第68話 一巴さん、亡くなっちゃたんですか!

ども、坊丸です。


昨日、岩倉城の北西、浮野ってところで合戦があったようです。


あたくし坊丸はお子様なんで、当然出征してないし、織田家の武闘派家老こと柴田の親父殿も今回は、織田秀敏殿と清洲城で留守居役をしてたそうなので、戦場の様子はわからない感じ。


え?織田秀敏って誰かですって?自分も知りませんでしたよ。

昨日、初めて聞いた名前の人なんですが、夕食の時に、誰?って言ったら、婆上様にめっちゃ怒られましたよ。


なんだか、織田弾正忠家の長老格の人なんだって。

でも、知らない人は知らないっての。会ったこともないし。


で、婆上様の解説ですが、信行パパや信長伯父さんから見て、おじいさんの弟、大叔父さんなんだって。

つまり、自分から見るとひいじいちゃんの弟さんなんだってさ。


公式には曾祖叔父というらしいです。婆上様の解説によると。曾祖叔父なんて言葉、転生前でも聞いたことなかったよ。すごいね!物知りだね、婆上様!


ひいじいちゃんの弟さんだからすごいおじいさんなんだろうと思ったら、信定ひいおじいちゃんの一番下の弟さんらしく、信秀おじいちゃんより数歳年上なだけなんだって。ていうか、何歳まで子作りしてるんですかね?


えぇっと、信秀爺ちゃんは6年前に数えで42歳で亡くなったらしいから、織田秀敏さんは50歳から55歳ぐらい?


現代の感覚だと、まだまだ元気な現役世代って感じだけど、戦国時代だとどうなんでしょう?

信長伯父さんが、本能寺の変の時や桶狭間の戦いの前に「人間五十年」って謡ってるドラマを見たことあるから、50歳くらいは長寿なのかもしれませんな。


ま、それはさておき、なんで戦場の様子がわからないことを知ってるかって?

そんなの決まってるじゃないですか、帰宅した親父殿に根掘り葉掘り聞いたんですよ。


で、帰城した信長伯父さん以下が簡単な戦勝祝いをして、あとは、明日、首実検するから今日はお終いって、感じだったらしく、あんまり戦場の状況は説明してくれなかったご様子。


そんなわけで、今日も、親父殿は、清洲城に出仕して、首実検に参加するとのこと。

今日は、帰宅後に戦の様子が聞けるに違いないから、親父殿のご帰宅を待っている予定です。

で、親父殿、御帰宅後の夕食前に親父殿の部屋に押し掛けていろいろ聞きましたよ、ええ。


「親父殿、戦勝祝と首実検、お疲れさまでした。で、戦の詳細など教えていただけば、と」


「おお、坊丸か。坊丸も戦の話をせがむようになるとはな、感慨深いものじゃ」


目を閉じて、うんうんと頷く親父殿。


いや、そこまで知りたいわけではないですがね。

橋本一巴さんが敵を討ち取ったのがね、気になるわけで。

鉄砲使いがどんな感じで活躍したのか気になるよね。

鉄砲使いの人と弓の名手の遠距離戦とかあんまり予想できないし。


「本日の首実検の報告では、岩倉勢1250人を討ち取ったとのことであった。首実検では、家老の山内盛豊、岩倉城一の弓の使い手の林弥七郎、その他数名の名の有る侍大将が首の確認と相成った」


「その林弥七郎ってひとを、橋本一巴殿が討ったのですね?」


「そうだ。浮野の地にて我が軍は敵の軍勢を迎え撃ち、敵の軍勢を押し留めていたところに犬山の織田信清殿の横槍が入り、丹羽長秀の部隊が遅れて参戦したことで、奇しくもきれいな鶴翼の陣となり、敵を包み込むようになったそうだ。その後、敵勢が崩れる中、林弥七郎は殿のお命を狙って、撤退せずに残ったらしい。それに気が付いた、一巴殿が林弥七郎と一騎打ちのようになったとのことだ」


と、戦の概要と一騎討ちに至る流れを説明してくれる親父殿。


「では、伯父上のお命を救ったのですね!伯父上も橋本一巴殿におほめになったことでしょうね」


「いや、そこなのだが…」


ん、なぜ、言いよどみますか?親父殿?


「え、弓の名手を打ち取った上に、命を助けられてたら一番の功績とおほめになるでしょう?」


「うむむむ、実はな、坊丸。橋本一巴殿は、林弥七郎を討ち取った後、矢傷にて、既に帰らぬ人になっておる」


困ったような顔で、橋本一巴さんは、死んだと言う、親父殿。

いやいや、昨日、討ち取ったっていっていたのに、何故?


「え、ええっ。昨日も、橋本一名巴殿が敵の手練れを討ち取ったと‥。敵の矢傷で死んでしまっては、それは、相討ちではありませんか!」


思わず、話が違うじゃん!ってなんじで思わず、大きな声を出してしまいました。


「坊丸、滅多な事を言うな、橋本一巴殿は、敵将、林弥七郎を討った。見事な狙撃にて深傷を負わせ、林弥七郎が逃げるところを小姓の佐脇めがその首を取った。そして、殿が橋本一巴殿の手柄として認めたということだ」


とがめるように、なだめるように、親父殿が言います。


「でも、その後に亡くなってしまっては、相討ちです」


思わず、板の間を右手の拳で叩きながら、口答えするように言ってしまいました。


何て言うか、徐々に戦国時代に、感覚が慣れてきたと思っていましたが、現代の感覚だと、橋本一巴殿は、相討ちだと思いますよ。信長伯父さんや柴田の親父殿の感覚だと、相討ちではなくて、勝ちっていうことになるらしいのですが、なんか納得できません。


「敵が首になった後に橋本一巴殿は、殿と話しておる。つまりは、その時点で勝っていたということだ。良いか、坊丸、橋本一巴殿は、一騎討ちに勝ったあと、亡くなった。それゆえ、相討ちではない、勝ちだ!良いか、坊丸、橋本一巴殿の勝ちを汚すような事をこれ以上言うことは許さぬ」


「でも‥」


「でも、ではない。橋本一巴殿は忠勇を示し、その後、亡くなった。それ以上でもそれ以下でもない」


もうこれ以上は言わない、言わせないという強めの語気で言い放つ親父殿の様子に、これ以上言葉を紡ぐのは、本当にダメなのだとなんとなくわかりました。


「はっ、分かり申した。なれど、橋本一巴殿の冥福は祈りたく存じます。できれば墓前で手を会わせたく」


言葉の上では、引き下がりましたが、納得は、しきれていません。


「橋本一巴殿とは先日の鉄砲の試射まで、あまり縁がなかったゆえな、さすがに初七日に押し掛けるわけにもいかん。四十九日が過ぎてから、菩提寺に花でも持って墓参りをいたすとしよう」


そう、言って、庭の方を見る親父殿の顔には、親父殿も腹のそこでは橋本一巴殿の死に様を飲み込めていない様子や戦場の無常感が浮かんでいるようで、ただ、小声で「そうですね」と答えるしかできませんでした。


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