第16話 銅級へランクアップ!

 支部長にドロップアイテムを渡すと、支部長が「マジでボス倒してるわ……」とつぶやいた。

 そんな嘘をついてどうするんだっての。


「この瓶は……なんつーか、栄養ドリンクみたいなモンかな。多少怒りっぽくなるが、馬力が出る。雑魚から捕れる牙は、原液が牙の中に入ってんだ。これらは買い取るが……。こっちの牙はどうする? これがあると、二十一階から出発出来るぞ」

「は?」

 俺が間抜けな声をあげたら、支部長が説明した。

「追い追い話そうと思ってたら、三日目にして説明しないとなんねーとはな。……ボスのドロップアイテムは、ダンジョンの転移装置を動かすキーになるんだ。ゴブリンキングの冠は十一階へ、コボルトリーダーの牙は二十一階へ飛べる」

「へー!」

 ないと飛べなかったのか! ゲームと仕様が違うな。現実に合わせた、って感じか。


「もちろん買い取りもやってるぞ。キーは売買出来る。銀級とかは、面倒くせぇから中層階から始めたい、とかあるからな。――おっと、これも教えとく。基本、ダンジョン内でのドロップアイテムは直接売買禁止だ。FDECは慈善事業じゃねぇし、探索者はFDECの会員だ。これで儲けてんだから、FDECを通して売買してくれ。その従魔もな」

 と、言うと、副支部長がばつの悪そうな顔になった。昨日、モモに売ってほしいって迫ってたもんな。

「いや、売りませんから。魔王の眷属ですし」

 俺がそう言うと、支部長が笑った。


 俺とモモは、銅級に上がった。

 モモは自慢げだ。

 三日で昇級したのはFDEC史上初らしい。

 ちなみに、ゲームでは主人公が二日で上がっていた。


「しかし……。急ぎすぎてねーか?」

 と、支部長に言われ、俺は思案した末に多少の事情を話す。

「……まずは、金の工面が急務です。俺とモモは、とある連中に住んでいた家から追い出されて、通帳どころか財布まで奪われました。なので、生活するためには金が必要なんです。あと……金級まで昇級したら、権力者でもおいそれとは圧力をかけられないし、法はFDEC内のものになりますよね? 冤罪でさらなる窮地に立たされないようにしたいんです。これ以上はホントに、モモの命もかかってきますから」

 あと、半年後の新ダンジョンに向けてやってるけど、それは言わない。


 支部長が深刻な顔をして黙った。

 ……と、副支部長が前に出てきて言った。

「焦らず地道に……と言いたいところだけれど、九十九髪君たちの事情があるんだから、応援するわ。実際、金級まで上がれば、国家権力だって手が出せないし、必ずFDECに連絡がきて不当逮捕にストップがかかるから、安心してちょうだい。あ、もしも警察がチャーキチちゃんに何かしでかそうとしたら、私が出るからすぐに連絡をちょうだい! 電話禁止と言われても気にしないのよ! 君たちは、ここの支部の管理下にあるからと言って、何があろうとも連絡してちょうだいね!」

 と、熱く語られた。

「あ、は、はい」

 なんとか返事をしぼり出す。


 ……副支部長は、チャーキチがお気に入りだからな。確かにあの刑事なら、高く売れそうなチャーキチを押収するくらいのことはやるだろう。

 そして、警察に目を付けられていることがバレているって判明した。


 支部長が、ジト目で副支部長を見ている。そして咳払いした。

「……事情はよーくわかった。金級が目標なら、俺もバックアップする。あと……ちょっと待ってろ。渡す物がある」

 と、支部長が席を外し、その隙に副支部長がまたチャーキチを撫でようとして受け流し攻撃を喰らっている。諦めたほうがよくない?


 支部長は戻ってくると、俺とモモに前世で見たバンド一体型スマートウォッチみたいなのをくれた。

「今すぐつけろ」

 と、言われ、俺とモモは顔を見合わせたが、悪いものじゃないだろうと思い俺がうなずくと、モモはおとなしく腕に巻き付けた。俺も腕に巻き付ける。


「これは、ヴェルサティルブレスVersatile Bracelet、通称VBっつって、お前らの後見人として、俺が許可を出し発行した。これから金はそこに入ってくる。FDEC内、およびFDECの端末を使用している店で使えるからな」

 支部長からの説明を聞いた俺は感心した。

「へー! 便利ですね」

「あぁ。あと、通信も出来る。俺も副支部長も身につけているし、ここ神亜宿支部につながるようになっているから、何か起きたらその三箇所に連絡しろ。どの時間帯だろうが、どれかはつながるだろ」


 夜中だと、支部はつながらないんじゃないか……? 夜間コールセンターとかあるのかな?

「夜中もオッケーなんですか?」

 支部長がうなずく。

「探索者がダンジョンに潜っているかぎり、いつ戻ってくるかなんざわかんねーだろ。夜中にダンジョンに潜る奴は稀だが、特に夜中に戻ってくる奴は、緊急事態の場合が多い。すぐに緊急ケアセンターに運び込めるよう、待機してるんだよ」

 そういうことか……。そりゃそうだな。


「完全防水で熱耐性もあるから、できる限り外すなよ? それは本来、金級に渡されるシロモノだ。だが、まぁ、金級じゃなきゃダメって規則はない。お前らは特別だと、俺が判断したから渡した」

 俺はめんくらい、

「あ、ありがとうございます……」

 と、どもってしまった。

 支部長が笑う。

「思考入力だから、思い浮かべれば出来るぞ。最初は慣れないだろうから、家に帰ったら練習して、いざというとき使えるようになっておけ。どうしても慣れないってときはジェスチャーだな。わりと小さな動きでも判別してくれる」


 思考入力!

 さすがFDEC研究機関だな! 前世では夢の技術だったのに。

 でもジェスチャーも覚えておこう。いざというときの手段は増やしておいたほうがいい。

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