第3話 転生モノって乳児期はスキップされるんじゃないの?
「頭、痛っ、暗。なんかぬるっとする」
「だから頭痛いって。締め付けんな。それと、なんか押し出されるぅ」
頭の締め付けが無くなったと思うと、一気に明るくなる。
「オギャア、オギャア(はぁ。いたかった)」
「オギャア、オギャア(まぶっしいなぁ)」
「オギャア、オギャア(あれ、なにしゃべっても、泣き声にしかならねぇ)」
「男の子でございます。御嫡男でございます。おめでとうございます、高島局様」
という声で抱き抱えられ、何かに包まれた。少しごわっとする布だな。あ、転生して、出生直後なんですね。で、この抱き上げてくれた人が乳母さんかな?産婆さんかな?抱き方、上手。あ、そして少し移動するのですね。
小説家になろうの転生物のテンプレだと、だいたい、5-6歳くらいになってるからなぁ。でも転生っていったら本当は赤ん坊になるよなぁ。
転生のテンプレだと、「死んだ直後の魂の抜けた体に魂が入った」って感じの説明されてるのを無批判に受け入れてきたけど、病気や餓死、けが、頭部打撲で魂が抜けた直後の体に入っても、下手すりゃ、すぐ死んじゃうもんなぁ。ある程度経済力のある家の新生児に転生は有利なのかもしれん。乳児期に感染症なんかで死ななければ、だけどね。
などと考えていると、移動完了の様子。
「信行様、男の子でございます。ご嫡男、誕生おめでとうございます。」
「高島、ようやった、男の子じゃ!」
多分違う部屋に移動したんだけど、その直後、目の前に肌色の塊が来たぁ。さっき、信行様って言われてたから、きっと目の前にマイダディ。
聴力は乳児でもしっかりしている筈だから聴こえるし、脳も自分の記憶や意識を引き継いでいるから、日本語は分かる。
でも、眼科の授業でならったとおり、生まれたての視力は、光覚弁、すなわち明暗しかわからない。色覚が数週後だったはず。
たぶんなんとなく肌色ってのがわかるのも、脳の方が補正してくれてるんだろう。
「オギャ、オギャ、オギャア、オギャ(こんにちわ、父さん。すぐ信長伯父さんに謀反起こして殺されちゃうはずだけど、お父さん、宜しくねえ)」
やっぱり、オギャアしか声出ないなぁ…
「よしよし、今日からお前の名前は坊丸じゃ。末森の未来の城主、いつか織田弾正忠家の当主になるのじゃぞ」
「と、殿。折角、御嫡男誕生の目出度い席、清州の信長様に二心ありと取られる様なことは、言われぬ方が…」
「佐久間どの、信行さまは、信長様に代わって、織田弾正忠家をまとめるお方。その御嫡男は、ゆくゆくは弾正忠家の当主になられるのは、道理。それはさておき、御嫡男誕生、祝着至極にございますな。」
「勝家、盛重、私の軽口にそう目くじらたてるな。ほれ、嫡男の坊丸じゃ。可愛いじゃろ、私共々これからも宜しくな。」
「オギャア、オギャア(信行父さん、謀反する予定を、軽口ってどうよ)」
「「はっ」」
マイダディ、既に何か物騒なこと言ってるし。勝家と盛重って言うことだから、信行父さんの家老職、柴田勝家と佐久間盛重なんだろうな。よく見えないけど。
あ、眠。だめだ、心は大人だけど、体は子供。って、名探偵で、コナ◯・ザ・グレートな人っぽいこといってるけど、こっちは子供って言っても乳児だから、睡眠欲と食欲に引っ張られる。引っ張られ過ぎるぅ。
もう、無理、眠くて…ねむ…Zzzzz
「お、坊丸さまは、おねむですな」
「そのようじゃ、我々は、これで」
「坊丸を大野のもとに戻したら、仕事に戻る。勝家、盛重、しばらく二人でできる政をしておいてくれ。」
「はっ」
「柴田殿。ここは『水入らずで過ごしてもらってから、ごゆるりと御戻り下さい』と言うところですぞ」
「め、面目ない。殿、ごゆるりと御戻り下され」
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ひと眠りしたらおなかが減った。空腹だ。
「オギャア、オギャ、オギャア」
空腹に対する耐性が無いのか、すぐ泣きだしてしまう、自分。
体に引っ張られているのか、すぐに感情が爆発して泣き出してしまう。睡眠、空腹、尿意、いろいろ我慢できない体になってしまった。大人の意識と乳幼児の我慢できない感情。こんなんで大丈夫なのだろうか?成長とともにこれらのギャップが解消される日が来るのだろうか?そして、大人の意識や前世の知識がいつまで保持できるのだろうか?いろいろ不安になる。
「オギャア、オギャア」
今度は大人の意識が醸し出した不安感から泣き出してしまった。だめだこりゃ。
と、目の前に差し出される双丘。泣いているのは、空腹のためと解釈されたんだろう。空腹なのは間違いないので、乳母のおっぱいに吸い付く。おっぱいはママの味。乳母のおっぱいだから、本当のママじゃないけど。
安心感と空腹の解消ですっかり不安は消える。何だか知らないが、幸せな感じだ。とりあえず笑顔になる。
「キャッキャッ(お腹一杯で~す、幸せで~す)」
「高島局様、坊丸様が笑っていられますよ」
小奇麗に身支度を整えた、美人さんに抱かれた。この人がお母さんみたい。
「ほんに、かわいいのぉ、坊丸」
こうして、津田信澄への転生の壱日目は過ぎていくのだった。
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