第632話
『なんか、さっきからこっちに行くキャラの顔が、どいつもこいつもドヤ顔かキメ顔なんだけど……』
『サービス開始してすぐに次の街に向かう判断ができるのなんて、ベータテストに参加していたメンバーとか、そいつらから情報得てた奴等でしょうからね。自分は、最初の村周辺でまごついてる初心者とは違うっていう自信の表れでしょ?でも、ベータテスト参加者って結構人数いるから、その程度でドヤってるなんて恥ずかしいやつらね!』
『そうかぁ』
正直、一番ドヤって見えるのが、隣にいる黒猫天使なんだが?
ドヤ顔リンゼも可愛いから許すが。
『因みにさ、次の街に到着したら、まず何をしたらいいんだ?』
『メインストリームを進めるのが最優先ね。それが終わったら、宿屋に宿泊してリスポーン地点を登録すると良いわよ』
『めいんすとりーむ?』
『そうよ。チュートリアルでストーリー見たでしょ?その続きよ』
『…………』
『……なんで黙るのよ?』
『いや、チュートリアル、スキップしたから……』
『なんでよ!?重要な情報いっぱい出てくるのに!』
『チュートリアルがそんなに重要なゲーム、あんまりやったこと無いし』
俺やってきたゲームの殆どは、チュートリアルなんて「一応ある」程度の要素だったし。
『じゃあ、アタシが改めて解説してあげるわ。アタシ含め、プレイヤーの操るこの主人公たちは、原初の神であるオリジンによって異世界から召喚されたの』
『なんでだ?わざわざ他の世界から呼んでこないで、この世界の中で良さげな奴見繕って力貸してやればいいじゃん』
『世界を渡ると強力な魔力とか肉体が得られるってお約束設定だからいいのよ!黙ってなさい!』
本気で注意されたので、そこからは黙って聞くことに。
……まあ、楽しそうにドヤ顔で説明するリンゼに夢中になってて、話の内容全然頭に入ってなかったんだけど。
『ってことよ!』
『へー』
『それで、今私たちが向かっている2番目のエリアに、最初のオリジンの欠片が封印されてるの。それをさっさと回収しちゃって、マナバーストっていう便利なスキルを入手するのよ!』
『マナバースト?』
『マナ……まあ、魔力ね。これを少し消費して、相手をノックバックさせるバリアみたいなのを張れるのよ!このゲームの雑魚AI相手なら大抵の場合、このマナバーストと初期魔法を交互に使えばハメられるの!ある程度強いモンスターになると、AIも複雑な動きするようになるから、完全に有効な戦法ってわけでもないんだけどね』
『へー』
普通に為になるな。
ドヤるだけの事はある。
ストーリーに関しては、全く頭に入らなかったけど。
今までも、月のアルテミスが管理している施設とかの仮想現実世界に入り込んだりしたこともあるけれど、それに比べるとやっぱりチープな感じはする。
動物の動きも、自然な生き物らしさはあまりない。
決まった動作を機械的に行う虫みたいな感じだな。
でも、それが逆にゲームっぽさを感じさせてくれる。
ふーん……いいじゃないかこのゲーム!
『リンゼ、俺、割と気に入って来たかもこのゲーム』
『本当!?だったら一緒にガンガン攻略していくわよ!2人でギルド作ってやろうかしら!』
『ギルド?』
『私たちみたいなモンスター討伐や冒険を生業にするような人たちが作る組合というか、チームみたいなモノね!』
『俺達2人しかいないけど、そんなの作れるのか?』
『2人から作れるわ!ギルドホームは、別チャンネルに作ってもらえるから、内緒話とかもしやすくて便利よ!倉庫とか金庫も作れるしね!畑もあるわ!』
『へー』
『……まあ、アタシも話で聞いたことがあるだけで、ベータでもソロプレイだったから詳しくは知らないんだけど……』
『…………』
なんだろう?
いきなり悲しくなってきた。
とりあえず、黒猫天使の頭を撫でておいた。
『ちょっと、いきなり何よ?』
『いや、寂しいかなって思って』
『慰めのつもり!?いらないわよそんなの!』
『じゃあ、どういう理由なら頭撫でていいんだ?』
『……別に、変な理由つけないでいいわよ。撫でたいだけ撫でればいいじゃない?』
『ああそう?』
ラブコメとかで、イケメンが女の子の頭を撫でる描写を見ると、「いや、そんな事されたら相手普通嫌がらないか?」と思ってしまう俺だけど、俺の婚約者たちは、案外喜ぶので、あの描写も一応納得せざるを得ないのかもしれない。
ボディータッチとは、仲の良い相手からであれば、悪くない物らしい。
いやダメだな!
大して仲良くも無いのに女の頭撫でたり、キスをしだすイケメンキャラは、ただのレイパーだ!
死すべし!
『リンゼ、俺から何か嫌な事をされたと思ったら、気兼ねなく言うんだぞ?』
『なに?どういう思考を経由してその言葉に到達したの?』
『俺は、イケメンキャラじゃないからな』
『アンタがイケメンキャラを嫌ってるのは知ってるけど……』
そこを理解してくれているならそれでいい。
最初の村の辺りから歩き続ける事30分ほど。
途中にボスとかがいるということも無く、俺達は、2番目の街へと辿り着いた。
街の門の上には、でかでかとアーチ看板が付けられている。
『ようこそフェルミットへ!か……』
『どうかしたの?』
『いや、俺達が最初に出たあの村しかこっちには人口密集地なかったのに、随分な歓迎だなぁって違和感あって』
『変なとこが気になるのねアンタ……。あの村の先にも、何か大きな町でもあったんじゃない?』
『あったとしても、道は無かったぞ?村の中も、メインストリートは俺達が出てきた方にしか通じてなかったし、他に大きな道は無かった。つまり、あの村から出るなら、今俺たちがいるこのフェルミットとかいう町に向かう以外の選択肢は無いんだよ。ということは、この町が歓迎しているのは、あの寂れたちっちゃい村の人間って事になる。何か……大きな陰謀の匂いがするな……』
『しないわよ』
『そうか?』
『そうよ』
『そうかぁ……』
『フフッ!』
第二の町フェルミット。
この謎の多い場所で、俺達を待ち受ける事件とは?
多分、そこまでのものはない。
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