第14話 モモは、ぼうぎょまじゅちゅをおぼえた!

 ダンジョンに入ると、俺はモモに尋ねた。

 ……昨日の支部長とのやりとりで、俺が『防御魔術』って言うからモモが使えないことを誤魔化すんだなと学んだ。

 つまり、具体的に示せばいいのだ。

「モモ。自分の体や服を固くして、物理的に強くする魔術って使えないのか?」

「そんなん簡単だぞ! むーむーむー……。よーしいくぞー。【物理無効空間】」

 と、唱える。

「これで、兄ちゃん自身だけじゃなく、服もカチカチになったぞ!」

 とモモがドヤった。


 なるほどね。

 モモは防御魔術とは何か、わかってなかったんだ。

 そりゃ、四歳だもんな。

 具体的に「こういう魔術は使えないのか?」って訊けば良かったのか。


 よしよし、とヘルメット越しに撫でる。

 モモがキョトンとして俺を見上げた。

「なんで撫でるんだ?」

「魔術を使ってくれたから。……ついでに、それの魔術バージョン、ってないのか?」

「あるぞ! 簡単だ! ……むー……むー……むー……。よーしいくぞー。【魔術無効空間】」

 モモが唱えた。

「じゃあ、それをモモとチャーキチにもかけてくれよ。それで出発だ!」

 よし、いいぞ。これで、物理無効と魔術無効がついた!


 階層ごとのボスを倒すと、ショートカット出来るようになる。

 十階のボスを倒すと、左手にある転移魔法陣から十一階に飛べるんだよな。

 誰も見ていないのを確認しつつ、十一階へ飛んだ。

 別に、一階から行ってもいいんだけど、モモはまだ四歳だし子猫がいるしで、ショートカットすることにした。


「では、これから二十階層のボスを倒したいと思います」

 モモが拍手する。

 チャーキチは意味がわかっておらずお座りしている。

「できる限りモモとチャーキチは敵の攻撃に当たらないようにな? というか、チャーキチは大丈夫なのか? 猫って勝手にどっかに行っちゃうイメージなんだけど」

 たぶん大丈夫だと思いつつ俺がモモに尋ねると、モモが憤慨した。

「チャーキチが勝手にどっか行くわけないだろ!」

 うん、やっぱり猫に擬態した魔物なのか。俺はうなずいた。

 そして、ふと気がついた。

「あ、そういえば、この階層だとまだ俺たちしかいないからいいけどさ、深層にいくにつれて他の探索者に会うと思う。魔物と間違われて攻撃されたらヤバいから、他の探索者を見かけたらチャーキチはモモが抱きかかえるか俺のバッグに入るかしてくれよな」

 モモとチャーキチが、揃って首を傾げた。わからないよポーズ、かわいいよ!


 十一階の敵は、コボルトだ。

「亜人系の多いダンジョンだなー。あと、犬は四足歩行のほうが脅威だと思う」

 二足歩行でぎこちなく走ってきたコボルトを、スリングショットで撃ち抜いた。

 これはいい。

 弾は小石で済むので(鉛玉のほうが威力が高いらしいけどこの程度の魔物なら拾ってきた小石でじゅうぶん)、非常にエコだ。

 ビシバシ倒していたら、モモがぴょんぴょん跳んでねだった。

「兄ちゃん! あたしもやりたいやりたいやりたい!」


 ……というわけで、妹に武器を取られました。

 モモが大喜びで当てている。

 仕方なく俺は投げたり指で石を弾いたりして当てているが……結果、それでも死ぬのでスリングショットはモモのものになった。

 チャーキチは特に何もしないが、索敵は俺よりちょっと上かもだ。

 チャーキチがじっと見るしぐさをすると、ちょっと後で俺も敵に気付くから。


「うーん、無敵感がすごいな」

「弱っちいからな!」

「にゃーん」

 三者三様につぶやくと、どんどん階層を下りていった。


 コボルトも、ゴブリンと似た感じだ。

 最初単体、次第に複数に増え、武器を持ち、遠距離攻撃をしてくるようになる。

 脅威度が上がっている……のだろうけど、わからない。すぐ死ぬから。

 ドロップアイテムは、魔石の他に牙が落ちる。いるのコレ?

 なんだかなぁ、と思いつつサクサク進み、とうとう二十階のボスに到達した。

 ここのボスはコボルトキング……ではなく、コボルトリーダーだ。

 犬系はリーダーなのか。

 ここもさっくりと、面白みの欠片もなく、モモが魔術でやっつけた。

 コボルトリーダーのドロップアイテムは、謎の瓶と小さな牙だった。

 何に使うのコレ……。

 ドロップアイテムを拾うと、モモとチャーキチに伝える。

「……えー、簡単に倒せてしまいましたので、いったん戻ろうかと思います」

 こんなんでいいのか……? なんか、簡単すぎるんだけど。


 FDECに戻ると、支部長を呼んでもらう。

 支部長は俺が曖昧な顔をしているのに、いぶかしんだ。

「どうした? また、なんかやらかしたのか?」

 とか訊かれたんだけど。失敬な!

「いえ……。やらかしてはいませんが、あの……。二十階層のボスまでやっつけて引き上げてきました」

「はぁ!?」

 俺の言葉に支部長が呆れた声を出した。


 またもや支部長室で談話する。

 副支部長は、チャーキチがいるのでイソイソとお茶菓子を用意し、モモに貢ぐ。

 ついでにチャーキチを撫でようとして、チャーキチの受け流し攻撃に遭っている。

 副支部長、心を折らないでくださいね……。

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