第38話 沢彦禅師に会いに行こう!許可取りに…

ども、坊丸です。たくあん漬けではなく、たくげん漬けを作ったことになってしまった坊丸です。




いつものように朝の挨拶、鍛錬を終え、朝餉が終わった直後に柴田の親父殿に相談です。




「親父殿、お願いいたしたき儀がございます」




「ちょうどよかった、儂からも話したきことがあった」




「では、親父殿からどうぞ」


長幼の序を守るのは、大切ですからね。




「では、儂からじゃ。昨日の他人丼とやら、美味かった。たくげん漬けっと言っておった干し大根の糠漬け、美味かった。さて、それでじゃ。殿は美味いものができたら、城に知らせよ、とおっしゃった。が、昨日の今日じゃ、さすがに、儂でもこれは、無いと思う。それに、じゃ。石高を上げるような工夫もせよとおっしゃった。飯のほうだけの成果を、命令が出た翌日に持っていくのはいかがかと思う」




「はい、それがしもそう思います」




「なら、自重せい、坊丸。はぁ、そうできぬ、性分なのは数か月一緒に暮らしただけで、重々承知しておるが、今回は、無いわ。殿に他人丼とたくげん漬けの話はしないように、儂も注意する。あと、あの大根の漬物、沢彦禅師考案のたくげん漬けとお妙やお千が申しておったが、あれは本当か?」




「いや、本当のことを申せば、嘘、になります」




「はぁ、そういうところもだぞ、坊丸。お主の頭の中から、いつもいつも我らが知らぬことをひねり出しているのは、うすうす気づいてはおる。今は亡き信行様の唐の国の蔵書というのも、本当かどうか気にはなっていたが、死人に口なし、謀反人の蔵書をいちいち調べるものもおるまいと、聞き流しておった。だが、沢彦禅師の名を勝手につかうとは何事か!」




「は、申し訳ございません。実は、今は名も無き僧侶から伝え聞いた漬物なのでございます。たしか、沢庵だったか沢運だったか、そんな感じに名乗っておったと思います。名も無き僧侶の作った漬物よりは、名前も似ていることですし、高名な沢彦禅師にあやかった方が良いかなぁ…と、思いまして」




「まぁ、そういうことならば、致し方ない。で、お主から伝えたきこととは、何だ」




「はい、親父殿から言われたことと同じでございます。勝手に名前を使ってしまったことを沢彦禅師に謝りに行きたいと思いまして…」




「その心掛けは良し。政秀寺に行って、沢彦禅師に謝るのだな。儂も沢彦禅師に相談したきことがある故、共に行こうか」




「はい、で、いつ伺いますか?」




「善は急げじゃ、本日、向かうぞ」




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いつものように柴田の親父殿の馬に2人乗りで小牧山の政秀寺に向かいます。


一応、たくあん漬け改めたくげん漬けを一本竹皮に包んで持って行きます。


まぁ、試食用と言うか、口裏を合わせていただく賄賂と言うか、味を知っておいてもらう用とか、そんな感じです。


そして、袴着の儀の後、すこししたら乗馬の訓練を開始するという話のこともあるのでしょう、柴田の親父殿は、いつもより少しだけ速度を落とし気味にしている様子で、手綱の捌き方や乗馬中の姿勢などについて時々教えてくれます。


ここを聞き逃すと、後々大変なことになりそうなので、今回は、真面目に講義を聴きながら政秀寺まで移動です。たくげん漬けをかかえながら。




到着後、今回は事前連絡が無かったため、本堂で少し待たされました。


アポイントって大切ですよね。ま、アポイント取る暇を与えないような事態を引き起こしたのは自分なので、ここは子供とはいえ、座って真面目に待つしかありません。




「柴田様、坊丸様、沢彦様の準備ができました。書院の方にご案内いたします」


若い侍僧の方でしょう、沢彦禅師のいる書院の方に案内いただきます。




「そういえば、沢彦禅師よりこの坊丸の師として虎哉禅師をご紹介いただくことになっているのだが、何かお聞き及びではないか?」




「いえ、拙僧は何も…。師にお尋ね下さい。では、こちらです」




以前一度通していただいた書院に案内され、襖を開けると、既に沢彦禅師が座って待っていました。




「沢彦禅師、急なご訪問申し訳ございません。本日は、いくつかご相談したい儀があり、まかりこしました」と柴田の親父殿が急な訪問を詫びつつ、すぐ本題に入ろうとします。




「とりあえず、柴田殿、坊丸殿、お座りください」穏やかな表情で、着座を促す沢彦禅師、さすが覚者の雰囲気です。




「はっ」「失礼します」




「さて、わざわざ柴田殿が坊丸殿を連れて、火急のご訪問、坊丸殿関連ですな」




「はい、その通りです。まずは、これをお納めいただきたい、坊丸、あの漬物を」


柴田の親父殿に促され、竹皮と茶巾で包んだたくげん漬けを懐から出し、包みを広げます。




「ふむ、見たところ、大根の漬物ですな。少し黄色い。匂いは糠漬けの様子だが…」




「はい、干し大根の糠漬けでございます。これを、うちの坊丸が『たくげん漬け』などと申しましてたもので…」




「ふむ、この漬物に拙僧の名を勝手につけたと!仔細を承りましょうか?」


あれ?沢彦禅師、怒ってる?


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ここまで読んでくださりありがとうございます。




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