第12話 魔王の眷属(ただしペット枠)

 モモが俺をポカポカ叩いている中、

「ただな」

 と、支部長が続ける。

「嬢ちゃんは、空間魔術を使えるだろ? 爆炎魔術ってのはもう攻撃だけっぽいが、空間魔術には防御系の技があるはずだ。空間魔術を極めていけば、そのうち防御の技が見つかるかもしれんぞ」

 そう教えてくれた。

「ホントですか!?」

 俺が食いつくと、支部長がうなずく。

「そもそも、〝防御魔術〟って魔術はねぇな。各属性魔術に防御ができる技があるってだけでよ。たとえば、土魔術でアースウォール、風魔術でウインドプロテクト、とか唱えてる奴を知ってるぞ。ただし、単に唱えりゃいいってモンではないから、誤解すんなよ!」

 俺はバッとモモを見る。

「ふーん。……そんなん、たいしたことないぞ。次に行ったとき、兄ちゃんに見せてやる!」

 モモが、フンッとそっぽを向きながら言った。

「支部長~! ありがとうございます! 相談して良かったです!」

 モモが、防御魔術に前向きになってくれた!!

「お。おう? ……そりゃ、よかった」

 なんだかわからない、って顔をしている支部長だった。


 最後に、従魔登録で、またパッドに触れる。

 モモの従魔だけど、俺も登録しておいたほうがいいらしいので、二人とも登録しておく。

「ソイツの前足をパットにかざせ」

 と、言うので、モモがチャーキチの前足を持ってぺた、とパッドにくっつける。

 ぐぅ、と副支部長がドコから出したかわからない呻き声を出したけど、聞かなかったことにした。


「種族は……ケット・シーか。ケット・シーにしちゃ、ちょっと違うが……亜種ってことなのか? つーか……称号持ちかよ、しかも『魔王の眷属』ってよ……。魔王って、嬢ちゃんのことだろ?」

 支部長がゲンナリした顔をしてモモを見た。

 モモはむふーと鼻息を荒くしてうなずいた。

「そーだっ! 魔王のくっしんの部下だぞ!」

「屈伸?」

 支部長が首を傾げたので注釈した。

「たぶん、腹心か屈指かのどっちかですね」

 支部長が大笑いしている。

 ……いや、ホントに魔王の眷属だったらしいけどね。たぶんペット枠の。

「スキルに、受け流しってあるが……なんだコリャ?」

 支部長が顎を撫でながら首を捻ったので、モモが叫んだ。

「見せてやる! チャーキチの頭を撫でてみろ!」

 とたんに副支部長が挙手した。

「はい! 私がやるわ!」

 そして、そーっとチャーキチに手を伸ばせば……。

 スッ。

 ……と、避けるチャーキチ。


「んー、嫌がらないでね。ちょっと撫でるだけ……」

 スッ。

 ……と、前足で受け流すチャーキチ。


「…………。ちょっと強引に撫でるわよー?」

 スッ。

 ……と、両前足で受け流すチャーキチ。


「こんな感じだ!」

 モモがドヤ顔をしているが……。副支部長のメンタルに大ダメージを与えたようだぞ。副支部長がしゃがみ込んで床にのの字を書き出したじゃないか。

 支部長が呆れた顔で言った。

「ペットだな」

「ペットですよ」

 だから、モモに防御魔術を覚えてほしいんですって。


 チャーキチのドッグタグが作られた。

 なぜか気合いが入った作りになっていて、革製の、前足につけるドッグタグになっている。なんなら人間用よりも凝ってるんじゃなかろうか。

「ここでつけていってくれない?」

 と、受付の女性が言うので、モモが自慢げにチャーキチにつけていた。

「かわいい~」

 と、女性陣が華やいでいる。

 まぁね、どう見てもペット以外には考えられない小さな魔物だもんね。


 帰り道、

「よーし、今日はチャーキチとモモが再会できた記念だ。チキンだけどステーキにしよう。プリンもつけるぞ」

 と、言ったらモモが万歳した。

「やったー!」

「チャーキチは、絶対に猫だと思うから鶏ササミと野菜を茹でて冷ましたヤツな。長生きしてほしいから」

「にゃーん」

 人間の言葉を理解して種族がケット・シーという猫は猫じゃないかもしれないが、もしもボディが猫だったら、変なものを与えていたら死んでしまう。今って動物病院ないからね。


 ――前世、猫を飼っていた。

 そこそこ長生きしてくれたが、後半は闘病生活で偏食が酷くなりキャットフードを食べなくなったので、自家製で作っていた記憶がある。

 ……というわけで、キャットフードのない時代でも困らないのだ。前世の俺を褒めたい。


「まずはキャットフードだな」

 鶏ササミを茹でて、細かく裂く。

 あと、野菜も必要。今日はカボチャとブロッコリーにしよう。

 カルシウムもだな……。卵の殻を摺るか。

 って考えていたら、ボリボリと音がして振り向いたら……。

「モモーーーーッ!?」

 モモがチャーキチに何か食べさせてるんだけど!?

「どうした兄ちゃん?」

 モモがキョトンとしているが。

「モモ!? チャーキチに何を食べさせてるんだ!?」

 変なものを与えたら、寿命が縮まるんだぞ!?

「魔石」

 と、モモが答えた。

 え、魔石!? って、石だよな!?

「チャーキチは魔物だから、魔石を食べるんだぞ? というか、魔石だけでいいんだぞ?」

 って言うんですけど……。

「マジで? ホントに?」

「うん」

 そうなのか……。見た目は猫だけど、種族はケット・シーだもんなぁ。

「じゃあ、せっかく作ったキャットフードは」

 いらないのか、と言いかけたら。

「ぁーん」

 甘えた声でチャーキチが鳴いた。

 そして、俺の足に前足ですがるように立つ。

「『せっかく作ってくれたから食べてやってもいい』って言ってるぞ!」

「到底そんな生意気なセリフには聞こえないぞ」

 モモ、盛ってるよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る