第76話 標的を、試し撃つ!
ども、坊丸です。
橋本一巴さんからの形見分けの火縄銃と実遺言状を持って信長伯父さんに面会したら、一応、火縄銃の所持を認めてくれました。
信行パパみたいに裏切るなよ!って五寸釘サイズで釘をさされながら、ですがね。
でも、戻してくれる前に、この短めの火縄銃を撃ちたいって辺りが、いかにも織田信長って感じですかね。
「殿、庭にいつもの如く、的を立てました」
やっぱり城内ですか!今日は、川原で試し撃ちじゃないんですね!城内ならすぐ準備できますもんね。
「で、あるか。では、行くか、勝家、坊丸」
「「はっ」」
って、平伏しながら答えて、頭をあげたら、もう、信長伯父さんはずんずん進んでいますよ。
二人で、一瞬、顔を見合わせたあと、すぐに追いかけ始めたら、長谷川橋介さんが案内してくれました。良かった、良かった。
庭には、急遽設えたためなのか、前回のような巻き藁人形ではなく、普通の弓道で使うような的と、その奥に陣幕のようなものが張ってありました。
「殿、少しお待ちを。陣幕の裏に藁や俵を置いております故、今少し、お待ちを」
と、佐脇さんが信長伯父さんに声をかけています。
「で、あるか。急なことじゃ、致し方あるまい。じゃが、急がせよ。その間、儂はこの短銃の準備をしておる」
そういうと、床几に座り、鉄砲箪笥から自分で火薬入れ、弾丸を準備し、弾込め、火皿の火薬、火縄の点火準備などを手早く行っていく、信長伯父さん。
え、いつも、小姓や近習の人が火縄銃の準備をしてたから、伯父さん本人は準備をしない、あるいは、出来ないのかと思ってんだけど、小姓や近習の人より火縄銃の扱い手慣れているじゃん!凄くない!
「ん、なんだ、坊丸。儂が火縄銃の準備をするのがそんなに珍しいか?」
「い、いえ、伯父上自ら火縄銃の準備をなさるとは思っておらず、少し驚きました」
「ふっ、うつけと呼ばれた頃は、火縄銃の準備は自分でするのが当たり前だったからな。
ま、火縄銃にのめり込みすぎたのも、うつけと呼ばれる原因であったかもしれん。
それに、一巴の奴に末期の願いとして、鉄砲の修練を怠るなと、言われたしな。
全く、平手の爺でもあるまいし、一巴の奴め、どこまでも、子供扱いしよる。
ま、その一巴が、火縄銃の準備は人手に頼らず、可能な限り手早く、正確に出来るようになれと、言っていたのをな、思い出しただけだ」
「はっ、橋本一巴殿の教え、伯父上を通して、坊丸も承りましてござります」
「坊丸、火縄銃の修練は、焦らずとも良い。何も幼子のうちから火薬の煙を吸い込まずとも良いからな。
そうだな、幼学を過ぎた頃からで良いだろう。儂は、数えで13、14の頃に初めて火縄銃なるものを知り、やっとのことで手に入れたものだ」
「はっ、伯父上の指示の通りにいたします」
と言って片ひざをつき、頭を下げます。
でも、ごめん、ようがくって何?洋楽じゃないよね?音楽の話してないもんね。
「坊丸、幼学は、十歳のことじゃ。後で、儒教の礼記を次兵衛か虎哉殿と読んでおけ」
と、隣で頭を下げる柴田の親父殿が小声で教えてくれました。へぇ~、そうなんだ。
意外と、博識ですよね、柴田の親父殿って。
「殿、遅くなって申し訳ございませんでした。陣幕の裏、準備終わりましてございます!」
と、佐脇さんが信長伯父さんに声をかけます。
「で、あるか。では、目標を狙い撃つ、か。」
そういうと、拳銃サイズの火縄銃を持って、立ち上がる信長伯父さん。
右手に火縄銃を握り、銃を前に出して右半身に構えています。
なんつうか、肩衣にハンドガンを片手撃ちって意外と格好いいんですね。
撃っては弾を込めてを五度繰り返しましたが、的を掠めるのがやっと。そして、やや上方向に着弾がぶれている印象。
「いつもの火縄銃であれば、15間で十中八九当たるのだが、この短い火縄銃では、なかなか難しいな」
やっぱり、滑空砲で、ワンハンドシュートだと、命中率落ちるよね…。
「畏れながら、伯父上、以前に川原で見せていただいた火縄銃とは、長さのみならず、持ち手も異なるもの、と存じます。持ち手を両手で持って、撃ってはいかがでしょうか?」
「これ、坊丸、殿は橋本殿からしかと教えを受けているのだぞ、余計なことを申すな」
「いや、坊丸のいうとおりかも知れん。いつもの大きさの火縄銃であれば、左手を銃身に添えてぶれぬようにするところだが、この短い火縄銃では、そうもできぬ故、片手で撃つものとばかり思ったが、そうか、握りを両手にすれば、もっと安定するな。うむ、やってみよう」
信長伯父さんは、左手を銃把に添えるように把持して、左半身になりました。
なにそれ、両手で撃ってみてって、言ったら、海外ドラマとかで見る射撃姿勢に自然になったよ!なに、銃撃の天才なの、織田信長!?
先程と同じ様に五発撃ち、1発命中、2発掠めると、命中率がかなり向上しました。
信長伯父さんが、拳銃サイズの火縄銃に慣れてきただけ、かもしれませんが。
「一巴が、わざわざ、あまり当たらぬ、と書状に書いておったしな。撃つ姿勢をかえても、まぁ、こんなものか」
「伯父上、重ねて、申し上げます。的に体を正対して、両手とも同じ様に握っては、いかがでしょうか?」
映画とかで、警官が良くやっている両手を前に出して、的に正対、上からみたら的に対して二等辺三角形を作るような射撃姿勢を、自分でやって見せつつ、提案してみました。
「坊丸、それは、良くないな。その姿勢は良くないぞ」
と、信長伯父さんに首を振られました。
え?海外ドラマとかだと、拳銃は、そうやって撃っているも良く見るんですが、なんか、ダメ出しされた…。
良い撃ち方だから、採用されてるんじゃないの?
ちょっと混乱していると、溜め息が信長伯父さんと柴田の親父殿から聞こえました。
なんか、よく分からないけど、本格的にダメみたいです。
「どうやら、坊丸は、わかっとらん様子。佐脇、説明してやれ」
「はっ。畏れながら、殿の命にて、佐脇良之、答えさせていただきます。
坊丸殿の言われる射撃の姿勢ですが、的に正対するということは、こちらも敵に曝す面が大きくなり申す。
それ故に、良くない、と、殿は言われたのかと…」
「佐脇、良くできた。儂もそう思った」
うーん、命中率より被弾面積を減らしたいってことなんですね。
だから、信長伯父さんも、ナチュラルに被弾面積の少ない、半身になるような射撃姿勢を、とっていたと…。
って、どんだけ、生き残るのに必死なんだ、戦国時代の人たち!
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