第18話 よからぬことを企んでいる兄

 ……とか俺が考えてたら、モモがジロッと俺を睨んだ。

「兄ちゃん。なんかよからぬことを企んでるだろ!」

「お、難しい言葉を言えたな、偉いぞー」

 と、モモを撫でておく。

「ヤスおばちゃんがしょっちゅうあの痴女のことをそう言ってた」

 なんと。

 安松火さん、そんなこと言ってたのか……。

 そういえば安松火さん、いきなり働き口がなくなって大丈夫だったろうか。

 無事、次の派遣先が見つかりますように、と心の内で祈っておいた。


「いや、よからぬことじゃないよ。モモはまだ四歳だから、戦いはともかく歩くのがつらいだろ? 乳母車みたいな乗り物に乗せて俺が押したら痛い痛い痛い」

 モモがめっちゃ蹴ってきた。

「赤ちゃんじゃないぞ!」

 嫌がるどころじゃなかったな。

「うーん、押して動くならなんでもいいんだけどな。探しに行こうよ。疲れたらそれに乗れば、兄ちゃんが押してやるから」

 そう言ったら、やってみたくなったんだろう。ソワソワし出した。

「……赤ちゃんが乗るヤツは嫌だぞ? それ以外なら、乗ってもいい」

「わかった。格好いいのを買おうな」

 幼児向けの車みたいなのがあるだろ。押手棒がついてるならそれにしよう。


 先行投資、ということで稼いだ金を全部突っ込むことに決めた。

 食料は、モモが亜空間収納してくれるので(異次元空間なので時間停止状態だそうだ。正確に言うと停止はしてないけど流れる時間が異なる云々で、停止してると思っていい、と言われた)作りたてを放り込んでおけば熱々が食べられる。ただし、容器は必要。

 あと、モモとはぐれた場合、俺が救出に向かうまでの非常食――カロリーバーと水はボディバッグに詰めていく。

 そんなに長い時間はぐれるつもりはないので、念のためだ。

 着替えは持ってる分だけでいいか。神亜宿ダンジョンは、気温が変わらない仕様だったはずだ。

 ただ、迷路みたいになってるだけで。


 スーパーに行ったら、モモが買い物カゴにお菓子を放り込んでいるのを見て苦笑した。

「ちょっとだけだぞ?」

「うん!」

 モモが素直にうなずく。かわいいなー。


 買ったものをモモに収納してもらい、お次は宿泊用のテント等々だ。

 翌日、デパートに行こうとしたが……。

「待てよ、その辺はFDECの探索者用のを買ったほうがいいんじゃないか?」

 と、気がついた。

 キャンプしに行くんじゃない、探索しに行くんだし。

 まぁ、世界異変後のキャンプは、魔物避けしている場所が大半で、そういうところは宿泊施設がある。ないところは命懸けなので、むしろサバイバル特化のキャンプ用品かもしれないけど……。

「おっちゃんトコに行くのか?」

 と、モモが聞いてきた。

「うん、そうだな。というか、相談してみよう」

 何が必要か教えてくれるだろ。

「兄ちゃん任せろ! あたしが聞いてやる!」

 と、VBを俺に見せびらかした。

 モモは昨日、ずっと副支部長とやりとりしていたようだ。

 思考入力なんだけど、モモは声に出すから筒抜けなんだよね。

「モモ、共有してくれ」

「わかった兄ちゃん! 共有!」

 昨日ヘルプをじっくり読んで頭に叩き込んだ。ついでにモモとパーティ登録しといた。こうすると、VBでの連絡や位置共有、さらにはこうして通信の共有も出来るようになるのだ。

「ノギクのねーちゃん、あたしだ!」

「モモ、通信するときは最初に名乗ろうな?」

 俺が注意すると、素直に言い直した。

「モモだ! そーだんがある!」

 よくできました、と、俺がモモを撫でていると、副支部長の声が聞こえてきた。

『あら、モモちゃん。昨日はチャーキチちゃんの映像ありがとね。永久保存したわ』

 …………永久保存したのか。いいけど。

「うん、また送ってやるぞ! それでだな、買い物したいんだけど……えーと、兄ちゃん、なんだっけ?」

 と、モモが不安そうに俺を見た。

「泊まりがけでダンジョンを探索する場合の、食料以外で必要な物を買いたい」

「えっと、ダンジョンにお泊まりするんだ! 買い物したい!」

 と、モモが叫んだ。

 ……まぁ、だいたい合ってる。

『えっ、もう泊まりがけを考えているの!? 早すぎない!? まだ登録して三日よね!?』

「ノギクのねーちゃん、そんなんカンケーないぞ。あたしと兄ちゃんはめっちゃすごい兄妹なんだかんな!」

 モモが自慢げに答える。

 副支部長はしばらく黙っていたが、やがて声が聴こえてきた。

『……しかたがないわね。確かに二十一階以降は広くなるから、お兄ちゃんの足ならともかくモモちゃんは無理そうだものね……。わかったわ、支部長にも相談して教えるから、こちらにいらっしゃい』

「わーった!」

 モモがドヤ顔で見上げてきたので、親指を立てた。

「グッジョブ!」

 すると、モモがニカッと笑って、親指を立て返した。


 FDECへ行くと、すぐに支部長と副支部長が出迎えてくれた。

「確かに野営は避けて通れねーよな。とくに嬢ちゃんを連れてくんじゃ、なかなか進まねぇだろ。迷わずボス階まで進んだって、大人の足でも二日はかかる。深層になれば、もっとだ」

 と、開口一番支部長が言った。

 だが、と、支部長が続ける。

「ただ、野営の道具は高いんだよ。お前らの今の稼ぎじゃ無理だ」

 キッパリと言われた。

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