第589話
私の職業は、聖騎士だ。
本来、教会の保有する武力である私たちは、教会の施設に勤める事になる。
要人警護や、異教徒によるテロ行為を未然に防いだりと、やることは意外と多い。
しかも、私は女だ。
女の聖騎士は、それだけで重宝される。
大抵は、魔力が必要とされることから、貴族や元貴族で構成される聖騎士だけれど、その中で実戦に耐えられる女性となると本当に一握りになってしまう。
遠くから魔術を売っているだけではだめなので、接近戦を行える気概と腕が必要になってくるからだ。
つまりは、エリート。
それが私たち、女性聖騎士な訳だ。
しかし、私たちは、ここ数年ずっと冷や飯食いだった。
前聖騎士団長、つまり、クソテロ野郎がトップにいたからだ。
男女差別は当たり前で、パワハラ三昧の絵にかいたようなカス野郎。
その内ぶっ○してやる!ってずっと思っていたら、勝手に死んでたという伝説の存在だ。
奴の悪政の中、私たちは何とか聖女様の護衛という栄えある役目をもぎ取った。
「聖女様の護衛が男で良いわけないでしょ!?○ね馬鹿!」
と信者や教皇様たちを巻き込んで大騒ぎした結果、あのクソテロ野郎も流石に折れた。
まあ、後からの調査によって、あの後もしつこく聖女様の力を自分だけのために使おうとしてたのが判明して、あまりの気持ち悪さに鳥肌が立ったけれど、それはまあいい。
重要なのは、私たちに重要な仕事が与えられたって事だ。
それは、教会の施設の警備だの、他の要人警護だのといった全ての仕事より優先すべき事柄で、私たちの誇りでもあったわけだ。
だから、教会がやらかした時に、教会を見限って聖女様についてきたんだけれど……。
「暇……よね……」
「ええ……そうですわね……」
教会の施設から出て、犀果家の敷地内に作られた私たち用の寮に居を構えた聖羅様。
当然護衛を務める私たちも、その寮に住むことになったのだけれど、仕事がゴリッと減ってしまった。
何故かというと、ぶっちゃけ聖女である聖羅様は、自分からはあまりイベントごとに参加しないから。
教会が、自分たちの存在をアピールするための道具として利用しようとしていたからこそ、聖羅様は様々な場所へと引っ張り出されていたけれど、本来彼女は、犀果大試君の横に居ることが一番の目的であり、そのための手段として付き合いで教会に来ていただけの方。
その付き合いが必要なくなったのであれば、当然そうそう私たちが護衛せねばならないような場所に出向くことは多くなくなるわけで。
まあ、2週に1度くらいは、教会からの土下座レベルのお願いを聞いてもらって何かしらのイベントに参加してもらっているけれど、私たちが聖騎士らしい仕事をできる機会もそれだけという事になる。
そうなると、暇になる訳!
もちろん、やることが全く無い訳では無い。
騎士とは言え、私たちは神職。
1日に何度も女神様へ祈りを捧げているし、戦う訓練も欠かさない。
毎日の清掃など、奉仕の活動も行っているので、ボーっとしていたり、遊んでいる訳では無いのだけれど……。
「刺激がないのよね……」
「ですわね……」
「腕が鈍りそう……」
この寮がある場所は、ビックリするくらい森の中で、娯楽施設が周辺に全くない。
商業施設も無い。
犀果君かメイドさんにお願いすれば、王都まで変なバスで送迎してくれるけれど、気軽に頼めるほど私たちも無遠慮ではない……。
給料こそ、現在でも教会から多少振り込まれているけれど、住むところも食費も、何なら聖羅様の護衛として追加で給料まで犀果君から支払われているので、流石にこれ以上色々頼むのは気が引ける。
なので、私たちは考えた。
何か、この閉鎖環境でも行える楽しい事は無いかと。
日々に彩をもたらす何かが無いかと。
そんな折に、聖羅様からあるものを頂いた。
それは、王立魔法学園の学園祭のチケットだ。
しかも、聖羅様がバンド参加するというライブの関係者席に座れるプラチナチケット!
それを、私たち聖羅様についてきた女性聖騎士全員分下さったのだ。
貴重なお出かけチャンス!それも聖羅様の雄姿を見られる!
私たちは、大興奮した。
そして、私たちは天啓を得た。
楽しそうに、煌びやかに曲を奏でる聖女様。
傍らには、その婚約者の犀果君。
周りに、彼の他の婚約者の女の子たち。
皆、充実した顔をしていた。
今、この瞬間が一番楽しいとでも言わんばかりのその姿に、私たち女性聖騎士たちの心は一つとなった。
『あぁ、私たちもロックやりたい』
と。
貴族出身のメンバーが多い聖騎士なので、演奏に関しては、割と問題なく皆ができた。
今まで使ったことが無かった楽器に持ち替えたとしても、今までに培った音楽に関する技術を活かすことは可能なので、人数が多いこともあって、迫力のある演奏ができたと思う。
でも、足りない……!
私たちがやりたいのは、こんな事じゃない!
もっと刺激的で!私たちにしかできないプレイがしたい!
「私たちだけの特色が欲しいわね……」
「オリジナリティがないと、ただのガールズバンドですものね……」
「私たちだけ……私たちって、なんだっけ……?」
悩めば悩むほど、自分たちのアイデンティティが分からなくなりそうになりながら悩むこと暫く。
私は、気が付いてしまった。
「あ、私たちって、鎧着ているけれど、基本はシスターだったわ」
と。
というわけで、修道女の格好で演奏してみた。
うん、悪くない。
でも、まだ足りない。
「どうする?」
「踊るとかどうでしょう?」
「いいわね」
というわけで、修道女の格好で踊ってもみた。
うん……うんうんうん!
良いわねコレ!
他のメンバーたちも納得のプレイが出来たわ!
そして、その動画をネットにアップロードしてみた所、これが物凄く話題になって、テレビに出たり、音楽雑誌の取材が来たりもした。
芸能的な交渉が得意な物がいないので大変だったけれど、それでも私たちなりにやり切ったという自信がある。
実際、ネットでの人気もどんどん上がっているし、私たちも楽しい。
最高だ。
この前までの、思い出そうとしても特筆すべきことが何も無くて、昨日何やったか思い出せなかった毎日がウソのように充実している。
聖羅様も、私たちのプレイを見て褒めて下さった。
これが……これこそが聖騎士としての誉れ……。
「あのー、結婚式ってできます?」
そんな折、犀果君がやってきてそんな事を聞いてきた。
「結婚式?とうとう聖羅様と結婚することになったんですか?」
「いや、俺じゃなくて、ゼルエルとアンナさんの」
「え!?あの二人そんな感じだったんです!?」
「そんな感じだったんです」
救出された女性たちで構成されたヴァルキュリアのツートップ2人の結婚式……ですって!?
そんな……そんなの……とっても刺激的よね!
「具体的には、どんな感じの式にしたいとか注文あります?」
「特には。ただ、誓いのチュー……キスは絶対に入れたいんですよ」
「KISSを!?」
成程、だから私たちに話を持ってきたんですね?
この、バンド活動をしている私たちに!
「会場にできるような、丁度いいチャペルみたいな場所ってあります?」
「あります。私たちが普段礼拝に使っている場所が丁度良いかと」
「では、そこを使わせてもらえれば……」
「わかりました!神の御前でKISSさせようなんて、すごくロックですね!」
「え?そうですか?」
まるで、大したことのない当たり前の事のようにそう帰ってくる犀果君の言葉。
あぁ……ゾクゾクする!
これが!本物のロック!
「ところで、式はいつ頃の予定なんですか?」
「1カ月後くらいですかねぇ……?保育所が出来たらやろうかと」
「保育所が出来たらってどういうことです!?」
まだまだ私たちのロック道は道半ば。
それをまざまざと見せつけられてしまった。
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