第26話 伯父上を饗応しちゃうぞ!
津田坊丸です。今、清須城で信長伯父さんに料理振る舞うところです。
まさか、織田信長に料理のプレゼンするはめになるとは、転生するの話を神様や天使からいただいた時には思ってもいませんでしたよ、ええ。
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「紹介に預かりました、津田坊丸です。帰蝶様、吉乃様、奇妙様、以後見知りおきを。では、一の膳からご説明させていただきます。一の膳は、マヨネーズ和え二種と信長様ご所望のなめろう、さんが焼きでございます」
「ほう、一の膳からなめろうとさんが焼きを出すのか、もっともったいぶるかと思ったぞ」
「は、伯父上には、ご所望の品を早く食べていただきたく、準備をいたしました」
「遅くなりました。包丁頭 井上、入ります」
「うむ、井上、坊丸の料理はどうだった?作れそうか?」
「は、いくつかは、可能です。近くで見せていただいたことと毒味したことからわかる限りは、坊丸様の料理は、特別な食材などはあまり使ってはおりません。いわば、組み合わせがあまりに絶妙、というものでした。特に真夜寝酢と多留多留蘇酢は、目から鱗で大変美味しいものでした。」
「井上、皆まで言うな。毒味がすんでいるなら、坊丸の説明の後、すぐ食べるぞ」
「は、差し出がましい真似をいたしました」
「坊丸、先程の続きを頼む」
「はっ、マヨネーズ和えのうち、緑色が多いほうは、白菜、水菜、出汁をとった後の鰹節をマヨネーズで和えたものです。もう一方は、出汁をとり終わった昆布を千切りにしたもの切り干し大根、鯵のほぐし身をマヨネーズで和えたものです。お好きな方からお食べください」
「生の野菜に真夜寝酢を和えたものが旨いな」
「私は、切り干し大根の方が良いですわ」
「奇妙丸は、白菜と水菜の方が好きのようですね、信長様」
「他の二つは伯父上が最もご所望のなめろうとさんが焼きでございます。なめろうは、鯵のたたきに味噌、生姜、ネギ、大葉を加えてさらにたたいたものです。夏場は茗荷をいれるとさらに爽やかな味わいになるのですが、いかんせん、今は冬。夏場に茗荷を入れたものをまた、献上させて下さい。そして、なめろうの表面に大葉をつけて焼いたものが、さんが焼きです。生の味わい、焼いた味わい、両方お楽しみいただきたく」
「これが、なめろうか。うむ、旨い。酒のあてにいいな」
「妾は、さんが焼きの方がよいですね。なめろうは、おいしいですが、いかんせん、魚の生臭さが…」
「私は、なめろう好きですよ。奇妙丸は、どちらも良く食べてますね。あ、殿、お酒をおつぎしましょう」
「吉乃、酌をしてくれるか、ありがたい」
さて、ある程度食べるすすんだところで二の膳を出してもらわないとな。
「帰蝶、なめろうを、食べぬならもらうぞ」
「殿、なめろうは、さしあげますが、勝家や坊丸もいるのです、あまりはしたない真似は、慎んでくださいまし」
「良い良い、坊丸は身内じゃ。勝家も、これくらいでうつけと言いふらすなよ」
あ、柴田の親父殿が微妙に困った顔で、頭を下げました。
あれ?伯父上は、なめろうもさんが焼きもばくばく食べてるのに、酒は最初だけで、飲まなくなったぞ?
「恐れながら、伯父上、酒が進まぬようですが、なめろう等、口に会いませぬか?」
「良い良い、坊丸、気にするな。真夜寝酢和えも、なめろうも、さんが焼きも旨い。ただ、な」
「ただ?」
「殿、素直に坊丸にお伝えなさい、濁り酒の粒の残る感じと強い酸味が苦手なんでしょ」
「これ、帰蝶、余計なことを申すな」
「これはこれは、伯父の酒の好みまで気が回りませんで、申し訳ございません」
「坊丸、重ねて言うが、気にするな。酒は、城にあるものを飲んでいるだけじゃ、貴様の粗相ではない」
そうなんだよね、信行パパも柴田の親父殿も濁り酒しか呑んでなかったから、清酒ってないのかな?と思っていたけど、尾張一国をもうすぐ領有する伯父上クラスでも濁り酒なんだよなぁ。
この時代は炭を使った濾過技術とか無いのかな?鴻池の濁り酒に灰いれたら清酒できました事件ってまだ先なんだっけか?
よし、やってみるか!
「伯父上、濁り酒を滓引きの澄み酒に近づける方法、ためしてみますか?」
「そんな方法があるのか?」
「そうですね、炭を使って様々な濁りを取る方法、父上の持っていた書物に書いてあったような…」
はっはっは、また、ありもしない父上の書物でごまかすぜ!信長伯父上は、信行パパの名前が出て良い顔しないかもしれないけどさ!
「少し試す分には良いだろう、して、如何にする?」
「炭と灰、きれいな布、それに漏斗と小さい甕、水などがあれば、試せます」
「井上、台所なら、今の坊丸が言ったもの、あるな。酒と共に持ってこい」
「はっ」
すぐに井上左膳さんが部下にものを持ってこさせ、自分の前に並べます。
ヤバイよヤバイよ。思いつきで言ったら大事になっちまいそうな予感。失敗出来ないなぁ。
あ、柴田の親父殿の顔、ひきつってますね。
柴田の親父殿、ほんと、ごめんなさい。でも、ここまで来たらやるしかないのよ。
「坊丸、貴様のいった品々、持ってこさせた、濁り酒を澄み酒にするという技術か奇術、やって見せい」
と、言いながら、信長伯父さんは、顎をしゃくってみせます。片膝ついて顎に手を当てて悪い感じにニコニコしてるよ、信長の伯父上は…
「では、やらせていただきます!」
ここは、もったいぶって見得を切りながらやってやるぜ。
まずは、漏斗と甕をセットして、漏斗に布をひいてっと。そこに少し炭と灰を入れて、まずは何度か水を流してっと。
よし、水に灰が混じらなくなったぞ、水は、捨てて、ここから本番だ!
頼むよ、濁り酒、清酒に化けて下さい!
漏斗の先から流れ出す液体は、よし、ほぼ透明だ!やった!やったよ!
甕にある程度たまったら、完成だぜ!
「伯父上、濁り酒を澄み酒に変える、坊丸の秘術、成功してございます!」
「で、あるか。まず、見せてみよ」
「はっ、ではこちらをどうぞ」って、甕を持ち上げたら、小姓が受け取ったぞ。
あれ、いつの間に、信長伯父さんの小姓のひとが現れたんだ?
で、信長伯父さんに濾過した酒の甕を持っていった。
どこに隠れていたんだ?なんつうか、腑に落ちぬ。
「長谷川、ご苦労。見せてみよ」
「はっ、こちらでございます」
小姓の長谷川さん、偉そうに信長伯父さんに見せてるけど、あんたの手柄じゃないからな!こな坊丸の手柄なんだからな!そこんとこ忘れんなよ!
「うむ、確かに見た目は、澄んでいる。あとは、味じゃな。井上、毒見してみよ」
「は、では、恐れながら」
井上さんが部下から小さい盃を渡され、伯父上の前に進み出る。伯父上の前に置かれた甕から、手酌で盃に清酒を注ぎ、一口、二口と吞み進める。
「どうじゃ、井上」
「は、濁り酒に比べると、酸味はかなり落ち着いて、呑みやすい口当たりになっております。甘みはすこし抑えられておりますが、そこそこ残っておりますな。灰や炭の灰汁のような感じはみじんも感じられません」
「で、あるか、ならば、その澄み酒、儂もいただくとしよう」
小姓の長谷川に顎をしゃくり、自分の盃に清酒を注がせる。清酒を湛えた盃を、鼻の前に持ってきて、ひとしきりにおいをかぐ信長。そのあと、一気に杯をあおる。
「うむ、炭や灰のえぐみなどはないな。それどころか、井上のいったようにかなり飲みやすい。うまい!美味いぞ!坊丸!」
「伯父上のお口にあいまして、何よりでございます」
「うむ、坊丸、そなた、元服したら、信澄を名乗れ!この澄んだ酒を作り出した褒美じゃ!津田信澄!それを元服後のお主の名といたせ!」
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