第11話 事情を説明しよう
戻ってFDECへ行くと、受付の女性が気を利かせて支部長を呼んでくれた。
「戻ったか。遅かったから心配したぞ」
なんでも、二日目が一番死亡率が高いそうだ。
初日は、よっぽど適性がない場合以外は怪我をするけど戻ってくるらしい。
様子見が多いからだ。
だが、その様子見で「たいしたことがなかった」と高をくくった探索者が引き際を見極められず深入りして死亡する……それが二日目、ということだった。
「深入りはしてませんね。ただ、ちょっとアクシデントがありました」
と、返し、支部長に相談に乗ってもらいたいと話した。
「ん? いいぞ。じゃあ、ちょっと来い」
と、支部長室に連れて行かれる。
入ったら副支部長もいたので、とたんにうつむいてしまった。
支部長は気にせずソファを勧めてきた。
「で、なんだ? 相談って」
「え、ええと、まずはこちらをご覧ください」
支部長に促された俺は、チャーキチを指す。
「…………? は!? それ、生きてんのか!?」
支部長が驚いて身を乗り出した。
モモが抱えてるチャーキチを、ぬいぐるみか何かだと思ったらしい。
「……ちょっと、いろいろあり、モモの従魔になりました」
「チャーキチって言うんだ! ……チャーキチ! 挨拶しろ!」
「にゃーん」
副支部長がガタ! と立ち上がったと思ったらモモに急接近している。
「なにこれ!? かわいすぎ!」
支部長は愕然としつつ、俺を見た。
「いろいろを説明しろ! お前、どこに行ってたんだよ!?」
俺はふんわりと誤魔化しつつ、とある通路に行ったら怪しげな箇所があったので探ったら、穴が空いた。そこから先に進んだら魔法陣が描かれている上に宝箱があり、モモが開けたらコレが入っていて、モモがソッコー仲良くなり、従魔として飼おうと決めた、と話す。
だいたい合ってる。
「「隠し通路に隠し部屋で宝箱!?」」
副支部長と支部長が声を揃えた。
「ハハハ、防具が入ってるかと思いきや、生き物だったので驚きました」
俺は頭をかきながら笑う。
「そりゃあ、驚くだろ……」
「でも当たりよ、大当たりよ! こんなかわいい魔物、今まで見たことないもの! これが現れたら攻撃できないわ!」
と副支部長が熱く語った。
俺も猫好きだったから無理かなー。……いや、ゲームなら容赦しないだろうけど。
従魔登録は、海外はあるが日本はほぼないらしい。
従魔として役立つのは、やはり大型魔獣。だが、大型魔獣は育成や管理が大変だ。
なので、日本では召喚が定番だそうだ。
「つーか、まだ隠し部屋があったなんてな……」
支部長が放心している。
まぁ、場所を知らなければまず到達できないよな。
それに、現在あるダンジョンは既に、すべての隠し部屋が暴かれている、という前提だろうし。
「ビギナーズラックですよ。もう無理です」
「どこにあったんだ!?」
「え? えーと……すみません、忘れました。地図を見ないようにして歩いていたら迷ってしまって」
大嘘ぶっこみました。しっかりすべて覚えてます!
支部長も察したらしい。
「いや、こっちが悪かった。そういう詮索はしちゃいけないんだったよ」
「え? そうなんですか?」
俺が驚いて尋ねると、支部長がうなずく。
「いや、あんまりにも驚いたから、つい訊いちまって悪かったな。それに、教えられても誰にも言わないぞ?」
慌てて弁解した後、咳払いをする。
「探索者は、ダンジョン内の資源を納品して稼ぐ職業だからな。地図だって、FDECで探索者に依頼して地図を作成してもらい、それに高額な報酬を支払っている。隠し部屋の情報は、下手をするとその探索者の稼ぎになるからな。だから、もしも教えられて価格の折り合いがつかない場合は誓約書で沈黙の誓いを立てる」
そういう感じなんだ。
実際教える気はない。
違和感などない場所を調べたからだ。
そこに隠し部屋へ行く通路がある、と知っていない限り、あるいは各階層のありとあらゆる壁天井床を調べ周らないかぎりは決して調べないであろう場所だし。怪しさゼロだから、「どこに違和感を抱いたんだ?」とツッコまれたらボロが出る。
……ただ、だいたいは察してしまうだろう。俺たちは二日目で、十階のボスを倒して戻ってきたのだから。
うーん、これは、誤魔化すためにボスを倒したことは伏せておいたほうがいいな。
「その、隠し通路に紛れ込んでいて遅くなりました。だから……今日はこれだけです」
昨日より、ちょっと多めの魔石を出す。
これで、二階、いって四階くらいだと思ってくれるだろう。
「わかった。……相談はそれだけか?」
支部長が切り上げようとして立ち上がりかける。
「いえ! あの、モモは防御魔術を使えないんです。それで……従魔もできましたし、どうにか防御魔術を覚えられないですかね?」
俺が慌てて支部長に尋ねると、支部長と副支部長は顔を見合わせた。
ついでにモモは渋い顔になっている。
支部長が難しい顔で腕を組んだ。
「……気持ちはわかるが、魔術はそういうモンじゃねぇんだよ。唱えりゃ魔術が飛ぶと思ってたら大間違いなんだ。適性、っつーのがあってな、防御系の魔術の適性がなけりゃ、どう足掻いても覚えられねぇ」
ガーン!
モモがかたくなに防御魔術を拒んでいたのは、覚えてないんじゃなくて覚えられなかったのを言いたくなかったのか!
愕然としつつモモを見たら、モモがムスッとした顔をして俺を睨んだ。
「兄ちゃん。あたしに使えないまじゅちゅはないぞ! でも、防御のまじゅちゅはあんまりヒツヨーセーないって思ってるから思い出さないだけだ!」
「嘘つけぇ」
俺はソッコーツッコんだよ。
「嘘じゃない!」
と、モモがキーキー怒るが、どうりで防御魔術の話を出すと逸らしたり渋い顔になったりするのかはわかった。
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