ヴァロニア王国 王都
第32話 王都ヴァロン
「スズ様、見えてきましたよ」
御者をしているアリアが、王都が見えてきたと教えてくれたので、馬車の窓から少し身を乗り出して前方を確認する。
おお!本当だ、ついに来たのか王都ヴァロン!城壁がデカいのはもちろんだが、関所の門もめちゃくちゃデカイ!
王都、このヴァロニア王国の中心たる街。さぞかし活気に溢れているんだろう、今から見て回るのが楽しみだ。
ここまで長かったな…、ガルドに居たのが随分昔に思えてくる。
アリシアの護衛という建前で貴族用の門から王都へ入ろうと思ったのだが、ガルド辺境伯にもらったエンブレムを見せたところ、門番に呼び止められてしまった。
「申し訳ありません。リチャード元帥から勲章を持つ者が現れたら、待合室で待たせておくようにと申し付けられているのです。馬車はこちらでお預かりいたしますので、待合室でゆっくりお待ち頂けますでしょうか?」
元帥というくらいだから偉い人なのだろうし、ここは大人しく待っておこう。
アリシアとは、ここでお別れみたいだな。
言われた通りに待合室で1時間ほど待っていると、ドアがノックされた。
「リチャード元帥がお見えになりました。入ってもよろしいでしょうか?」
どうぞ、と俺が答えるとグレーの髪を後ろに撫でつけた男性がドアを開けて入ってきた。
「失礼する。――驚いた、本当に少女なのだな。うちの息子と大して年も変わらないように見える。私はリチャード・ガルド。この国で元帥を任されているが、シリウス・ガルドの息子、と言ったほうがわかりやすいかな」
ガルド辺境伯の言っていた息子ってこの人か…!
「スズと言います。その、ガルド辺境伯には大変お世話になりまして…」
「親父のことだから勝手に世話を焼いたんだろう。俺にわざわざ『可愛い孫娘が王都に行くから面倒を見てやれ』なんて連絡を寄越してくるくらいだからな。さて、まずはうちのタウンハウスに案内しよう、丁度準備も整ったところだ」
孫娘って…。ガルド
リチャードさんが部屋を出ていこうとしたところで、リリーが「スズ様、手紙を」と、渡されていた手紙のことを教えてくれた。
そういえば、ガルド辺境伯から息子に会ったら手紙を渡すように言われてたんだ。
慌ててリチャードさんを呼び止めて手紙を渡すと、リチャードさんは食い入るように手紙を読み始めた。
「はぁ…、あの親父…。これなら確かに、君を孫娘と呼ぶ理由もわかるな。では、改めてタウンハウスに向かうとしよう。馬車はあるんだったな?私の馬車が先導するから付いてきてくれ」
改めて王都へ入り馬車を走らせると、遠くに巨大な城が建っているのが見えた。
恐らくあれが王城なのだろう。王都の端っこからでもはっきり見えることから、その巨大さが窺える。
リチャードさんの馬車に先導され、貴族街と呼ばれる区画に入っていく。
王都には貴族街という貴族やそれに連なる者、そして貴族御用達の商人達しか出入りできない区画があるのだと、アリシアに教えてもらった。
タミアの菓子店や服飾店があった区画も、似たような物だそうだ。
王城が見上げるほどの大きさになった頃合いで馬車が止まったので、アリアの手を借りて馬車を降りると、玄関に老齢の執事が立っているのを見つけた。
「リチャード様、お帰りなさいませ。そちらの方々が例のお客人ですかな?」
「出迎えご苦労、ヘンリー。そうだ、くれぐれも丁重に扱ってくれ。まぁ、マーサに任せれば問題ないだろう」
「かしこまりました」
執事が他の使用人に指示を出すと、少しふっくらした年配のメイドが走ってきた。
「まぁ~!この娘がシリウス様の言っていた孫娘ね!?なんて可愛いの、シリウス様が目をかけるのもわかるわね!」
年配のメイドが俺に詰め寄って顔をまじまじと見つめてくる。あと、孫娘ではないんだけど…。
「マーサ、スズがびっくりしている。もう少し控えろ。王都にいる間はここで面倒を見るようにと親父に言われている、マーサが付いていてやってくれ」
「はい、リチャード様。このマーサに全てお任せくださいませ。さ、スズちゃん…でいいのよね? 早速お部屋に案内するわね」
マーサさんに案内されたのは客室――ではなく、何故かとてもファンシーな部屋だった。
やけに女の子っぽい部屋だけど、辺境伯家には男しかいないって言ってたような…。もしかして夫人の部屋だったり? いや、さすがに客人とはいえ夫人の部屋を貸すなんてことはないだろう。
「ふふ、びっくりした?この部屋はね――」
マーサさんによるとこの部屋は、孫が出来たことが嬉しいあまりガルド辺境伯が子供部屋を作ろうと画策するも、性別がわからなかったガルド辺境伯は「ならどっちも作ればいい!」と言って作った部屋なんだとか。
男の子用の部屋はレオノールくんが生まれたことで無事使われることになったが、残った女の子用の部屋はずっと使われず仕舞いだったらしい。
そこで「孫娘が出来たなら丁度いい!」と考えたガルド辺境伯は、王都にいる間はこの部屋を使わせるように、とリチャードさんへ連絡したのだそうだ。
丁度準備が出来たって、そういうことだったのか…。
わざわざ部屋を用意してくれたのは嬉しいが、目がチカチカするな…。
パステルカラーで彩られた家具類、ピンク色のどデカい天蓋付きのベッドには、これまた様々な色のクッションが置かれている。
この部屋で過ごすのは元男としては少々キツい。
ここは申し訳ないがお断りを入れて――
「かわいい…」
「え?」
「とっても可愛いですねスズ様!まさにスズ様のためにあるような部屋です…!」
部屋の中を見たアリアが何故か興奮している。
アリアって、実はこういうのが好きだったのか?
そういえば、タミアの服飾店でも淡い色のふわふわした感じの服ばかり着せてきたような…。
「喜んで頂けたようで何よりでございます。お二人はいかが致しましょうか?別室もご用意できますが…」
「私達はどんな時でもスズ様と一緒ですので、お構いなく」
どうやらこの部屋で決まってしまったみたいだ。
まぁ、いざとなればアバタールームに逃げ込めばなんとかなるか…?
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アリアは(スズに似合う)可愛いものが好きです。リリーも一緒ですが。
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