第9話 宝箱の中身は……え、ナニコレ?

 隠し部屋へつながる場所は、なんてことない行き止まり。見ただけではわからない。

 俺はモモに向き直った。

「モモ、頼みがあるんだけど」

「なんだ兄ちゃん?」

「俺の肩に乗って、天井を探ってくれないか?」

 ゲームじゃ、天井をタップしたら上に行けるようになったんだけど、現実ではタップなどできない。当たり前。

 つまり、探らなくてはいけないが、天井が高すぎて触ることすらできない。

 ジャンプをすれば届くが、探るまでは無理だから、モモを肩車……でも届かなそうなので、肩の上に立ってもらうことにした。

 モモに、肩の上に立ってもらって、出来るだけ垂直に、揺らさないように立ち上がる。

 モモはペタペタ触っているようで、「もうちょい右」「あ、右じゃなかった、左」とか指示してくる。


「……お? おぉー」

 モモが声を上げるので上を見ると、天井に穴が開いていた!

「よし! 当たりだ! でかしたぞモモ!」

 モモがドヤ顔で俺を見下ろしている。

 幼女を肩の上に立たせて見上げている俺と、腰に手を当て見下ろしている幼女は絵面的にヤバそうだが、俺たちは兄妹なので。

「上にいけそうか?」

「やってみる! 兄ちゃん、前進しろ!」

 縁まで移動し、モモが手をかけたので、俺はモモの足を持って、静かに上に押し上げた。

「モモ、軽いなー。もっと飯を食わせないとダメって気がしてきた」

「兄ちゃん、オトメに体重の話は禁句なんだぞ? テレパシーがないとか言われるんだぞ?」

 妹よ、誤字ってるぞ。今に始まったことじゃないけど。


 モモが上がったのを見て、

「落ちないように気をつけながら脇に寄ってくれ」

 と、言うと、モモは頭を引っ込めて脇に寄ったようだ。


 手をこすり合わせ、いざ!

 ……ってときに、何かが脇をかすめた。

「……ッ! いいところで!」

 けっこうな数のゴブリンが現れやがった!

「モモは頭を引っ込めてろよ! ちょっと雑魚を一掃するから!」

「兄ちゃん、それより早く上がってこい! かまってるとキリがないぞ!」

 と、モモが言ったので、それは確かにそうかな、と思い直した。

「わかった。……せーのっ!」

 ジャンプして、縁に手をかける。

 何かが当たったり掴んできたりする気配はあってちょっとヒヤリとしたら、

「【爆炎弾】」

 モモがやっつけてくれた。

 そのまま懸垂して身体を持ち上げる。前転し、無事上に滑り込んだら、天井が閉まった。

「ふぅ。掴まれたときはちょっとヒヤッとした」

「というか兄ちゃん、フツーに矢とか魔術が当たってたぞ。ビクともしてないぞ」

 と、モモに静かに指摘されて、なるほど、傷がつかないって本当なんだと思った。


 隠し通路を歩く。

 十字路があちこちにあるんだけど、自分でも、なんで覚えてんだ? ってくらいの冴え渡る勘で正しい道を選び歩いている。

 道を間違えると床が抜けて十階に落とされる。ゲームでは始めからやり直し……というだけで済むが現実だと死にはしないが足は挫くかもしれないしモモは間違いなく怪我をするので絶対に間違えられない。

 あと、万が一があるので今モモを肩車している。これなら落ちても頭を庇うようにすればモモは怪我をしない。

「ホント、兄ちゃんは心配性だなぁ。怪我なんてしないぞ?」

 と、俺の頭をぺちぺち叩きながらモモが言うが、落ちたこともないのになんで言い切れるんだ。だからといって、モモに試してもらうこともしたくない。


「……お、一発で正解を引けたな」

 最後の十字路を曲がり、その突き当たりを右に曲がったところに扉があった。

 モモを下ろすと、扉の前に立つ。

「ここが、隠し部屋で、中に宝箱がある」

「兄ちゃんすごいぞ! なんで迷わなかったんだ!?」

 モモがビックリしていた。

 フフフ、これは自慢していいかもしれない。

「兄ちゃん、前世の記憶があるって言っただろ? 隠し部屋への行き方を覚えてたんだ。あと、兄ちゃんの特技は脳内に正確な地図が描けること。前世の記憶と脳内マップで、今どの辺りにいるかもちゃーんとわかってるんだぞ」

 おまけに、この身体になってからは歩いたり走ったりしても、だいたいの距離がわかる。出発地点からどの方向へどれくらい来たか、ってのが感覚でわかるようになっちゃったんだよなー。

 ……あれ、俺ってもしかして、わりとすごい奴?


 モモがスゴイスゴイとぴょんぴょん飛び跳ねている。かわいい。

 俺は咳払いをすると、モモの手をつないだ。

「よし、いくぞ!」

「おう!」

 モモが空いているほうの手で握りこぶしを作り、振り上げる。

 俺は扉を開け、モモと中に入った。


 中は小さい部屋で、中央に装飾された台座がある。

 そこに、古びた宝箱が置いてあった。

 宝箱の下には、魔法陣が描かれている。

「……この中に、モモの防御力を上げる何かが手に入るはずだ」

「なんであたし限定なんだ? 兄ちゃんのかもしれないぞ」

 モモの予想をキッパリ否定した。

「それはない。ここで手に入るのはランダムだけど、パーティの一番ステータスの低い何かを補う防具のはずだ。体力、防御力、魔力っていろいろあるが、俺は攻撃力はあるし防御も支部長に買ってもらったTシャツを着ている。モモは魔力がありそうだし、防具はそのヘルメットだけだ。となると、必然的にモモの防御力を補う何かになるはずだ!」

 モモが呆れている。

「兄ちゃんの魔力かもしれないぞ?」

 モモがそう言ったので俺は首を横に振る。

「俺は魔術師じゃないから。モモは魔術師なので体力が出てくることはない。……はずだ」

 確か、ゲームではそうだった。

「……とにかく。モモ、宝箱を開けてくれ。開けた奴が使える何かが入っている、って確率が高いらしいから」

 モモは勇んで宝箱に向かって歩き、

「よーし、防御以外のなんかカッコいいの、でろー」

 とか言いながら宝箱を開けた。


 魔法陣が光る。


 光が収まり、中に入っていたものを覗くと……。

「にゃーん」

 俺は目が点になった。

 宝箱には、小さな小さな灰茶の雉猫が入っていたのだ。

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