第10話 前世からの付き合いだった
猫。
それは、前世では普通にいたが、今世では絶滅してしまった伝説の動物。
猫だけではない。世界異変で多くの動物が絶滅し、生態系は変わったのだ。
言葉どおり、世界異変でダンジョンができなければ崩壊していただろう。
……その、絶滅したはずの猫がいた。
いや、ダンジョンの宝箱から出たんだから猫に見せかけた魔物なんだろうけど、それにしても猫にそっくりだな……。
――と、モモがプルプルしていた。
「ん? どうしたモモ」
声をかけたとたん。
「チャーーーーキチーーーー!!!」
と、泣きながら叫んで猫を抱きしめた。
「モモ!? どうした!?」
俺が慌ててモモの背中や頭を撫でさすると、モモがえぐえぐ泣きながら語り出す。
「こ、コイツ、は、あたし、の、ぜんぜ、の、人質、で、ころされ、た、たいせつ、な、子」
それを聞いた俺は絶句する。
…………マジか。転生して、ダンジョンの魔物になっていたのか!
チャーキチー……って名前なのか? 茶吉? まぁそこはどうでもいいが、その猫が転生したモモの仲間か似た魔物かなんて、わからないんじゃないか?
……と思ったけど、モモって俺が転生してるのも見抜いたから、たぶん本当なんだろうなぁ……。
その猫も嫌がる素振りを見せず、モモのするがままになっているし。コレが猫でも魔物でも、見知らぬ人間のなすがままにはならないだろう。
モモがしゃくりあげつつも落ち着いたのを見て、背中をポンポン叩いた。
「今世で出逢えて良かったな。まさか、ダンジョンの宝箱から召喚されるとは思わなかったよ……。あと、ダンジョンの敵として出遭わなくて良かった。その子は宝箱の中身だから持っていける、はずだよ」
ダンジョンの仕様ならそういうことのはずだ!
モモは、コクリとうなずくと、チャーキチー? 茶吉? をもう一度抱き上げた。
「で? 名前はなんて言うんだ?」
「チャーキチ」
……チャーキチか。斬新な名前だな……。いや、異世界だと格好いい名前なのかもしれない。
期待した宝は出なかったけど期待以上の宝は出たことだし、俺はチャーキチを抱えたモモを抱っこして十階へ戻った。
そして、モモに向き直る。
「さて。モモ、どうする? これからボスに挑むけど、このまま一緒にいたら事によっちゃ、チャーキチとお前が怪我をすることになる。防御魔術を思い出してくれたら、怪我しないと思うんだけど」
俺がモモに言うと、ムムム、とモモが唸った。
「…………確かに、チャーキチはまだ弱いから、怪我をするかもしれない。あと、勇者に見つかったら、また人質に取られてひどい目に遭わされるかもしれない」
モモがうつむき、パッと顔を上げた。
「思いだしたのがある! ちょっとやってみるぞ!」
「おぉ!」
自爆魔術とかはやめてね!
「むむ……いくぞー。【受流術】」
チャーキチに向かってかける。
……特に目立った変化はない。
「たぶん、これで大丈夫だ! チャーキチがもともと得意だった攻撃技だ!」
「攻撃かよ!?」
防御魔術をかけてくれと頼んでいるんだが!?
俺は諦め、ボスを倒したら支部長に相談しようと心に決めてボス部屋に入った。
うぉー、いたよ、ゴブリンキング。
とはいっても、俺よりも小さいけどね。
ただ、キングなだけあり、配下を従えている。
弓使いと魔術師、あと、切れない剣を持つゴブリンが並ぶ。
「モモ、俺の後ろから出るなよ! ……って、モモ!」
モモはトコトコ、と前に進むと、手をかざした。
矢や魔術が飛んでくるのも構わずに。
「【獄炎】」
モモが唱えたとたん、ゴブリンたちが一瞬にして業火に呑まれた。
矢も魔術もすべてだ。
俺は、呆気にとられ、口を開けて燃えるゴブリンたちを見ているしかなかった。
モモがこちらを振り返る。
「だから、言っただろ? ゴブリンなんかに防御のまじゅちゅなんていらない、って」
…………おっしゃる通りでした。
ドロップアイテムを拾いつつ、モモに言い聞かせる。
「でもなーモモ。そのモモの油断が、前世の死につながったんだろ? 防御魔術があったら、チャーキチもモモも死ななくて済んだんじゃないか?」
「…………そうかも、だけど…………」
「だろ? だから、油断せずに防御魔術を思い出そう? あと、俺だってモモが人質にとられたら、モモが大丈夫って言っても何もできないよ、殺されちゃうよ」
そう言うと、モモが黙ってうつむいてしまった。
「……思い出せたら、でいいから、な? 俺も、支部長に防御魔術を知らないか訊いてみるから。モモがそれを覚えたら、兄ちゃんもモモもチャーキチも、向かうところ敵なしだ。だろ?」
「…………うん」
モモは、納得いってないような感じで、しぶしぶとうなずいていた。
無事、ゴブリンキングを倒した。
ゴブリンキングのドロップアイテムは魔石と小汚い小さな冠。
これが討伐の証しになる。
また、ボス部屋は転移装置があり、元来た道を引き返さずに済むのだ。
「じゃあ、いったん戻ろう。チャーキチについても相談しないとな」
「おー!」
「にゃーん」
モモがチャーキチを抱きかかえつつ元気よく返事をした。
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