第20話 ガキンチョがいっぱいいるとこに用はないぞ!

 よし、だいぶイメージができてきたな。

 礼を言って席を立とうとすると、

「おい待て。まだ話は終わってないぞ。脱線しただけで、まだまだあるんだからな!」

 と、支部長に怒られた。


 場所取りや、非常識に大声で騒いだり別パーティに絡んだりするのは違反。助けは求めてもいいが、基本は自己責任なので断られたら素直に引き下がる。根に持ったり怨んだりしての報復や、文句を言うことすら違反になる。


「……そう言っても、絡んできたり、逆に『絡んできた』って言いがかりをつけてきたりとか……」

「新人ならともかく、神亜宿ダンジョンに挑む奴でそういうのはいねーよ。ここに来るのはフツー、ベテランばっかりだ」

 あ、やっぱりそういう感じなんだ。

 副支部長がニッコリ笑顔で俺に伝えた。

「話しかけられたら、即、録画しなさい。あるいは映像を私にライブで流しなさい。それなら安心でしょ? 冤罪に巻き込まれないわ」

 ……はい、おっしゃる通りでございます。

「よーし! あたしがやってやるぞー!」

 モモが張り切っている。モモはどうやら動画撮影にハマったらしいな。


「モモちゃんは、そのうちFDECubeに動画を登録するといいわよ。そこでは探索者が撮影したダンジョン動画を集めているんだけど、けっこう面白いのとかあるから。……まぁ、凄惨な映像や遺作みたいなのもあるんだけど……」

 モモにそんな物騒なのを教えないでください。

「モモは観ちゃダメだからな! 兄ちゃんが許さないぞ!」

 俺が言うと、副支部長が慌てて追加した。

「あ、大丈夫だから。年齢制限はもちろんあるわ。ちゃんとフィルターがかかっているから大丈夫よ」

 良かった……。と安心していたら、モモが呆れた声で言った。

「兄ちゃん……。めっちゃ魔物を倒してるのに、いまさらだぞ?」

 そうなんだけどさぁ! 副支部長が言ってるの、人死に映像だからダメ!


 支部長が咳払いし、また脱線した話を元に戻した。

「安全地帯以外でも、やむを得ず野営することがあるだろうが、基本は短時間で、出来る限り魔物を間引きし、必ず魔物忌避剤をスプレーするか魔物対策の魔術をかけて休めよ。それでも襲われる心配はあるから、どっちかは必ず起きてろ。あと、長時間は絶対に休むな。具体的には十時間を超えるな。ダンジョンに侵食されるぞ」

 と、真剣な顔で言われたので、俺も表情を引き締めて頷いた。


 支部長はモモにも諭す。

「兄ちゃんに心配をかけないよう、ちょっとでも調子が悪くなったらすぐに兄ちゃんに言えよ。我慢するな。泊まりがけってのは、それだけ帰りの道のりも長くかかるってことだ。引き返せなくなったら、それが死ぬときになるからな」

「ダイジョーブだ! 兄ちゃんが、カッコいい乗り物を買ってくれるって言ってた!」

 と、モモが言い返した。

「は?」

 と、支部長が俺を見たので、俺が説明する。

「モモがすぐ歩けなくなるのは想定済みです。だから、乳母車……イテッ! 違った、押手棒付きの車かなんかを買って、モモに乗ってもらおうと考えてて」

 途中、怒ったモモに蹴られた。

 支部長が爆笑。副支部長は、

「あら、いいアイデアね。それならモモちゃんの足の負担が減るから、けっこういけるんじゃない?」

 と、言ってくれた。

「とっさに避けられないけど、嬢ちゃんには魔術があるからなんとかなるかね」

 支部長も続けて言ってくれる。

 俺はうなずいた。

「中層階の魔物がどのくらいの強さなのかによりますが、三十階層のボスまではそれでいけると踏んでます。それ以降は……様子を見ながらまた考えようかと」

 そう言ったら支部長と副支部長も賛成してくれた。

「いいんじゃねぇか。兄ちゃんはネガティブ思考だが、それだけ安全マージンを取る。対策をきっちり立てて行動してる奴は死ににくいよ」

「そうね。モモちゃん第一優先で考えていて油断しにくいから、中層階の浅い層なら、じゅうぶんいけると思うわ」

 よし、御墨付きをもらった!


          *


 明後日、野営道具の使い方も含めて詳しいことを話すと告げられたので、礼を言ってFDECを出た。

 次に向かったのはデパートだ。

 幼児向けのキッズカーを見に行ったのだが……。

『幼児向け』で、モモがヘソを曲げた。

「ガキンチョがいっぱいいる! こんなとこに用はないぞ!」

 四歳児が何を言っているんだろうね。

「モモ、魔王なら潔く諦めろ。モモを運ぶ乗り物を探すのは、ここが最適解なんだ」

 魔王を付けたらモモが「うぐ」と呻いた。


 ぶっすー! と膨れあがったモモを撫でてなだめる。

「まあまあ、マジで予算的なものもあって、ここで勘弁してほしいんだよ。モモが気に入るくらいのヤツだと、今の兄ちゃんの稼ぎじゃ買えないんだ。もっと稼げるようになったら買ってやるから」

 それで機嫌を直してくれた。

「そうか。ゴメンな兄ちゃん。うん、ここでガマンしてやるぞ!」

 良かった。いやマジで。FDECで探せばそういう乗り物が売ってそうだけどさ、それっておいくら万円? だろうからなぁ……。

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