人も盗賊にさらわれたのだ。

辛うじて、私と兄者は襲い来る盗賊を撃退し、家族を取り戻すべく駆け出したものの…

馬に跨る連中に追いつけるはずもなく、奴らは闇夜へ消えていった。


途方に暮れながらも、ふと我に返った私と兄者は、自宅で冷たくなった両親の亡骸を抱き抱えて涙を流した…

遺体を丁重に葬り、家に残されたデナル貨幣をかき集め、妹弟達を救うべく、残された村人たちに事情を説明して村を出た。

途中、武具の修練を受け持つ修練場に立ち寄る。

修練による腕の研磨をし終えた後、手がかりを探すべく兄者の提案でリカロンの都市まで来た。


その道中、無情な世の理を耳にする…


城塞都市リカロンへ来た目的は、人身売買を生業とする奴隷商人を見つけ、さらわれた姉弟達についての情報をなんでもいいから掴む事だという。


というのも…我々が生きるこのカルラディアという地は、数十年に及ぶ戦乱によって人もまた商品として売り買いされる事が日常茶飯事なのだ。


無論私自身も奴隷という存在は知っていた。

近隣の村でも、どこかから買われてきた農奴が飼い主の畑を耕す光景はしばしば目にしていたが、よもやそれがこれ程の大都市ともなると1人や2人どころの騒ぎでは無く、戦争に敗れた貴族や敗残兵はもちろん、孤児となったもの達が何百人と一日で売り買いされるそうだ…


この世の闇の一端を耳にし…

嫌悪感抱きながら、人買いがいるという酒場の扉を開く…

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