私と貴方の生活。

霜月

ララ・ライフ

 毎日定時刻。私はこれが何時かは分からない。ただ、拘束された場所から解放される瞬間である。鈍った体を動かすことができる唯一の時間でもあり、馬車馬のように働かざるを得ない一時でもある。


 それが良いのか、悪いのか。ただ、私を必要としてくれる貴方にとっては良いものなのだろう。そう、これは生活の一部。


 私は食べたものは常に吐かなければ生きていけない。拘束されている間、男が私を看病に来るが、昨日は来なかった。


 胃の中が気持ち悪い。この状態で私に働けと言うのか。最悪だ。拘束が解かれる。さぁ、私の仕事の始まりだ。


 幽閉された部屋の隅々まで歩き回り、落ちているものを回収する。おえっ。気持ち悪い。昨日の胃の残りに加算され、胃もたれする。


 んぐっ。


 やばい。詰まった。これは、靴下だ。気持ち悪さに気を取られ、見えなかった。動けない。男が近づいてきた。


「何してるの?」


 私の体を反転させる。手入れはあまりされていない。綺麗ではない私の体。見られたくはない。羞恥心で萎縮する。


「ごめんね?」


 男は優しく、足に絡まった靴下を取る。あっ。こそばゆい。焦らさないで、一気に抜き取ってよ。っん。あぁもう。


「取れたよ。続き、よろしくね」


 男は靴下を洗濯機に入れた。私のところへ戻ると頭を撫で、部屋を出て行った。私を拘束して、働かせるくせに、なんでこんなことするの。嫌いにはなれない。


 繋がる全ての部屋を歩き回り、私のホーム、拘束地へ戻る。戻りたくはないが、戻らなけばならない。食事もここでしか取れない。男が来た。


「ごめんね。昨日はできなくて。苦しかったでしょ」


 そう思うなら、働かせる前に胃の中のものを吐かせて欲しかった。


 私の口を開け、処理をはじめる。出てくるものは、埃、髪の毛、お菓子のくず、紙ごみの欠片が大半だ。男は丁寧に取り除いていく。こんな恥ずかしい姿、この名前も知らないこの男以外、見せることは出来ない。


「これは食べちゃダメでしょ」


 え? 男の手にはネックレス。床に落ちていて、誤って口の中に入れてしまったようだ。ごめんなさい。心の中で謝る。私は口が聞けない。


「無くしたかと思ったんだ。でも見つかって良かったよ。ありがとうね」


 男は丁寧に吐瀉としゃ物を取り除きながら話す。


「綺麗になったよ」


 男は私の胃を元に戻し、口を閉じた。出来れば、汚れた私の体も拭いて欲しい。願いが通じたのか、男はウェイトティッシュを持ってきた。


「さっき汚れてるなと思って」


 男は私をそっと抱きかかえ、膝の上に乗せた。私の体をウェイトティッシュで綺麗に拭いていく。


 あっ。冷たい。足、やめて。くすぐったいから! 大事なところに手を入れないで! ~~~~っ! そこは、色々入ってくるところだから! あぁっ。だめっ。


「なんか絡まってるんだよねぇ」


 それは貴方が手入れを放置してるせいでしょうが! 私の歯に挟まる糸屑や髪の毛を指先で取り除いていく。


「なんかあんまり綺麗に取れなかったけどいいかなぁ?」


 良くないわ!! やるなら全部取れよ!! 中途半端にすな!!


「まぁいっかぁ~~」


 おぃいいぃいいぃ!! まだ挟まってるんですけどぉおぉお!!


 男は膝から私を抱き上げ、拘束場所へ連れていく。私から、男へ会いに行くことは出来ない。まぁ、拘束されてるしね。この男としか関わりのない私にとって、この少しの触れ合いは至福の時間。


 私はいつもの定位置に座らされる。拘束具からは食事が私の中へ流れ入ってくる。働いた後のご飯は最高に美味しい。前を見ると男がしゃがんで私をみている。なに?


「一緒に過ごしていると可愛く思えてくるよね」


 ななななななに?! そんなこと言われたって、私は毎日同じことしか出来ないよ? それに私が動けなくなったら、どうせ、捨てて、新しい子を連れてくるんでしょ。知ってるんだから。


「僕は君が居ないと生活出来ないよ」


 男は目を細め、笑った。


 なによ、ばか。私が居るうちは貴方のために尽くすよ。毎日の生活と共に少しずつ劣化する私の体。おおよそ、私の命は6年程度。


 いつかは、この家を離れ、貴方と別れる時が来るのは分かっている。それでも、貴方と少しでも長く一緒に過ごしたい。


 貴方と一緒に過ごす日々の生活。私が居ることで自分の時間を大切に出来たり、少しでも心のゆとりが持てるなら私は命ある限り、尽くし続けるよ。


 だから私をお手入れして、長生きさせてね。


「ごめんごめん~~ちょっと2階もやってくれる?」


 男は再び私を抱き上げる。ちょっとぉ~~。私まだご飯中なんですけど! 後にしてくれない? 今やらなきゃダメなの?! もぉ!


 ララ・ライフ。

 お掃除ロボットと貴方の日常。

 私によって、貴方の生活は変化するーー。




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私と貴方の生活。 霜月 @sinrinosaki

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