第15話 何を以てして悪と断定するのか

 支部長はため息をついた後、俺に言った。

「……結果的に、俺が担当することになって良かったかもなぁ。大型新人が過ぎるわ。何やってたらそんなに強くなるんだよ?」

「何って……。普通に武道ですけど、そもそもが、すごーく弱くありませんか? 小石を指で弾いたのに当たったら、死んじゃうんですよ? 初級魔物は脆すぎですって」

「んなワケあるか!」

 って支部長にツッコまれたんですけど……。


 困った顔でいると、支部長が再度ため息をついた。

「……あとで、もう一度スキル鑑定をする。というか、お前らは毎回スキル鑑定を行うことにする。急激に強くなる原因は、それしか考えられんからな」

 そう言うと、俺をじっと見た。

「たまーに、いるって聞く。ソレかもしれん」

「え? 何がたまにいるんですか?」

 俺が聞き返すと、支部長が言った。

「ダンジョンでパワーを出す、特殊な人間だよ。魔術が使えるのもそうだし、ダンジョンに潜ると異常なパワーを発揮する者。イレギュラーでもなければ、進化ともちょっと違う。ダンジョン探索に最適な体質、ってだけだ。……気をつけろよ。力に呑まれて奢り、悪の道に染まると、ダンジョンで得た力は消えるからな」

 と、真剣な顔で諭された。


 俺は眉根を寄せる。

「…………。それって怖いですよね。ダンジョンが何をもってして『悪の道』だと断罪するのか……。自分は正しいことをしたと思ってもダンジョンが『悪だ』と断じれば、力は奪われてしまう。そして、もしも力を奪われてしまった場合は、何もしていなくとも悪に染まり犯罪を行った、と断定されるんですから……」

 思わず愚痴ってしまったら、支部長と副支部長が俺を見た。

「お前って……。そういやワケありだったな。そういう考え方をする奴って初めてだったから驚いたわ」

 支部長が感心したような呆れたような顔で言うと、お菓子を喜んで食べていたモモが顔を上げて支部長を見た。

「兄ちゃんは、痴女に襲われそうになったのに、痴女が兄ちゃんに襲われたって嘘ついて、学校を辞めさせられたんだ! だから、あたし以外を信用してないんだぞ」

 支部長と副支部長がモモを見た後、俺を見た。

「…………まぁ、他にも権力者からの一方的な断罪で損害を被っているので、あんまり信用してないですね」

 ボソボソと弁解した。


 支部長と副支部長が顔を見合わせている。

「……ま、まぁまぁ。ダンジョンは大丈夫だ。犯罪防止のため具体的には言えねぇが、そういうんじゃねーんだよ。普通に探索してりゃ無縁だし、特にお前らはダンジョンに気に入られてるって思うぜ?」

 と、慌てたように支部長が言う。


 ……俺は前世の記憶持ち、モモは魔王。普通の探索者ではない感じだが、前世の記憶を使って隠し通路を探すのも、前世の魔術で魔物をやっつけるのも、今のところ取り締まられてはいないのでアウト、ってことじゃないらしい。つか、さらにスキルまで生えてるもんな。

 ……ただし、隠し部屋の宝箱に関しては、モモの前世の仲間しか出てこない気がする。


 いいんだけど……いやいいのか? 強い武器とか防具とかほしいよなぁ。金級くらいになってきたら、さすがに徒手空拳やなまくら剣じゃ、どうにもならなそうだぞ。


 俺が悩んでいる間に支部長がパッドを持ってきた。

「ここでスキルチェックをやる。人目のあるところであんまりスキルを見せびらかすもんじゃねーからな。……つか、お前らはマジで異常だぞ? 金級にもなりゃこれくらいスキルはあるが、初日からスキルがガンガンある奴なんて聞いたこともねぇ」

 って愚痴られたよ。


 パッドに手をかざすと、俺のステータスに『テイム……ケット・シー(チャーキチ)』とついていた。


『スキル……蹴術=レベル10 短刀術=レベル10 拳術=レベル10 投石術=レベル5 投擲術=レベル10 剣術=レベル10』


 うーん、すごいね。

「あたしもあたしも!」

 とモモがねだったので、モモに譲った。


『スキル……空間魔術=レベル10 爆炎魔術=レベル10 投石術=レベル2 短縮詠唱』


 投石術ってのは、スリングショットか。つーか、俺、ちょっとしか使ってないんですけど……。モモはずっと使っていたけどそんなに上がってない。

 やはり、魔術師は武器系のスキルが上がりづらいのか。

 となると、俺はたぶん魔術が使えないんじゃないか。……いや、試してみたいな。あとでモモに聞いてみよう。


 支部長と副支部長は固まっている。

 モモはぶーたれていた。

「コレって、あの石を飛ばすヤツだろ? 兄ちゃんより使ってたのに、なんであたしは兄ちゃんより低いんだ!?」

「たぶん、モモは魔術師系統だからかもな。その代わり、魔術をちょっと使えばガンガン上がると思うぞ。明日はまた別の魔術を使ってみよう。そしたら別の魔術のスキルが生えてるよ」

 俺が言うと、モモが瞳を輝かせた。

「そっか! じゃあ明日は新しいまじゅちゅを兄ちゃんに見せてやる!」

 と、いい感じにまとまったところで支部長がツッコんだ。

「いや、そもそもが一日使ったくらいでスキルが生えるのがおかしいって理解しとけよ? お前の兄ちゃん、ちょっとおかしいぞ? いや、お前も大概だけどな……。普通、スリングショットをメインで何年も使っている奴が、ある日唐突に技のキレが良くなったり命中アップしたりして、パッドで見たらスキルが生えてた、って感じなんだからな?」


 ……そうなんだ。

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