無限遠シューベルト

菫野

無限遠シューベルト

恋といふ不可算名詞あふれつるこれの世に鳴る夕焼小焼


林檎酒をふふみガレット・コンプレと銀河がひとつ消ゆるのを待つ


原子番号6をラムネの壜に籠め眺むさびしき神の夕べよ


あふぐよりしまふときにぞ涼しかる扇の要われを閉じゆく


一千の星とらえうる吸引器ヴァキュームを窓辺に置いて6東の夜


無限遠シューベルト聴く 恋人とわれを名指した人と別れて


異郷とは見知らぬけものやがて雨が果敢ない文字のやうに降りだす


月に一、二度血を流すをみなにも母体回帰の幻想ありや


どこまでも青紫陽花の道をゆく琥珀糖のやうなるたましひ


空と皮膚の隙間に飼へば金魚はもラジオゾンデに夢を伝へる

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