第2話 もう一人の従者

 「おいリリー!一通り周辺を回って見たが、道どころか人がいる痕跡すら見当たらないぞ。やっぱり一度ここを離れ……スズ様?スズ様!?お目覚めになったのですね!?あぁ良かった…!」

 アリアは俺を見つけるな否や、座っている俺の脇の下に手を入れて強引に立ち上がらせると、力いっぱいぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。


 「ずっと心配だったのです!森を探索している時も気が気ではなくて…!良かった…!」


 「お、おい!苦しっ、痛っ!」

 細めの身体からは想像も出来ない力で抱きついてくるせいで完全に鯖折り状態だ。硬い鎧に体が押し付けられてめちゃくちゃ痛い。

 どこからこんな力が出てるんだ!


 「アリア!スズ様が痛がっているでしょう!」

 もう少しで何かいけないものが口から出てしまいそうだったが、リリーが俺の後ろからすんでの所で引き剥がしてくれたおかげで、なんとか回避することが出来た。 助かった…。

 

 「っ!も、申し訳ありませんスズ様…」

 喜色満面で抱きしめてきたと思いきや、今度は眉を八の字にしてしょぼくれてこちらの様子を窺っている。

 それにしてもすごい力だったな、まだ背中が痛いぞ。



 ん…?痛い…?いや、いやいや、まさかな。

 頬を摘んでグニリと強めに引っ張ってみる。

 

 「スズ様!?」

 俺の突然の行動にアリアが慌てている。


 い、痛いぞ、間違いなく痛みを感じる。もしかしてこれは本当に…。


 「夢じゃない…」

 

 「へ?夢?」

 慌てていたアリアだったが、俺の言葉に困惑して頭にはてなマークを浮かべている。


 「スズ様、まだ言ってるんですか?」

 リリーが呆れたように言ってくる。

 「私達も気づいたらこの森にいたので、最初は私達も夢か幻かと思いましたが、3日もここに居ればさすがに夢などではないとわかります」


 やっぱり現実だっていうのか。いつの間にかこんな森に移動してるのも、リリーとアリアが目の前にいて触れられるのも。あまりに信じがたいが、実際に目の前で起っていることだ。

 ん…?3日?


「3日!?3日も俺は眠ってたのか!?」

 嘘だろ?寝てたっていっても精々が数時間かと思っていたが…、そりゃあ二人があんなに心配するわけだな。


 「はい。ですので役割を分担して、私はスズ様の看病と保護、アリアは周辺の探索をしておりました」

 

 「そうだったのか…。でもよく3日間も耐えられたな。見た所周りに水場もないし、食べられそうなものも無さそうだが…」

 3日間とはいえ、食事をしないと動くに動けないだろう。周りを見渡してもあるのは実が生っているような木もないし、最低限の水分を補給するようなものも無さそうだ。何も食べていないのかとも思ったが、二人とも元気そうだし、やつれている様子もない。もしかして、従者サーヴァントは食事を必要としないとか?


 「食事でしたらスズ様から頂いたものがありましたので、それを食べておりました」


 「俺があげた?俺はずっと眠ってたんだろ?」

 

 「頂いたのはここに来る前ですよ。ほら、いつも私達に持たせてくれていたではないですか」


 食事を持たせてた?………あぁ!料理アイテムのことか!

 ゲームでは料理アイテムを自分で生成し、それを消費することで料理ごとに様々なバフを得ることが出来る。

 従者サーヴァントに持たせていると勝手に使ってくれるために、必要になりそうな料理アイテムをそれなりに持たせていたんだったな。


 「なるほど、料理アイテムか。でも二人ともどう見たって手ぶらだが、料理なんてどこにあるんだ?それとももう全部食べてしまったとか?」


 「料理でしたらまだまだ余裕がありますよ?後7日は持ちそうです」

 

 なに? 二人の装備を軽く見ても、鞄のようなものを持っている様子はない。

 装備しているものといえば、背中に差している杖か、腰に佩いている剣くらいだ。

 一体どこに7日分の食料なんて持ってるんだ?


 「どこにあるかは、ほら、こんな風に」


 リリーがおもむろに手を出すと、手の先が空間の穴のような場所に消えていく。しばらくして穴から手を引き抜くと、その手には一皿のシチューが載せられていた。


 な…!?

 「ど、どうなってる!?今どこから出した!?」

 

 「私達にもわかりませんが、どうやらインベントリに入っていたアイテムをこうやって取り出すことが出来るようなんです。初日に食料が無くて困っていた時に、スズ様から持たされていた料理アイテムのことを思い出しまして、どうにか出来ないか試していたら、このように取り出せたんです」


 「スズ様から頂いた様々なアイテムが消えてしまったのかと肝を冷やしましたが、この時ばかりは一安心しました…!」

 その時のことを思い出したのか、アリアが拳を握り込んでいる。

 

 何もない空間から物を取り出すなんて、まるで◯次元ポケットじゃないか。

 「取り出すことが出来るなら、仕舞うことも出来るのか?」


 「はい、戻すのも同じようにこうして……ほら」

 リリーがシチューの皿ごと空間の穴に手を突っ込んで、引き抜く。

 もちろん、引き抜いた手はシチューを持っていない。

 

 すごいぞ、リリーとアリアに出来るなら俺も出来ないだろうか?

 「それ、どうやってるんだ?俺にも出来るかな」

 俺のインベントリには二人とは比べ物にならくらいのアイテムが入っているはずだ。それが自由に取り出せるなら、この森を抜け出すのにきっと役に立つ。

 

 「簡単ですよ?インベントリに入っているアイテムを思い浮かべて取り出そうと念じるだけです。仕舞う時もインベントリに入れることを意識すれば」

 

 念じる…、ならまずは武器だな。いつも使っている愛用の二丁拳銃を頭に思い浮かべる。

 取り出す…取り出す……念じたらどうするんだ?

 「そのまま手を前に突き出して下さい」

 

 リリーのアドバイス通りに右手を前に突き出す。

 お…おお…!手が穴の中に飲み込まれていく…!

 なにか手にあたってる、これか?片手じゃ持てないな。

 左手も前に突き出して、空間の先にある硬いものを掴んでゆっくりと手を引き抜く。

 引き抜いた両手には、長年愛用していた二丁拳銃がしっかりと握られていた。


 「おお!取り出せたぞ!ほら!」


 「「おめでとうございますスズ様!!」」

 リリーとアリアがパチパチと拍手をして大袈裟に賛辞を送ってくれる。

 

 「あ、ありがとう」

 大袈裟に褒めてくれるのですこし気圧されてしまったが、これは嬉しい。

 この鬱蒼とした暗い森の中で、すこしだけ光明が見えた気がした。

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