第74話 虎哉、その才

ども、坊丸です。

橋本一巴さんの墓参りに来て、火縄銃と遺言状をいただきましたが、なんと、信長伯父さんも墓参りに来ていたようす。


ま、本人は墓を見たいっていっただけだ!って言い張りそうですが。

それと、橋本一巴さんの墓参りに来ていた信長伯父さんの言葉や反応から、虎哉禅師が、浮野の戦いに興味を持った感じ。


「橋本殿の書状や沢彦禅師のお話を聞くに、岩倉城を攻めるはずが、浮野とやらで戦いになったと…。しかし、それが、信長様の絵図通りとは…。失礼ですが、柴田殿、中村殿、その戦についてすこし詳しく」


「お、おう。文荷斎は戦に出ておらぬゆえ、拙者から説明しよう」


と、そこから、まるで自分が戦場にいたかのような感じで、信長軍と犬山勢、岩倉勢の動きを熱く、説明する柴田の親父殿。

いや、あんた、今回は清須城で、織田秀敏殿と留守居役だったよね…。なんで、そんなに臨場感たっぷりに説明できるの?

もしかして、軍記物とか大好きっ子か?

そんな感じの感想を持ちながら、柴田の親父殿の戦の流れの説明を聞きました。


いやぁ、臨場感たっぷりでした。良い講談師になれますよ、親父殿。

一通り、柴田の親父殿が話し終わり、親父殿は満足げな顔をしてます。


その話を聞いた、虎哉禅師は、顎に右手をあて、すこし考え込むような動作をしたあと、柴田の親父殿に質問を始めました。


「一つ、宜しいか?浮野の城とやらが、浮き駒になるから壊したのは、わかり申す。青田刈りをするのも戦場での嫌がらせの一つとしてよく行われるのもわかる。だが、岩倉勢が来るまで全力で浮野城を攻めずに、青田刈りをなさった、ということですな。ふうむ」


「それがなにか?青田刈りなんぞ、戦ではよくやるでしょう」


と、柴田の親父殿。


「信長殿は、春までにもう一度、岩倉を攻める、と思います。しかも、次は必ず落城させるまでやるでしょうな」


「は?虎哉殿の見立てでは、また、岩倉攻めが、あると?」


すこし驚いたような声の柴田の親父殿。

自分も驚いたよ。信長伯父さんは、今回のに乗じてもう一戦っていうことでしょうか?


「まず、間違いなく」と、虎哉殿。


「して、その心は」


話を促すように、沢彦禅師が誘導します。さすがこの場の最年長。年の功だね。


「今回、岩倉城を落とすつもりであれば、清須と岩倉の間で合戦を行い、敵を南に引き付けた上で、その隙に犬山勢に城を襲わせれば良いのです。

城が攻められていると知れれば、岩倉の織田信賢殿であれば、城を守りに戻る。

それまでに犬山勢が城を落とせばよし、落とせずとも城に戻る岩倉勢を挟撃するかたちにして、その後に城に降伏を迫るか落とすか、すればよい。

なのに、信長殿はそうはなさらなかった」


「今の話だと犬山の手柄が大きいですからな、それを嫌ったのでしょうか?」


と、中村文荷斎さん。そう、それよ、それ。自分もそう思ったのよ。


「そう、今の話を聞くに実際の浮野での合戦では犬山勢は、信長殿を救援したものの、帰る途中で岩倉勢に襲われて、しかも、そこを信長殿の軍に救われている。

つまり、それがしがの先程、申し上げた策よりも、手柄はすくなく被害は大きい」


「な、合力して岩倉勢を攻めているのに、犬山の勢力も削った、と?」


素直に驚く、柴田の親父殿。

いやぁ~もしそうだとすると、信長の伯父さま、なかなかに腹黒いですな。


「たぶん、そうでしょうな。信長殿は岩倉を落としたあと、犬山の勢力が大きくなりすぎないように立ち回った気がします。

それに、浮野城を攻めている間の青田刈りに割いた兵力が大きすぎます。

これは、たぶん、冬から春の岩倉城の年貢と城に蓄える兵糧を減らすため。

甲斐の大名、武田晴信殿も本格的に攻める前に兵糧攻めの下準備として青田刈り目的の戦をすることがある、と聞いたことがございます」


「つまりは、今回の戦は岩倉から逃げ込む城を無くし、兵糧を削り、兵力も削ったと。これは全て、次の戦いの為の戦いであったと?」


柴田の親父殿が唸りながら、話をまとめました。お、わかりやすくていいね、そのまとめ。


「すくなくとも拙僧は、そのように考えまするが」


「しかも、岩倉城を落としたのち、いつかあい争うかも知れぬ犬山城の兵力や勢いも削いだ、と」


さらに、中村文荷斎さんがまとめを引き継ぎます。


「そちらは、たぶん、としか申せませんが…。「絵図以上」と信長殿がおっしゃったというのであれば、そこが「以上」の部分なのかも知れませんな。あるいは…、岩倉勢を討ち取った数が、「以上」の部分やもしれませぬ。こればかりは、信長殿のお心次第なので、推察するしかなく…」


「いや、虎哉殿、今の話だけで十分。我が殿がこたびの戦は、次の戦の下準備として行ったもの、とわかっただけで十分にござる。殿の深慮遠望、それがしには分かりませんでしたが、虎哉殿の解説で、殿の才に今一度、感服つかまつった。それに、岩倉を攻める次の機会が来年春までにあるとわかれば、次こそは、それがしも槍働きで活躍できるやも知れぬしのぉ」


「それについて、ですが、次の戦は柴田殿は主戦力の一員になると思いますよ」


「本当でござるか!もしそうであれば、腕がなるな」


「失礼ですが、虎哉禅師は、何故そのように思われるか?」


文荷斎さん、いい質問だね。そこ、自分も聞きたかった。


「今回は謀反を起こした弟御の信行殿に味方した林殿、柴田殿のうち、林殿を戦場に、柴田殿を留守居としたよし。

信長殿としては、かつて信行殿が岩倉勢と結び付いていたことを考えると、お二方に調略の手が延びている可能性を考えるでしょう。

戦場でお二方が裏切れば、兵力差が開き、苦戦する故にお二方両名をつれていくは下策。

同様にお二方を留守居にするも、まとめて裏切れば、本拠地を失うゆえ、下策。

お一人を戦場に、お一人を留守居にするが上策なれど、後はどちらのかたを戦場につれていくか?でございます。

戦場でもし離反しても、対処しやすいのは、どちらか?

留守居にした時、より裏切りの目が少ないのはどちらか?

そう考えれば、柴田殿が言われるのに、戦下手な林秀貞殿を戦場に連れていき、信行殿の二度目の謀叛を報せた柴田殿を留守居にした、ということになり申す」


「わ、儂は信長様を裏切るような真似は、もう二度とせんわい!」


「そのように伯父上様も考えられたからこそ、親父殿が清須での留守居だった、ということですね」


やっと会話に参加できたよ。さっきまで、ほー、とかへーしか喋ってないし。


「大変良くできました。坊丸殿。そして!次の岩倉攻めにはお二方は呼ばれる可能性が高い」


「その心は?」


やった、沢彦禅師が最初の頃に言ってたから、自分も言いたかったんだよね。「その心は?」ってやつ。


「坊丸殿、むしろ、何故、拙僧がそう考えたかお考えいただきたく」


む、笑って、質問返しされたぞ。これは、やぶ蛇だったか!


「うーん、二人を二度目の岩倉攻めには呼ぶ理由ですね…。柴田の親父殿は、既に稲生での戦で、打ち破り、浮野の戦いで伯父上の戦での実力を知らしめました。

また、先の戦で留守居を、させているがゆえに槍働きでの功を欲している。

だから、裏切らない、故に連れていっても大丈夫、とこんな感じですか」


Q.E.D、証明完了ってね。


「では、林秀貞殿を連れていく理由は?」


「うーん、林殿は、利に聡い方なので、落ち目の守護代からの調略には、もう乗らないだろう、ってところですか」


柴田の親父殿は、いつも一緒にいるから、なんとなくわかるけど、林秀貞さんは、あんまり絡んだことないからね。

まぁ、こんなに感じですかね。


「まぁまぁですな。今までの柴田殿の話を聞くに林殿が利に聡いようなのは伝わりました故に、落ち目のところの調略には乗らないだろう、というのはそうなのでしょうな。

それと、目の前で守護代の城を落とすことで、尾張の主が誰なのか、明確に示し、敵対勢力を殲滅する様を見せることで、再びの裏切りの代償が大きいことを見せる、と言ったところでしょうか」


「ふぅむ、伝え聞く林殿の性格と伯父上の考えだと、そうなりそうですね。

いやはや、そこまでは、考えが至りませんでした。

虎哉禅師、これからもご指導、宜しくお願いいたします」


気がつくと、今一度、虎哉禅師に頭を下げてお願いしていました。

ま、これだけ虎哉禅師の才の片鱗を見せられたら、素直に師匠!と仰ぐしかないじゃ無いですか。ねぇ。


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