異世界にゲームの姿でTS転生したので、従者と旅して回ることにしました。

愛枝ハル

異世界転生

第1話 目覚め

一人の男が真っ暗な部屋で、パソコンの明かりに照らされている。


 


 「んあ~!これでPvPイベントも終わりか~」


 


 男は凝り固まった体を解すように椅子の上で軽く伸びをすると、パソコンをシャットダウンする。


 


 「さすがに長時間やりすぎたな。体もバキバキだし、軽くシャワーでも浴びてさっさと寝よう」




 男はシャワーを済ませると、髪もロクに乾かさずにベッドへ倒れ込んだ。




 「はぁ…明日からまた仕事だ…。もうこのまま一生寝ていたいな…」




 実際、発した言葉通りに男が目覚めることは二度と無かった。




 肺塞栓症と呼ばれる病気がある。世間一般ではエコノミークラス症候群という名のほうが馴染み深いかもしれない。


 長時間同じ姿勢で座っていると、血管の中に血栓が出来てしまい、それが肺の動脈を塞いでしまうことで起きる病気だ。


 男は不運にもこの病気になってしまった。睡眠中の発症だったからか、あまり苦しまずに逝けたのは男にとっては幸運だったかもしれない。だが同時に、男にとって不運なのか幸運なのかわからないことが、その身に起こっていた。














 ……………………なんだ?変な匂い…。土?草の匂いかな。風も軽く吹いてるみたいだ。気持ち良いな。




 いい夢を見れてるみたいだ。草原かどこかで寝そべってるのかな…




 「スズ様?」


 


 突然した声に驚いて目を開けると、奇麗な女性が目に飛び込んできた。どうやら俺はこの女性に膝枕をされているようだ。


 目が慣れてくると女性の容姿がはっきりわかってきた。


 金髪のショートカットに、白と金の聖職者っぽい服。


 これじゃまるで…




 「リリー?」




 頭の中に浮かび上がった名前を思わず呟くと、女性は目を見開いた。




 「そうです!リリーです!あぁよかった…


  ずっと目を覚まさないので心配していたのですよ」




 俺が目を覚ましたのが余程嬉しかったのか、リリーと名乗る女性は涙目になってホッとした様子だった。


 だが…リリー?俺の知っているリリーなんてヒト…いや、キャラなんて一人しか知らないぞ。


 まさか、長時間ネトゲした後に寝たせいで夢にまで出てくるなんて…。




 「本当にリリーなのか?サーヴァントの?」


 


 従者サーヴァントとは、ゲーム内でプレイヤーがキャラクリエイトすることによって作成出来るNPCだ。


 パーティープレイには連れていけず、ソロプレイ専用ではあるが、それなりの装備を持たせれば優秀なNPCになるため、ソロプレイヤーはこぞってこの従者サーヴァントと呼ばれるNPCを連れていた。


 かく言う俺もソロプレイヤーだったため、常に従者サーヴァントを連れてゲームをプレイしていた。




 「本当ですよ!あなたのリリーです!もしかして、忘れてしまったのですか…?弱かった私達を導いて強くしてくれたことは?スズ様が私達のために世界を駆けずり回って装備を揃えてくれたことは?私は全て覚えておりますよ」




 間違いない、あのリリーだ。




 「い、いや、覚えてるよ。ただびっくりしたんだ。まさか夢に出てくるなんて」




 「夢?ここは夢の中なのですか?」


 困惑した様子でリリーが聞いてくる。




 「だってこんな草原…森?の中で寝てた記憶なんて無いし、リリーがいるのだって…」


 どう考えたって夢だろう。俺は間違いなくベッドで寝たし、そもそもリリーはゲームの中にいるただのNPCだ。こうやって自由に話したり、ましてや目の前に現れるだけじゃなく、体に触れて膝枕するなんてありえないことだ。


 うん?触れて…?……いくらリアルな夢だからってこんなにはっきり感触があるか?


 とりあえず体を起こそう。いつまでも膝枕されてる場合じゃない。


 地面に手をついてゆっくりと起き上がる。




 「あ…」


 


 体を起こして膝から頭を離すと、リリーは少し名残惜しそうな顔をしていた。


 地面に座って周りを見渡すと、やはりここは森の中らしい、かなり鬱蒼と茂っているが、ここだけくり抜かれたように木が生えていない。


 しばらくすると、正面の茂みからガサガサと音がした。




 「! なんだ、動物か?」


 体を強張らせて音がした茂みを警戒する。


 だが茂みから現れた人物を見て、俺は一気に脱力してしまった。


 茂みをかき分けて出てきたのは一人の女騎士。


 それも、赤い長髪のポニーテールに赤と白の鎧。


 間違いない、俺のもう一人の従者サーヴァント、アリアだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る