第73話 え?まだ、この火縄銃、自分のものじゃないの?
ども、坊丸です。
橋本一巴さんの形見分けで、短い拳銃サイズの火縄銃をいただいたのはいいんですが、早合の研究を引き継ぐはめになりました。
ま、形見の火縄銃いただいたんでね、やりますがね。ええ、やりますがね。
「ところで、坊丸。明日、この火縄銃のことを信長様にご報告にいくぞ」
「え?橋本殿から形見分けで、いただいたものですが、報告した方がよろしいですか?」
「お前なぁ、信長さまの気性を知っておるだろう?
お主が幼子、それにその火縄銃が橋本殿の形見として頂いたものだからとはいえ、殿のあずかり知らぬところにて、お主が火縄銃を手にいれたことを後から知って、喜ぶお方か?
少なくとも儂の知る信長さまは、気分を害するな。
下手をすると、その火縄銃、召し上げられるかも知れんぞ。
だから、先手を打って、橋本殿の遺言状とともに報告に上がるべきだ、と言うておる。そして、早合の研究を引き継ぐつもりだと、申し上げるのが良かろうよ。
殿にとって、有用と思っていただけたならば、その形見の火縄銃の所持が認められるだろうて」
「そんなものですか…」
ちぇっ、研究用&護身用に拳銃サイズの火縄銃ゲット!って思ってたんだけど、そう簡単には手に入らないのかぁ…。
「そんなものだ。良いか、明日、橋本一巴殿の遺言状とその火縄銃を持って清須に行く。これは、決まりじゃ」
「おほん、坊丸殿。教育係として、最初の仕事として申し上げる。
柴田勝家殿の言う通りになさるがよろしいぞ。権力者と言うものは、基本的に猜疑心の塊と思っておいた方がよい。
報告と相談は密にして、二心の無いことを常に示すくらいでちょうどいい、と思いなされ」
咳払いしたあと、虎哉禅師にさっそく、初めての指導をいただきました。
むむ、これは、言うことを聞く他ないのか…
「お、虎哉も師としての仕事ができたようじゃな、重畳、重畳」
と、沢彦禅師が茶化すように言います。
「沢彦様、これくらいは師となりました故に、当然、言い申す。
それに坊丸殿の返事と柴田殿のお気持ち、今の話から見える織田信長様の気性を考えれば、坊丸殿を諭すのは当然かと」
なんだ、意外とまともに返答するのね。虎哉禅師。もっとへそ曲がりな意見いうのかと思っていたよ。
「だそうだ、坊丸殿。良き師に巡り会えたようじゃぞ、坊丸殿。
これからは、拙僧は、一歩引いたところから、生温かく、そなたらのことを見守ろう。
それにな、本音を申せば、いつ何時、吉法師殿から無理難題や無茶苦茶な相談事が舞い込むかも知れんから、坊丸までは手が回らんのよ、ハッハッハ。
まぁ、柴田殿とのご縁もあるしの、何も面倒を全く見ぬと言うわけではない。
相談事にはのるし、逆に虎哉禅師や坊丸殿の意見を聞くこともあろう。これからも、良しなに頼む」
そう言って、沢彦禅師は、虎哉禅師と自分に向けて頭をさげるのでした。
「沢彦禅師、坊丸殿のことは承りましたが、坊丸殿の指導の日以外は、それがし、こちらで修行をさせていただく予定ですから、一歩引かれると困るのですが?」
なんかいい話でまとまるのかとおもったら、虎哉禅師から沢彦禅師に突っ込みが入りました。
「ハッハッハ、もちろん、虎哉殿の修行の面倒は見るぞ、うむうむ」
なんか、笑って誤魔化してませんか?沢彦禅師?まぁ、いいけど。
「それとは別に、先程の書状にて、岩倉を攻める、とありましたが、勝敗はいかがだったのですか?」
ジト目で沢彦禅師をすこし見たあと、虎哉禅師が橋本一巴さんの書状を指差しながら聞いてきます。
「それは、儂も気になるな。先日、吉法師殿が、橋本殿の墓を見たいと訪ねて参ったとき、この度の岩倉攻めについて話が及ぶと、『一巴には悪いが、思ったよりも犠牲は少なく、思い描いた絵図通り、いや、絵図以上になった』と言って立ち去ったものじゃ。
だが、他所から伝え聞く話では、岩倉城は落とせなかった、せっかく落とした浮野の城は壊してきた、と言うしの。
まぁ、浮野城は、浮き駒になるから壊したのだろうが、絵図、というのがな、ちと、わからぬ」
と、沢彦禅師。絵図の話はまあ、どうでもいいけど、信長伯父さん、じつは橋本一巴さんの墓参り、既に来てたんですね!
しかも、「墓参りがしたい」ではなく、「墓が見たい」だなんて、その微妙な屈折具合、いかにも織田信長じゃ無いですか!
くぅ~、そこにしびれる、憧れるぅ~。
あ、いや、『憧れ』はしないか。うん。
でも、そういうとこ、きちんと周りに見せれば、もっと簡単に家臣の忠誠心稼げたり、人たらしぽいことが出来るのではないですね?信長の伯父さま?
あ、隣で柴田の親父殿も同じところに気がついたらしく、「信長様ぁ~!」とか言って天を仰いでますね。さらに、中村文荷斎さんもウンウン頷いてるし。
あ、これ、信長伯父さん向けの忠誠心が二人分稼げたみたいですよ!良かったね、信長の伯父さま!
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