第620話
「本当にダンジョンができていますわね……」
「ごきげんようお義兄様」
「絢萌と薫子ちゃん!ようこそ!さぁ食べろ!」
「何故か大試さんがテンション瀑上がりしてますわ……」
「ふふ、なんだか可愛いわね」
パーリィタイムということで、絢愛と薫子ちゃんも呼んでおいたんだけれど、絢愛は未だにバイトをしているので遅れての参加になった。
実家がものっそい儲け始めて仕送りももらえている筈なので、絢愛がバイトをする必要はなくなっているんだけど、すぐに辞めるのは職場の人達に失礼だということで、後任が見つかるまで続けるらしい。
美人の金髪縦ロールのお嬢様がお弁当売ったりしているんだよなぁ……。
そりゃ店側からしたら得難い人材だよなぁ……。
それはそれとして、パーリィだ!
「はい焼き芋!」
「え!?いきなりですの!?ですが、いただきますわ」
「これはまた、美しいサツマイモね!」
早速リンゼが必死に焼いてくれた焼き芋を手渡す。
俺は、ホクホク系のほうが馴染みがあって好きなんだけれど、このダンジョンで出てくるサツマイモは、最近流行りのネットリ系だ。
少し納得はいかないけれど、確かに美味しいのは認める!
焼いただけでお菓子みたいに甘いし!
でも俺としては、なんか納得いかないんだ!
これを認めると、すごいミーハーな気がして!
美味しいから許すが!
「あむっ……まぁ!美味しいですわ!」
「そうね!味まで美しいなんて素晴らしいわ!」
「だろう!?」
美味しいだろう!?
このダンジョンで出てくるだけで美味しいことは約束されているからな!
「……こんなに美味しいものが並んでいるから、後ろの方々は、あんなことになっているんですわね……」
「あー……戦場だったぜ……」
「いきなり顔色が土気色になりましたわね!?」
山のように用意された食事が、本当に瞬時に消えていく……。
あのぉ……君ら、ちゃんと噛んでる?
体に悪いよ?
「空元気が解けちゃったわ……」
「えぇっと……お大事に……?」
絢萌が労いの言葉をかけてくれる……。
あぁ……萎びた心に効くわぁ……。
「それにしても、大試さんがそれ程になっているなんて、何人前のお料理を作ったんですの?」
「え?わからん。5000人前くらい?」
「大型イベントでもあったんですの?」
「いやぁ……大食いがいっぱいいてさぁ……。しかも、今日ペットが1匹増えてな。そいつが、うちでもトップクラスの大食いだったもんだから」
「ペット?」
「うん。ほら、そこ」
俺は、化け物たちのつくテーブルの横を指差す。
そこには、さっきまで体長1mであったのにも関わらず、いつの間にか3m程に成長しているトカゲの姿があった。
「きゅるる〜」
「トワイライトナイトメアレクイエムドラトカゲっていう種類のトカゲなんだけどな、すごい量食うんだこれが」
「ドラゴンですわ!」
「いや、トカゲだから」
「ドラゴンですわよ!」
「いや、トカゲだから」
太鼓の人類に作られた人造人間的なドラゴンならともかく、モンスターとしてのドラゴンなんているわけないだろう?
ダンジョンのボス部屋でもあるまいし。
ソラウいわく、万全の状態だったら、トワイライトナイトメアレクイエムドラトカゲは体長30mくらいまで成長するらしいけれど、こいつは成長能力に問題があるらしく、3mくらいで打ち止めだろうって話だ。
いや、トカゲなんだから3mでも十分でけぇわ!
俺が絢萌に新しい家族を説明している横で、トワイライトナイトメアレクイエムドラトカゲを見てから不自然に言葉を発さなくなっていた薫子ちゃん。
どうしたのかなと思っていると、突然大声を出した。
「美しい!!!!!!」
「おおう!?」
「きゅるるる!?」
「このツヤツヤで頑丈なのに靭やかな体表!太くて短いキュートな尻尾!つぶらですが力に溢れたこの瞳!美しい!美しいわ!!!!!」
なんか、随分気に入ったらしい。
よかったよかった。
トカゲって、好き嫌いが分かれるからなぁ。
特に女性は、すごく好きか、すごく嫌いかのどっちかになりそうな気がする。
「お義兄様!この子、なんて名前なのかしら!?」
「え?名前?決めてないけど……」
「早く!早く名前を決めません!?呼びたいわ!美しい名前をつけてあげなければ!」
「お……おう……」
俺が木刀と上げた時と同じくらいハイテンションだ……。
「そうね……エヴァンジュリアスなんてどうかしら!?」
「きゅるる……」
「嫌そうだな……」
「くっ!私としたことが!ではどんな名前にしようかしら!?キュルル!?キュリリ!キュリ子!?」
「きゅる〜……」
「安直すぎよね!?わかるわ!」
このままだと決まらなそうだな……。
うーん……。
「じゃあ、ナイアとかどうだ?名前からちょっと取った」
「きゅる!!!」
「お義兄様!喜んでいるわ!」
「お?なら、ナイアにしとくか」
「きゅるる〜!」
「ナイア!ああ美しく可愛いナイア!可愛い!可愛いわ!」
「きゅるるっ」
ナイアに飛びつき、頭を撫で始めた薫子ちゃん。
ナイアも、嫌がってはいないらしい。
「いやぁ……でかい生き物と小さい女の子の組み合わせっていうのは、目が癒やされるなぁ……。病気にも効きそう……」
「いえ、ですが……ドラゴンですわよね……?」
「トカゲだって」
「おかしいですわ……おかしいですわ……」
具合が悪そうな絢萌さんに、体に良さそうな焼き芋を渡していたわる俺。
体は大事にしろよ?
仕事も程々にな。
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