5章 Twitterと焼肉と装甲手袋(3)

 そんな作業をしていると、ようやく見知ったアカウントから返事がついた。名探偵クラスタのインフルエンサー、銀田一さんからだ。


 ――ブランドモノのバックをプレゼントするとかどうでしょうか?


 悪くない意見だと思う。

 ツイッターでも度々、彼氏からもらったブランドモノのバックがー……といった趣旨のツイートを散見する。しかも丁度、俺達はいま銀座にいる。道路の両脇には数多くのブランドショップが並んでいた。

 近くの店のショーウインドウを通りかかり、俺は展示されている高そうなバックを指差す。


「よし! 心音、なんかバック買ってやるよ!」

「いらないです」


 そう冷たくあしらわれた。辛い。

 これも失敗だったか……。

 次の返事が来る。

 これも名探偵クラスタのインフルエンサー、暗智さんからだった。


 ―――プレゼントという案は良いと思います。誕生日が近いなら、それを理由に渡すのがスマートですね。贈る物ですが人それぞれ趣味があるので、その人が大事にしているものを参考に考えた方が良いかと。


 ベストアンサーな気がする……!


 杏の近辺調査もあり、心音の生年月日も知っていた。偶然にも誕生日は丁度、今月だ。

 心音の大事なものとは……と考えて、俺は真っ先にあの黄金銃が思いついた。悪趣味な複雑な装飾が施されたワルサーPPKだ。

 心音はああいう、趣味の悪い武器が好きなんだろうか?

 俺は『装飾』『武器』で、ネットで検索する。

 すると複雑な装飾の施された模造の西洋剣がヒット。

 西洋剣の画像を見て、俺は思う。


 ……めっちゃ格好いい……! 他人にあげるのではなく、自分がほしいぐらいだ。 

 俺がそう思うので、きっと心音も喜ぶに違いない。

 そう考えた俺は早速、ネットで注文する。

 丁度、そういった模造剣などを専門で取り扱っている店が秋葉原あった。

 販売サイトで、剣と一緒にチタン製の装甲(ガント)手袋(レット)もどうですか? とメッセージが表示された。ファンタジーに登場しそうな装甲手袋で、こちらもとても格好良い。買う。


 店頭での受け渡しに設定して注文、俺はその足で店のある秋葉原に向かう。困惑する心音を引きつれ、俺は沢山の武器を取り扱う店に入る。支払いを済ませて注文した品物の入ったダンボール箱を受け取る。

 近くのファストフード店のテーブルにて、珈琲を飲みながら俺は考える。


 ……プレゼント、どう渡せばいいんだ……?


 普通に渡せば良いとは思うが、どうするのが普通なんだ? そもそも普通ってなんだ?

 誕生日プレゼントと言って渡すのも恥ずかしい。

 さんざん葛藤した挙げ句、俺は心音に、


「それ、やるよ」


 とダンボール箱を投げ渡した。

 突然ダンボールを投げて寄越され、心音は困惑した顔になる。


「……はあ。良くわからないですが、くれるんですか?」


 心音がダンボールを開ける。

 中から装飾剣と、チタン製の装甲手袋が出てきた。

 心音は目を点にする。

 ……恐らく、めっちゃカッコイイ剣をもらって言葉が出ないに違いない。

 俺はそんな心音の様子を見て満足した。


 

 会議室の幹部黒服達は一般客に扮した部下にカメラを持たせ、碧達のいるファストフード店に潜入させていた。そのカメラ越しに、碧と心音のやりとりを見ている。

 訳が解らないといった顔で煙草の黒服が口を開く。


「あのクソガキ、剣や手袋を投げ渡して。何のつもりなんだ……?」


 坊主頭の黒服が答える。


「知らないのか? 恐らくこれは西洋騎士道の風習に則った、プレイヤー十三番から心音様への宣戦布告だろう」

「どういうことだ?」


 坊主頭の黒服が人差し指を立てる。


「中世の騎士道では、手袋を投げて渡すというのは相手に決闘を申し込むことを意味する。つまりプレイヤー十三番は、心音様と決闘するつもりのようだな」

「な、なんだって……!?」


 ガタッ、と机の音を立てて煙草の黒服は驚いた。

 モニターの向こう。心音も困惑した様子で暫く固まっていたが、やがてスマホを取り出して調べはじめる。

 そして心音が、ぎょっとした顔をする。

 どうやら幹部黒服達と同様、西洋騎士道の風習の情報に行き当たったらしい。

 携帯ゲーム機を手にここまで静かにしていた由岐であったが、姉の危機にさすがにゲームしている場合ではないと思ったらしく、由岐が勢いよく机を叩く。


「このままではお姉ちゃんが死んでしまいます! 早く助けないといけないです! 私、ひとつ良い作戦を思いつきましたです!」


 その発言に、三人の幹部黒服は一斉に由岐を見た。

 そして由岐は言う。


「現場はハンバーガーのお店です! こっそりハンバーガーと一緒にお姉ちゃんに武器を渡して、お姉ちゃんに倒してもらえば良いと思います!」


 三人の幹部黒服は、それが出来れば苦労はしねえ……ッ! と言いたげな苦虫を嚙み潰したような顔になった。

 と、ややあって天然パーマの黒服が何か思いついたらしく、顎に手を当てる。


「いや待てよ。あながち、隠れて心音様に武器は渡せるかもしんねーな……」

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