第631話
ピクッ……ピクッ……。
そんな感じで、たまーにぴくつくだけで、他には一切反応もせずにベッドで仰向けになっているリンゼ。
へぇ……。
このゲームやってるのを客観的に見ると、こんな感じなのか……。
これは、部屋の扉に鍵をかけた方がいいな……。
いや、逆に何かあった場合、誰かに助けてもらえないとそのまま死んじゃいそうな気もする。
悩ましいな……。
とりあえずリンゼの部屋を後にして、自分の部屋へと戻った。
自分もベッドに横になってゲーム用のヘッドギアを装着しようとし、ふと思い出して部屋の鍵をする。
再度ベッドで横になって、ゲームにログインしなおした。
ゲームの世界に入ると、そこはログアウトした場所だった。
ログインするたびに村の中に戻されたりするのかと思ってたけど、再スタートはここからになるのか。
緊急脱出用にログアウトを使うことは出来ないって事かな?
辺りを見回すと、ポツンと寂しそうな背中が見える。
地面に座り込んでじっとしているようだ。
周りにモンスターがいる訳でも無ければ、怪我をしている様子も無いので、アレは単にイジイジしているだけだろう。
俺は、個人通話という、対象を選択して相手にだけ聞こえる会話の誘いを✞黒猫天使✞(笑)に送った。
「ひっ!?」
誘いを送っただけなのに、オーバーな反応を見せる女の子。
どうやら、こういう風に個別に話しかけられた経験は、あまり多くは無いらしい。
だろうな……。
慌てたように周りを見回す女の子。
数瞬後、俺と目が合った。
その瞬間、パッと笑顔になったと思ったら、すぐにムスッとした顔になった。
情緒が不安定だな。
すぐに個人通話の受諾メッセージが聞こえ、頭の中に声が聞こえるようになった。
『あ……ああ、戻ってきたのね?どうしたのよ?今更アタシとフレンドになりたいなんて言ってもおそ』
『リンゼ、フレンド登録して一緒にプレイしようぜ』
『は?……は?……はああああああ!?』
~~5分後~~
俺は、言動から、この✞黒猫天使✞をリンゼだと看破した事を説明した。
『女の子の部屋に勝手に入ってんじゃないわよ変態!』
『ノックはしたぞ』
してないけど。
『返事が無かったら入ったらダメでしょ!?』
『いやぁ、何か危ない事になってたら不味いなって心配になってさ』
『絶対ウソ!何か悪戯してないでしょうね!?』
『してないって』
『本当!?』
『本当本当』
『そう?ならいいけど……』
『下手に悪戯するより、黒猫天使ってキャラ名イジるほうがよっぽど面白そうだしな』
『あんたねぇ!』
俺が俺だとわかった途端、随分と元気になりやがったなコイツ。
あの寂しそうな背中がもはや懐かしいわ……。
『はーあ……。こんなムッキムキのオッサンキャラにしてるのなんて、よっぽどの馬鹿か女の子だけだと思ったのに……』
『俺も最初は、可愛くてエッチな女の子にしようと思ってたんだけどな』
『なんでそこから筋肉で構成されたオッサンになるのよ?』
『いや……どんなに頑張っても可愛くならなくてさ……。一瞬良いかな?って顔面が出来ても、角度を変えると異形の化け物になってるし、おっぱいを大きくすると形に違和感しか無くて……』
『まあ……。このゲームのキャラクリは、意外と難しいとは言われているわね。だからって、全裸は無いんじゃない?変態にしか見えないわ』
『俺だって別に全裸で作成なんてしてないって!この世界に出て来た時点で、パンツ一丁だったんだよ!』
『……あー、アンタ、体のラインみるために、服を非表示にしてたんじゃない?このゲーム、服を非表示にしたままキャラ生成すると、胸と股間を隠す下着以外は装備されてない状態でスタートになるわよ。初期装備を売ってお金にする事すらできないから、頭のおかしい変態以外得しないわ』
『何そのクソゲー?』
因みに、女キャラを何とか可愛く作ろうとしてかかった時間は、およそ1時間。
オッサンキャラでいいやとなってからキャラ生成が終わるまでの時間、およそ5分でした。
『まあ、それはいいや。それよりも、フレンドになるってことで良いのか?』
『アンタがどうしてもって言うなら良いわよ?』
『どうしてもだ』
『しょうがないわねー』
ニッコニコである。
『正直言うと、フレンドが出来る気配が無かったから、渡りに船ではあった』
『そうなの?感謝しなさいよね!』
『お前もだろ?』
『はぁ?アタシは、引く手数多だし?ベータからやってるトッププレイヤーだから!』
『でもさっき、最初のフレンドにしてあげるとかなんとか……』
『細かい事一々言ってんじゃないわよ!それより、折角パーティが組めるようになったんだもの。さっさとレベル上げ行くわよ!』
俺の発言を遮るように勢いよく立ち上がって、黒猫天使はずんずんと歩き始めた。
俺には、目的地もわからんけれど、まあついていってやるか。
ぶっちゃけ、このゲームの事全くわかって無いし……。
『なぁ、どこに向かってるんだ?』
『は?次の街だけど?』
『何しに?』
『ここは、サービス開始日の今日だと、レベル上げ効率が最悪なのよ。だから、さっさと次のエリアまで行くに決まってるでしょ?』
『決まってるのか』
『当たり前じゃない!』
俺には、そんな当たり前はわからないんだ。
俺が今までにやってきたゲームのレベルって言う単語は、大体階級を表しているか、道具を作る時や死んだ時に消費されるだけの大した意味のない物だったし……。
とはいえ、こういう時のリンゼは、何となく頼りになりそうな気がするのも事実。
俺は、素直についていく事にした。
『……服が欲しい……』
『その台詞をガチャ以外の要素で言ってる奴、初めて見たわ……』
俺は、やけに「ムキッ」って効果音が付きそうな自らの肉体をなんとか隠そうとしながら、次の街を目指すことになった。
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