第590話

 とりあえず、ゼルエル達への報酬は用意できた。

 聖騎士さんたちがやけに好意的に受け入れてくれて助かったな。

 やっぱり、教会繋がりで仲間意識みたいなのでもあったのかな?

「お世話になっている立場ですし、ギャラはいらないので、メイク用品と壊れても良い中古のギターを買う費用を下さい!」

 って言ってたけど、そんなに激しい練習をするつもりなんだろうか?

 バンドやってたみたいだし、讃美歌をロック調にして披露してくれたり?

 もちろんギャラは別で払う。

 結婚式なんて、実は初めてだからなぁ……。

 そんなもんを用意してもらえるなら、ボーナスくらいだすよ!

 はぁ……なんだか……ちょっと楽しみになって来たな……!


「のう、大試よ」


 俺がちょっとウキウキしていると、突然声を掛けられた。

 今日は、ここまでずっと大人しくしていたソフィアさんが、何故か唐突に時計から出てきて、後ろから俺の首に手を回して、所謂あすなろ抱きとかいう体勢になっている。

 まあ、ソフィアさんが浮かんでいるアレンジありだが。


「どうしたんですか?」

「ワシも、結婚式に出たいんじゃが」

「良いんじゃないですかね?衣装探しに行きます?」

「……ウエディングドレスを着たいんじゃが……」

「ダメでしょ……」

「うぅ!着るだけで良いんじゃ!」

「他人の結婚式でウエディングドレスはダメですよ!」

「じゃったら、別に結婚式中じゃ無くていいんじゃ!きーてーみーたーいーんーじゃー!」

「あーもー!いいですけど、アレって未婚の女性が着ると、婚期が遅れるって俗説がありますよ?」

「今更遅れてどうこうなることも無いじゃろ!こちとら1000歳越えじゃぞ!」

「えぇ……?ん~……。じゃあ、貸衣装屋にでもいきますか?でも、ソフィアさんのサイズあるかなぁ……?プロポーション良すぎて、オーダーメイドじゃないと合うの無いかも……」

「じゃったらオーダーじゃ!オーダーメイドじゃ!」

「どんだけ着たいんですか……」


 この人、たまーに子供みたいに駄々こねだすよな……。

 美人なお姉さんじゃなかったらゲンコツだぞ……。


「話はわかった」


 その時!突然聖羅が現れた!


「……聖羅、いきなりどうした?」

「ウエディングドレス、皆でオーダーメイドしよう」

「いや、本当に何言ってるんだ?」

「どうせだから、全員でウエディングドレスを着たい」

「マジで言ってる?」

「マジで言ってる」

「なら良し。全員分オーダーしよう」


 聖羅の言う事ならしょうがない。


「でも、聖羅と俺の結婚式の時には、きっと聖羅ももっと成長してサイズ代わってるぞ?」

「構わない。今回のは、練習用。本番用は、また新しく作る」

「そっか……。あれ?全員って今言ってたけど、誰の事だ?俺の婚約者全員って事か?」

「違う。式に参加する女性全員」

「……マジで言ってる?」

「マジで言ってる」

「なら……良し……」


 えーと……誰が参加するんだ……?

 聖騎士団の方々と、バルキュリアの方々。

 あとは、俺んちにいる家族たち……。

 うーん……500着くらいか……?


「話は聞いた……!」


 その時!ドラゴンのクレーンさんが現れた!


「……クレーンさん、まだしばらく北海道で良い繊維探しするつもりって言ってませんでした?」

「何となく、服職人にとって聞き逃してはならないイベントが発生する気がして戻って来た!」

「そ……そうですか……。えーと、それじゃあ、ウエディングドレス500着くらいなんですけど、希望者のサイズとデザイン希望聞いて作ってもらえます?1カ月後くらいまでに……。厳しいんじゃないかとは思うんですけど……」

「大丈夫!逝ける!ちょっと作ってる間修羅になるから、気が散らないように作業場の扉を開けないでほしいけど!」

「無理しないで下さいね……?」

「任せて!」


 そう言うが早いか、一瞬でソフィアさんと聖羅の体にメジャーをスパパッと巻いてサイズを計測したクレーンさん。

 その後、1分ほど希望を聞いてすぐに姿が掻き消えた。

 速い……。


「……おかしい。俺は、保育所を作ろうとしてただけだったのに、どうしてウエディングドレスを何百着もオーダーしてんだ?」

「歴史上でもウエディングドレスを個人で500着オーダーした奴は早々おらんじゃろうなぁ」

「流石大試」

「それ、褒められてるんだろうか……?」

「当然。大試、すごい」


 ならいいか……。


「まあいいや……。話は変わるけど、保育所って後何を用意すればいいんだろうな?とりあえず保育士の確保はできそうだし、建物はアイにお願いするとして」

「……保育って何するの?」

「ああそうか。聖羅は、保育所も幼稚園も行ったこと無いよな」

「うん」

「ワシもないぞ!」

「成程……。じゃあ、ここで考えててもしょうがないか……」


 となれば、保育所に詳しい人に聞くしかない。

 ……保育所に詳しい人って何者だ?


 前世だったら保育所は、市町村の役所にある子供課とかそんなぼやけた感じの名前の課が担当だったよな?

 うーん……。


「よし、先ずは保育所に詳しい人に詳しそうな人に聞くか」

「誰?」

「誰じゃ?」


 聖羅とソフィアさんが、揃って首をかしげる。

 キュートすぎて悶えそう。


「え?そりゃ、王様でしょ?多分公務員が担当してるんだろうし」


 俺は、スマホを取り出しながら答えた。


「流石大試。王様を人探しに使うなんてとてもロック。カッコいい」

「聖羅、甘やかし過ぎじゃろ……」

「そんなこと無い。世界はもっと大試に優しくなるべき」

「そうかもしれんが……」


 俺をおもんばかってくれる人がいる……。

 それだけで、俺は頑張れるんで大丈夫です……!




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