第32話 火縄銃、初めて見たよ!

ども、坊丸です。味噌だまりや煎り酒は、美味しいけどもやっぱり、醤油とは違う…って思ってしまう、坊丸です。




煎り酒でホウボウとカワハギの刺身を食べた数日後、清須城から帰って来た柴田の親父殿から、橋本一巴殿と信長伯父さんが一緒に行う鉄砲の訓練に立ち会えることになったと教えてもらいました。




やった!火縄銃って実際にどんな感じか、一度見たかったんだよね。


どんどん普及すれば普通の武器になっちゃうけど、少なくとも長篠の戦いくらいまでは対応困難な最新武器のはずだもんね。




そして、鉄砲訓練の見学当日です。


あ、今日は駕とか無いんですね。


そして、そんな思いが顔に出ていたのか、柴田の親父殿に怒られました。




「今日は、駕はないぞ、前回は、殿に召し上がっていただく食材を持っていく都合もあるから、駕だったのだぞ」




あ、そうだったんですね。つまり、前回、駕を出してもらえたのは、殿に食事を出す料理人として呼ばれたからってのと小さい子どもだからだと思っていましたが、駕だった理由は殿の食材を安全確実に運搬するのがメインであくまでも自分達はついでだったと…


まぁ、そうですよね…


で、今日は柴田の親父殿と馬に2人乗りで行くんですね。




「ちなみに、親父殿、一人で馬に乗るのはいつくらいからなのですか?」




「はっ、儂と2人乗りが嫌か、坊丸?」




「そういうわけではありませんが…。武家の子どもは普通は、いつ頃から騎馬を練習するものかと思いまして」




「いやぁ、よかった。坊丸にも武家の子としての自覚が出てきたのだな。最近は、台所に居ることが多いと次兵衛やお妙から聞いていたし、理助達からは、ともに居ることが減ったと聞いていたからな、心配していた」




心配していたって言ってますが、複数経路から自分が何してたかの情報収集をしてるんですね、親父殿。


ま、養育してもらってるとは言え、謀叛人の子どもですもんね。


普通に監視対象ですよね。


で、動向チェックは基本中の基本、と。




切れ者なところを見せれば、信長伯父さんのことだから、取り立ててもらえる確率はあがるけど、危険視される可能性も高まるだろうし。




江戸時代の前田利常さんの鼻毛みたいに愚鈍を装えば、危険視はされない&油断も誘えるだろうけど、たぶん自分の好きには出来ないだろうし。




信長伯父さんや柴田の親父殿の興味を引きつつ、危険人物扱いされない微妙なライン、その見極めが大切なんですよ。




最近、いろいろ作ってるのは、食べ物で興味をひく作戦ですからね!決して、戦国時代でも美味しいものが食べたいという、食いしん坊、坊丸、万歳!なだけじゃないですからね!と、自分に言い聞かせてみる。




「ま、理助達との事は良いとして、馬に乗る練習は、数えで、6つか7つの頃からだな。袴着の儀を済ませた後、少ししてからが普通だな」




「袴着の儀ですか?」




「坊丸は、数えで、5つだろう?なら、今年の秋土用の頃に袴着の儀だな。3つの時には、髪置の儀をしただろう?あれと同じで、子供の成長を祝う儀式だ」


あ、七五三的なやつですか。3歳の時に何かそういえばやったような…




「そうか、坊丸が髪置の儀をやるべき頃は、稲生で負けて末森の城内が、すさんでいたころだったな。そんな時期だから大事にせず内輪でやったと聞いた気もするな」




「はい、そうだったと思います」


本当はよく覚えてないんだけど、柴田の親父殿に話を合わせておこうっと。




「ちなみに袴着の儀が終わったら、乗馬の訓練を始めるのが普通だぞ。冬には、坊丸の馬を用意するから、来年の今頃は一人で馬に乗れているようにせねばな」




「わかりました!ありがとうございます!」


元気よく答えておきますが、清須までの軽い世間話のつもりのネタふりのせいで、なんかいろいろ予定が決まっちまったよ…


しょうがない、自分が言い出したことだ、頑張ろう…


なんか、自分用の馬を準備してくれるとか言ってたし…




そんな話をしながら、馬に揺られていると、清須城が見えてきました。




あれ?城の方に向かうのかと思ったら、ちょっと行き先が違うっぽいぞ。


あ、河原の方に向かうんですね。




「訓練は城内で行うのでは無いんですか?」




「言ってなかったか?今日は清須城のそばを流れる五条川の河原で訓練を行うとのことだ」




まあ、言われてみれば、的をはずした時、流れ弾で城内が痛みますもんね。対岸まで人払いして河原でやった方が、いいですよね。




という話をしていると、河原に陣幕が張ってあります。


その向こうに人に見立てたものなのでしょう、太めの巻き藁に腹当をつけたものが数体、立てられています。


あれに向かって撃つんでしょうね。




と、陣幕の側から口取りの係の人がかけてきて、柴田の親父殿の手綱を預かろうとする。




「降りるぞ」というと、柴田の親父殿は、颯爽と馬から降り、口取りの人に手綱を渡す。馬を口取りの人に任せたあと、柴田の親父殿は、こちらに手を差しのべてくれたので、その手を取り、馬から降ろしてもらう。




柴田の親父殿の後ろについて陣幕の方に向かう。陣幕の手前で、親父殿が止まり、陣幕の内に向かって声をかける。




「殿、柴田勝家と津田坊丸、到着しました」




「で、あるか。二人とも、とく、入れ」




「柴田勝家、津田坊丸、入ります」




「勝家、坊丸、よく来た。もう少ししたら、我が鉄砲の師匠、橋本一巴が、二度試射をおこなう。その後、儂が三度試射をおこなう予定じゃ。そのあと、まぁ、数度試し撃ちを行うつもりだ。師匠、準備はどうだ?」




「殿、準備はできております」




「で、あるか。師匠、宜しく頼む」




「はっ」




既に火薬、玉をこめ、火縄に火をつけた状態の銃を従者から受け取り、橋本一巴殿が床几から立ち上がった。


所定の位置まで歩いていき、胴乱から口薬入れを出し、火蓋をあけるのが見える。火皿に口薬を振り出して火薬を盛ると、一度火蓋を閉め、火縄を火挟みに挟んだようだ。


橋本一巴殿は、火縄銃を構え、火蓋を切る。元目当て、先目当てを使い照準をつけた様で、風が少し止んだ瞬間、橋本一巴殿が引き金を引いた。




「パァァァァァァァン」




乾いた射撃音と一巴殿の顔のあたりに白煙があがる。




腹巻の中央付近に弾着した様子です。




おぉぉ!凄い!



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ここまで読んでくださりありがとうございます。




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