第19話 だいたいがチャーキチのおかげ

 うーん、どうしようかな。そうなると、しばらく金策しないといけないか……。

 いけるところまで行って、時間で帰ってくればいいか。モモ用の乗り物だけ確保すればなんとかなりそう。


 俺が考えていたら、支部長が俺の肩を叩いた。

「……ってことで、俺とコイツとで使えそうな野営の道具を貸し出すことにした! 今日すぐは無理だから、明後日また来てくれ」

 マジかよ!?

「え!? い、いいんですか!?」

 俺が声を裏返すと、支部長と副支部長がうなずいた。

「貸し出しだけどな。俺はアレだ、お前らの後見人だから、それくらいはしてやる。コイツは……」

 と副支部長を指し示すと、副支部長が引き継いで言った。

「チャーキチちゃんの動画のお礼よ。私のも支部長のも古いけれど、そこそこいい物だから品質は保証するわ」

 チャーキチが宝箱から出てきてくれて良かった!


 その後、支部長と副支部長から野営のレクチャーを受けた。


 安全地帯があるのでそこで休むこと。

 ダンジョン内は時間感覚が狂うので、時間を見ながらこまめに休憩をとること。

 食事は、出来る限りFDECで売っている携帯食にすること。水もたくさん持ち込むこと。


「普通のカロリーバーばっかり食ってると栄養が偏る。FDECのは長期遠征も考えられて作られてるから安心だぞ。あと、水は重要だ。安全地帯に湧き水がある箇所もあるが、行列が出来る。水魔術が使える奴は食いっぱぐれないってほどだしな」

 モモの目がキラリーン☆と光った。

「もちろん、あたしは使えるぞ! 魔王だからな!」

 魔王か……。魔王は攻撃魔術しか使えない、とか言い出しそうなんだよなぁ。


「えーと、たとえばどんな感じの魔術です?」

 と、支部長に尋ねた。

 そうしたら、代わりに副支部長が答える。

「こんな感じよ。【清き水よ、ここに満ちよ。アクアクリエイト】」

 と、副支部長が空のコップをトントン、と指で叩いて詠唱した。

 すると、コップの中に水球が現れる。

「おぉ!」

 俺が思わず声を上げたら、副支部長が自慢げに言った。

「食いっぱぐれない水魔術持ちだったのよ。この魔術はいまだに使うので、そこそこ速いわ。私の場合は、水筒よりも魔力回復ポーションのほうをたくさん持ち込んだわね」


 へぇ……。

 そういえばモモは大丈夫なのか? 魔力切れとか起こしたことないけど。

 って思って見たら、対抗意識を燃やしたモモが俺を睨んでいた。

「こんなの簡単だ! 兄ちゃん、バケツを用意しろ!」

「いや、まずコップでやってくれよ。兄ちゃん、バケツの水は飲みたくないから」

 冷静にツッコんだ。


 ものすごく渋い顔になったモモだ。

 ……どうやら、量の加減が難しいみたいだな。

「うーん……。じゃあ、お湯を出せるか? お風呂に入るくらいの湯温のヤツ。それをバケツに入れてみよう」

 と言ったら、ドヤ顔になった。

「そんなん簡単だ!」

「「え」」

 支部長と副支部長が固まったぞ。

 いや、固まられても困る。

「バケツ、あります?」

 と、支部長に尋ねたら、副支部長が慌てて走っていった。


「……本当に大丈夫?」

 副支部長がバケツを持って心配そうに尋ねる。

「大丈夫だ! あたしは魔王だかんな!」

 と、モモは腕を組んでふんぞりがえっている。

 支部長も心配そうな顔で俺を見るし。

「……えーと、簡単、って言ったヤツは今まで失敗したことがないので大丈夫です」

 そう言ったけど、まだ不安そうだ。

 一応、モモには再度説明した。

「モモ、熱湯を出しちゃダメだぞ? お風呂くらいの、あったかいってお湯だからな? あと、いっぱい出しちゃダメだぞ。支部長の部屋がビチャビチャになっちゃうからな」

「わかった! ……む……むー……むむ……む……。よーし、いくぞー。【湯張り】」

 ……すっごい詠唱が出てきたな。まんまなんだけど。

「おぉ! マジか!?」

「え! すごいわ!」

 と支部長と副支部長が叫んだのでバケツを見たら、湯張りされた。え、どっからお湯出たの? 下から出てなかった?

 モモは腰に手を当て、フンスと息を吐いた。

「どーだっ! 魔王にできないことはないんだぞ!」

 いや、コップに水を入れるの、できないじゃん。

 とは言わず、

「モモはすごいなー。さすがだよ」

 と、褒めたたえた。


「兄ちゃんも規格外だが妹も規格外なのがよくわかった」

 と、支部長が言った。

 湯張り魔術はすごいらしい。まぁ、俺もビックリしたけどね。

 たぶんモモは、量が多いほうがやりやすいんだと思う。

 なら、人が入れるくらいの容器を用意すれば風呂にも入れるってワケだ。この後容器を探しに行こう。

「あ、そうだ。こういった水って安全地帯で捨ててもいいんですか?」

 俺が支部長に尋ねると、うなずいた。

「液体は、どこであれこぼしたらダンジョンが吸っちまうから気にするな。固体は時間がかかるが、安全地帯以外は一日置いといたら消えるな。安全地帯には、FDECが作ったゴミ置き場みたいのがあるから、そこに放り込んどけ」

 そういう感じなのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る